電源構成の多様化や送電網システムの安定化を支援するテック企業が増えている
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

送電網には大きなリスクが待ち受けている。

異常気象の頻発化とサイバー攻撃の高度化により、送電網の安定はますます脅かされている。データセンターやEVによる電力需要の増加が追い打ちとなる一方、太陽光や風力など持続可能だが発電量がまだ不安定な電源の推進も事態をさらに複雑にしている。

2021年の米テキサス州の大寒波や22年の米カリフォルニア州の熱波などで示されたように、電源構成の多様化と送配電システムの安定が急務となっている。

そこで、各国政府や企業は「スマートグリッド」技術を強化している。例えば米国は最近、スマートグリッドに300億ドル以上を投じる方針を明らかにした。米フォード・モーター、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米グーグルなど産業界やテック業界のリーダーは、エネルギー企業と提携して仮想発電所(VPP)の開発に取り組んでいる。一方、米キャタピラーは建設業や鉱業向けのマイクログリッド(小規模電力網)システムに多額の資金を投じている。

以下の図では送電網テック15分野の149社を示した。

送電網テック市場マップ(注:この図には上場・未上場の存続企業を記載している。この分野を網羅してはいない)

ポイント

1.送電網技術には巨額の設備投資が必要となる。送電網テック15分野のうち9分野がエクイティ(株式)による調達額が10億ドルを超えている。調達額が最も多いのは「制御・運用技術(OT)セキュリティーツール」と「グリッドストレージ事業者」で、それぞれ30億ドル近くに上る。

2.スマートグリッドは送電網の効率や耐性、安全性を高める大きな可能性を秘めている。分散型電源(DER)やスマートメーターなどの技術の活用により、再生可能エネルギーを取り込み、エネルギーの流れを最適化し、停電を検知する。

3.EVを送電網に組み込むことで、需給ギャップを軽減できる。双方向充電ができるEVは電力需要のピーク時に電力を供給し、少ない時間帯に充電することで、送電網にダイナミックに貢献できる。EV所有者は売電収入も得られる。

各分野の概要

仮想発電所事業者

太陽光発電、バッテリー、EVなどの分散型電源を束ねる企業。リアルタイムの制御、電力の最適化、機械学習の搭載を推進するソフトウエアプラットフォームにより、分散型電源を管理する。P2P(相対)電力取引などの活動を通じ、地域社会の参加や分散型電源の所有も推進する。送電網の安定、電力の効率的な管理、再エネ取り込みのニーズがこの分野を推進している。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:1400万ドル、2件

▽この1年の従業員数の増減:+17%

▽この分野の企業:Generac Grid Services、Peak Power、OhmConnect、Shifted Energy、Virtual Peaker、Sunverge Energy、PowerFlex、Schneider Electric、Leap、BluWave-ai、Plentify、David Energy、Camus Energy、Enode、Polariu、Plexigrid、React、Utilidata、Cleanwatts

電気・ガス・水道の資産管理プラットフォーム

電気・ガス・水道など公益事業の資産を最適化する分野。人工知能(AI)と機械学習のアルゴリズム(計算手法)を活用した予知保全により業務を効率化し、ダウンタイム(故障などで使用できない時間)を最小限に抑える。リアルタイムのモニタリングとアナリティクス(分析)で意思決定を支え、既存システムに対応する。カギを握るイノベーション(技術革新)は、健全性をモニタリングして異常を検知する(これにより伝送路の容量と安全性を高める)非接触センサーや、地理空間と予測分析を使って計画立案やリスク管理をするクラウドベースのネットワークモデルなどだ。公益事業は資産管理プラットフォームを使うことで、信頼性を高め、コストを削減し、規制に対応できる。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:400万ドル、2件

▽この1年の従業員数の増減:+3%

▽この分野の企業:Datch、Stratio、Reactive Technologies、Intertrust、Clir Renewables、LineVision、Bidgely、Amperon、Recurve、4M Analytics、Neara

太陽光発電と蓄電池をセットで提供する企業

顧客が必要とする電力量に応じてシステムをカスタマイズし、最先端の技術とデータ分析により発電効率と蓄電を最適化する企業。設計、設置、保守管理、サポートなど総合的なサービスを提供し、貯蔵した電力の集約を可能にする。二酸化炭素(CO2)排出量と電気代の削減を目指す住宅や商業部門の顧客に、費用対効果が高く安定したエネルギーシステムを提供するのが目的だ。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:2億4400万ドル、2件

▽この1年の従業員数の増減:+27%

▽この分野の企業:Loom Solar、Sunsave、Sunology、Starsight Premier Solar Group、Cultivate Power、ConnectDER、Powervault、Palmetto、Modern Energy、Efficient Energy Technology、Amber、NineDot Energy、Agilitas Energy

マイクログリッド/オフグリッド(電力自給)事業者

太陽光、バイオマス、有機廃棄物などの再エネソリューションを専門とする企業。最先端の太陽光発電とホームオートメーション技術により、持続可能な開発を推進する特製のマイクログリッド環境を提供する。収益を得られる太陽光のマイクログリッドプロジェクトを新興市場に提供して電力安定供給とサステナビリティー(持続可能性)を支援し、廃棄物を再エネにすることで温暖化ガス排出量の削減に貢献する。エネルギーの自給自足、気候変動による影響の緩和、十分なサービスを受けていない地域でのエネルギー安全保障の強化がこの分野の需要をけん引している。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:9500万ドル、1件

▽この1年の従業員数の増減:+7%

▽この分野の企業:Pess Energy、SparkMeter、Infinitum Electric、Mainspring Energy、Instagrid、Yotta、Xendee、Zendure、d.light、Odyssey、VoltaGrid、BoxPower、Utility Innovation Group、Ryse Energy

デマンドレスポンス(DR)プラットフォーム

電力使用量をモニタリングして制御し、電力会社や企業が電力需要に柔軟に対応できるよう支援する分野。DRプログラムは送電網の安定、電力の効率的な利用、持続可能なエネルギー源への移行を推進する。この分野の企業は再エネの取り込みとスマートグリッド技術による電力使用の最適化を目標に掲げ、DRプログラムをエンド・ツー・エンドで管理する。エネルギープロジェクトの融資や管理も手掛ける。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:1700万ドル、1件

▽この1年の従業員数の増減:+10%

▽この分野の企業:WeaveGrid、Blue Frontier、Sympower

送電網の点検業者

送電網と関連インフラの点検・保守管理を手掛ける企業。AIと機械学習を活用して保守管理計画を改善し、「視界外飛行(BVLOS)」が可能なドローン(小型無人機)を使って直接目で確認することなく徹底的な検査を実施できる。ドローンが収集した地理空間データと画像に基づいて保守管理と植生管理を効率化し、電力供給を安定させる。地下の鉄パイプラインを遠隔で地図に示して掘削作業の必要性を減らす非接触の磁気検査技術や、遠隔感知・測量ツールを提供し、鉱業にも恩恵をもたらしている。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:5000万ドル、2件

▽この1年の従業員数の増減:+14%

▽この分野の企業:Sharper Shape、Aerodyne Group、eSmart Systems、Ursa Space Systems、Censys Technologies、Fleet Space Technologies、Skydio、Overstory、Skyqraft、LiveEO、AiDash、Percepto、Noteworthy AI

グリッドストレージ事業者

送電網の安定、再エネ源の取り込み、DR戦略を推進する蓄電システムを手掛ける企業。低コストで寿命が長く、高いエネルギー密度と効率を備えた蓄電技術を提供する。再エネやマイクログリッドに活用できるモジュール式の蓄電システムや、最先端のパナジウムレドックス(酸化還元)電池などを提供する企業もある。この電池には長い寿命と高い安全性、寿命が尽きた後のリサイクル、リアルタイムの発電制御といった特長がある。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:1億5000万ドル、1件

▽この1年の従業員数の増減:+51%

▽この分野の企業:Ambri、Form Energy、24M Technologies、Connected Energy、Eos Energy Storage、Cadenza Innovation、FlexGen Power Systems、Antora Energy、Malta、Powin、Moxion、Energy Dome、Hyme、Rondo Energy、Hydrostor

デジタルツイン―産業インフラ&資産

実際の資産やシステム、プロセスを模した仮想レプリカを提供し、工場やプラント、装置など産業資産の仮想モデルを作成する分野。こうしたデジタルレプリカの活用により、企業は業務をリアルタイムでモニタリングし、最適化できる。産業資産のパフォーマンスを包括的に把握できるため、業務効率の改善、保守管理や意思決定の強化が可能になる。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:なし

▽この1年の従業員数の増減:+23%

▽この分野の企業:Sensorz、NetThink、Luminous Group、Veerum、Dassault Systemes、Trimble、Samp、PreVu3D、Akselos、Autodesk、Neara、RIIICO

送電網向けソフトウエア

持続可能なエネルギーへの移行と送電網の最新化を支援するため、エネルギー管理、分散型エネルギーシステム、蓄電、脱炭素化のソリューションを提供する分野。データ分析や機械学習、自動化を活用してコスト削減、効率改善、耐性強化を支援する。企業や電力会社が経済や環境の目標を達成し、規制の改定や環境リスクに対応できるようにする。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:1000万ドル、1件

▽この1年の従業員数の増減:+11%

▽この分野の企業:Redex、GridPoint、Peak Power、Virtual Peaker、Fermata Energy、Sunverge Energy、FlexGen Power Systems、Leap、Okra、Camus Energy、Gridware、Polarium、Ostrom

V2G(ビークル・ツー・グリッド)

EVを送電網の電源として活用し、電力需要が少ない時間帯にEVを充電し、多い時間帯には電力を送電網に戻す分野。これにより送電網の需給バランスを維持し、発電容量を増やす必要性を減らし、再エネの取り込みを支援する。蓄えた電力を送電網に販売できるため、EV所有者に収入源も提供できる。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:なし

▽この1年の従業員数の増減:+16%

▽この分野の企業:Peak Power、Fermata Energy、The Mobility House、IoTecha

パワーグリッド管理プラットフォーム

ソフトウエアを使って送電網の効率、安定性、持続可能性を高める分野。こうしたプラットフォームはスマートグリッド通信、AI、ビッグデータ分析を搭載して負荷を予測し、電力を効率的に管理する。この分野の企業はVPPとDRを通じて再エネと分散型電源の導入を支援し、電力管理ツールを提供する。オープン規格と相互運用性を重視することで既存インフラに対応し、陳腐化しない電力システムの構築を支援する。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:なし

▽この1年の従業員数の増減:+12%

▽この分野の企業:Equilibrium Energy、raicoon、Hello Watt、Optiwatt、FUERGY

商業用&産業用エネルギー管理

企業や工場の節電を支援する分野。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」機器や制御システム、ソフトウエアを活用し、冷暖房空調装置や照明などのエネルギーを節約する。エネルギー効率を改善できるシステムを初期費用なしで提供し、節約された電気代でシステムの費用を支払う「エフィシェンシー(効率化)・アズ・ア・サービス」を手掛ける企業もある。企業はエネルギー管理ソフトウエアを活用して太陽光パネルや風力タービンなど再エネ源を導入し、AIで節電の機会を予測できる。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:なし

▽この1年の従業員数の増減:+9%

▽この分野の企業:GridPoint、Verv、node.energy、Schneider Electric、Verdigris Technologies、Siemens、BeeBryte、Gridium、Bidgely、Enertiv、Brainbox AI、aedifion、Infogrid、Redaptive

OTセキュリティーツール

マルウエア(悪意のあるプログラム)やランサムウエア(身代金要求型ウイルス)など有害で破壊的なサイバー脅威から産業制御システムなどのOT資産を守るツール。企業が自社のOTシステムの健全性や可用性、機密性を維持し、金銭的被害、イメージダウンなどサイバー攻撃による悪影響を防ぐよう支援する。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:2億5200万ドル、5件

▽この1年の従業員数の増減:-1%

▽この分野の企業:zeroRISC、Armis、SecuriThings、APERIO Systems、Nozomi Networks、Palo Alto Networks、Ordr、ForeScou、Dragos、Asimily、Cydome Security、Fend、Phosphorus、Claroty、Microsec、Goldilock、Fortinet、WhizHack Technologies

地下マッピング

地下の特徴や構造を調べて地図に示す分野。地中探査レーダー、高性能センサーのLiDAR(ライダー)、電磁誘導などの最先端技術を使い、地下を地図や3Dモデルで表示する。公共事業、石油・ガス、鉱業などにサービスを提供し、プロジェクトの計画立案、リスク評価、資産管理に役立つ情報を提供する。精密な地下マッピングは掘削リスクを最小限に抑え、複雑な地下環境で資源の利用を最適化するために必要だ。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:7500万ドル、1件

▽この1年の従業員数の増減:+11%

▽この分野の企業:Brickeye、USIC、4M Analytics、Prisma Photonics、RodRadar、Exodigo

高度計量インフラ(AMI)事業者

公益事業と顧客のメーターとの双方向通信システムを開発、展開し、リアルタイムのデータ収集と分析、効率改善、停電の検知、正確な請求を可能にする企業。電力会社はAMIを活用することで送電網の信頼性を高め、再エネ源を取り込み、DRに対応できる。スマートグリッド技術の推進、節電に関する規制、消費者の詳細な電力使用情報に対する需要の高まりがこの分野を後押ししている。

▽24年に入ってからの株式調達額と件数:なし

▽この1年の従業員数の増減:+17%

▽この分野の企業:SparkMeter、Copper、Amperon、Amberflo、KevinLAB、Ostrom

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