31日間にもおよぶ独演会
「挑戦」の精神は師匠の教え
挑戦し続ける若手落語家のこれからは
浅田31日間連続で独演会をやる。どんな心境ですか。桃花さんいや、ちょっと無謀ですよね。しかも“ネタおろし”っていう。師匠の春風亭小朝が、以前、30日連続独演会、それも毎日ネタおろしというのをしたんですよ。その時、師匠が「大変だった」っていう表現をしたんですね。私、師匠から「大変」とか「つらい」とか、「しんどかった」みたいなマイナスのことばってほぼ聞いたことがなかったので、うちの師匠がそう言うぐらいだから相当だったんだろうなっていうのがどこかに残ってたと思うんですけど。浅田大変だと言わない師匠が「大変だ」と言ったことに挑戦する。なぜそんなに自分に負荷をかけるんですか。桃花さん負荷かけてるように見えます?浅田見えます。31日やるだけでも、まず負荷。新しく覚えたネタを披露するのも負荷。師匠が大変だと言っていたことをやる。もう負荷。(2人の声がそろって)負荷、負荷、負荷…(笑)
桃花さんそうですよね。自分を信じてないところもあるのかもしれないです。そういう負荷をかけて、私のドキュメンタリーとして、失敗しようが、七転八倒しようが、その姿も含めて見ていただくみたいな感覚になったんだと思います。そりゃ失敗は恥ずかしいですよ。そんなものないほうがいいんですけど、全力・マジ・100%を見ていただいたら、失敗も、たぶんお客さんの何かの救いになるっていうことですよね。100%でぶつかれば、絶対に何か持って帰っていただけるって思うからですかね。
桃花さんが挑戦をする生き方の手本となっているのが、師匠の春風亭小朝さんです。
桃花さん弟子入りをお願いするために、どうやったら会えるんだろうと思って。師匠が昼夜で独演会があったんですよ。この昼夜の間に楽屋に突撃すれば、絶対に会えるだろうと思って、昼の公演が終わった瞬間に、楽屋に「すいません!たのもう!」っていう感じで、バーンと入っていって会いました。浅田断られるかもしれないという思いはありませんでした?桃花さん100%断られるつもりで行きました。師匠が、せったに肌着の姿で、パタパタって出てきてくれて。「えっ、君、落語やりたいの?」と言って、ちょっと笑ったんですよ。「笑われた。やっぱりダメなのかな。女の落語家は難しいのかな」なんて思いながらも、「じゃあ、ちょっとおもしろいから」と言って、いすを用意してくれて高座の脇でしゃべったんですよね。「君はどういう落語家になりたいの?名人とか真打ちとかを目指してるの?」って言われたときに、私が「いや、もう、名人とかになれるとは思ってませんけど、落語がやりたいんです!」って言ったら、師匠が後ろのマネージャーさんに向かって、「この子とるよ」って言ったんです。断られると思ってますから。「えっ!とってもらえるんですか?」、「うん。あしたから現場来てね」って言われて。
浅田師匠の小朝さんってどういうふうに指導してくださるんですか。桃花さん師匠の課題って、いつも、その時の私にとっては「えっ!無理!無理!無理!」みたいな、ちょっと大変なものなんですよ。ただ、「大丈夫、やりなさい」って言われて、もう必死で、七転八倒、失敗しながらもなんとか乗り越えると、数年後に、こういうことを教えてくれたんだなとか、こういうものが身に付いたなって分かるような課題をいつもくれますね。浅田具体的にどういう課題ですか。桃花さん例えば師匠の独演会に前座で出させてもらうときに、「じゃぁ、きょうはこのネタをやってね」って直前に言われることがあるんですね。浅田直前!?直前に言われたら準備しようがないですよね。桃花さん当日なのでね。そこまでにきちんとお稽古しておきなさいっていうことだと思うんですよね。でも、習ったばっかりで失敗したりもしてましたね。「狸札」っていう、タヌキの札というおはなしをやったんですけど、タヌキが「こんばんは」って来てから先の展開が分からなくなっちゃって、止まっちゃって。お客さんに「すいません、ここからタヌキどうするんでしたっけ?」って聞いたことがあって。「すいません、巻き戻します」って言って、もう1回タヌキが来るところからやり直したことがあります。浅田それも機転ですよね。そうやって乗り越えてこられたんですね。桃花さん「女の人に古典落語は難しい」とも言われる中で、私にできることを考えてくれたり、教えてくれたり、師匠にはものすごく愛情を注いでもらったと思っていますね。今も何かに挑戦するときの気持ちは、師匠がつくってくれたものだなって思います。弟子入りしたときに、「僕はダメだと思ったら、どんなに芸歴を重ねても、やめてもらうからね」って言われたんですね。それが怖かったんですよ。ズンときたんですけど、ただ、師匠が「もうダメだよ」って言わないということは、まだいていいんだって。そのことばが逆に支えになった。怖いことだなとも思ったんですけど、それは、私はまだここにいていいんだ、大丈夫なんだって、怒られながらも思えたのが強かったと思います。
師匠からの教えを胸に、15年にわたる修行を経て、2022年に真打ちとなった桃花さん。31日間連続独演会のほかにも、これまで、出演者全員が女性という寄席「桃組」を企画するなど、落語界で異例の試みに挑戦し続けています。
桃花さん真打ちになるときに、とにかく「まだ私には早い」とか言わずに、やりたいことをやろうと思ってきたので、なんかちょっと詰め込んじゃっていますね。でも、こういう時期じゃないとそれはできないと思っているので、あえて詰め込ませてもらってますね。ちゃんと計画立ててできる人だったら、たぶんコツコツできるんだと思うんですけど、私はそういうことができないからこそ、「言っちゃえ!」みたいな感じで、言ったらやるしかないっていう、自分を追い込んでいくみたいな感じだと思います。だから、かっこいいことではなくて、「あっ言っちゃった!どうしよう、どうしよう!」みたいな。それを、なんとかさせる。なんとかならなかったこともいっぱいありますけどね(笑)でも、それはもう「なんとかする」に変換していくっていう感じですね。浅田落語という伝統がある世界の中で、新しいことに挑戦していく。それができるのはなぜですか。桃花さんそれが落語家だと思っているからだと思います。落語家として、突破していく姿を見ていただく以外、私はないかなと思っている。落語には人生が全部出ますし、その人を見に来る芸でもあると思うんですね。やっぱり、私のエネルギーが皆さんに伝わるものだと思っているので。浅田だから挑戦するんですね。桃花さんそうです。挑戦の形はいろいろ変わると思うし、すごく地味なものになるかもしれないし、内々のものになるかもしれない。突破、突破、突破していくとか、前のイベントを超えるのが「挑戦」という感覚でもないんですよね。私の等身大を出す何かを探していくっていう感じですね。自分の持っているものをそのまま正直に出せるような落語家になりたい。正直って難しいじゃないですか。かっこつけちゃったり、取り繕っちゃったりっていうのがない、自分が出せるようになりたくて。それがお客さんの救いとか、何かに絶対なると思うんですね。だから、私が勇気を持って挑戦していきたいなって。それをお客さんにお渡ししたいです。
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