自信に満ちた説得力のある口調でAIの未来を語るアルトマンに、世間は称賛を送り続けてきた HAIYUN JIANGーTHE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO
<チャットGPTで衝撃を与え、突然の解任とスピード復帰をめぐる奇妙なお家騒動で世界の注目を集めたオープンAIのCEO「サム・アルトマン」。その舞台裏で何があったのか>
サム・アルトマンの敗北は、最大の勝利だったのかもしれない。
昨年11月にオープンAIから「追放」された2週間後に、アルトマンは米タイム誌の年間最優秀CEOに選ばれた。
オープンAIを監督する非営利団体の理事会(取締役会に相当)が、CEO解任を突然発表した後も、従業員の大多数はアルトマンを支持。
オープンAIと提携して巨額の投資をしているマイクロソフトのサティア・ナデラCEOは数日のうちに、アルトマンは「同僚たちと共に」同社が新設するAI(人工知能)の研究チームを率いると明らかにした。
アルトマンの解任とスピード復帰をめぐる奇妙なドラマは、彼の名声を別次元に押し上げた。
「AIの顔」の称号をめぐるグローバルな競争で、頭ひとつ抜け出た格好だ。
アルトマンのメンターでもある伝説の投資家ポール・グレアムはこう書いている。
「サムはスティーブ・ジョブズと並んで、私がスタートアップに助言する際に最も頻繁に言及する創業者だ。デザインに関しては『スティーブならどうするだろう』と彼らに問いかけ、戦略や野心については『サムならどうするだろう』と問いかける」
グレアムはアルトマンに会ったとき、ビル・ゲイツもこの年頃はこんな感じだっただろうと思った。
今から15年前のことだ。
しかし今回の解任と復帰劇によって、2人の伝説の創業者にそれぞれ重ねられていたアルトマンの姿は一つになりつつある。
何しろジョブズも自分が創業したアップルを追われたが12年後に復帰し、世界で最も重要な企業に育て上げた。
そして、ゲイツが築いたマイクロソフトの迅速な対応は、アルトマンが人類の未来を託し得る人物だというシグナルを社会に送った。
マイクロソフトのナデラCEOは解任騒動でもいち早くアルトマン支持を表明 JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGESアルトマンが一時的に更迭された主な理由は、その積極的な資金調達に理事会が腹を立てたからだ。
AIの危険から人類を守る非営利団体として構想された組織が、増大するコンピューティング需要を支える資金を確保するために、さらにはAIが生むであろうカネ(数兆ドル!)を獲得するために、アルトマンは中東の独裁政権の政府系ファンドを含む資金調達に力を入れ始めていた。
企業の利益か、世界の利益か
米議会や一流メディアと親しくなったアルトマンは、耳当たりが良く説得力のある言葉で、自分の会社がAIのリスクに対して非常に慎重であることを説明しようと腐心した。
非営利団体の理事会が営利部門も含めて監督するという非常に特異な組織構造や、アルトマンが規制を歓迎する姿勢、彼自身がオープンAIの株を多く保有していないことを強調し、世間はほぼ称賛一色だった。
しかしアルトマンを批判する人々に言わせれば、彼はオープンAIを独占企業のように運営し、設立時の目標とは正反対のものをひたすら追いかけている。
アルトマンは2015年に、グーグルがディープマインドを買収した余波の中、イーロン・マスクとオープンAIを共同設立した。
グーグルがAIの世界を掌握する未来を懸念した2人は、上場企業が追い求めなければならない利益ではなく、世界の利益のために働きたいと考えた。
しかし、やがてアルトマンは会社の全権を握り、投資家の数十億ドルの資金を追い求めるようになった。
今回の奇妙な追放劇とアルトマンがさっそうと再登板した理由について最も深い洞察は、私が勤めるジョージタウン大学のウェブサイトに掲載された地味な学術論文に求めることができる。
論文の共著者で著名なテクノロジー学者のヘレン・トナーは、次のように書いている。
「オープンAIは、著作権問題やデータ注釈者の労働条件、ユーザーが安全制御のルールを回避する『脱獄』に対する脆弱性など、チャットGPTとGPT-4の公開に関連して多くの安全性と倫理上の問題でも批判を浴びている......これとは違って、AIの主な競争相手であるアンソロピックは、安全性を重視する企業として認められたいという願望が一貫して見てとれる」
トナーが共同執筆した論文「意図を解読する:人工知能とコストの高いシグナル」 NO CREDITトナーはアルトマンを解任した理事の1人だ(彼のCEO復帰後に刷新された理事会には残っていない)。企業の取締役がライバル企業の取り組みを公然と宣伝するのだから、表面的には奇妙に思える。
ヘレン・トナー JEROD HARRIS/GETTY IMAGES FOR VOX MEDIA「王様は裸だ」と叫ばれても
ただし、そこにはさらに深い人間関係がある。
トナーが、オープンAIの理念の中核である安全性で彼らを凌駕していると指摘したアンソロピックのCEOは、オープンAIの創業直後からアルトマンと共に働いていた。
彼、ダリオ・アモデイがオープンAIを辞めた理由は、安全に関する方向性をめぐる意見の相違と、商業的になりすぎることへの失望だった。
アモデイはアルトマンの追放を画策したが失敗し、複数の幹部と共に会社を去って21年にアンソロピックを設立した。トナーの論文は、要するに「王様は裸だ」と叫んでいる。
アンソロピックのアモデイCEO KIMBERLY WHITE/GETTY IMAGES FOR TECHCRUNCHこの論文とアンソロピックの設立は、AI開発における「効果的利他主義(EA)」を最も簡潔に表しているかもしれない。
EAは、AIは人類に利益をもたらす存在であるべきだとする。
倫理的な安全制御にも細心の注意を払う。
彼らも技術革新と進歩を目指すが、社会的な安全性と技術の進歩のどちらを選ぶかとなれば、考えるまでもなく常に前者を優先させる。
一方で、より利益志向の強いアルトマンの考え方は、迅速な技術革新を重視してAI製品の商業化を推し進める「効果的加速主義」の最たる例だ。
彼らは安全制御が必要であることは理解しつつ、商業的な目的と人類の安全との間で綱渡りのようにバランスを取ろうとする。
今は明らかに効果的加速主義が優勢だ。
市場(マイクロソフトも)と開発チームと社外の重鎮たちはアルトマンを支持している。
オープンAIの新しい理事会にはラリー・サマーズ元財務長官も加わった。
ハーバード大学の元学長で著名な経済学者でもあり、まさにエスタブリッシュメントだ。
ビル・クリントンとバラク・オバマ両政権で実質的に経済を運営した人物が、アルトマンに太鼓判を押しているのだ。
結局のところ、ジョブズやゲイツのときと同じように、世界征服を目指す主要なAIプレーヤー(メタのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、さらにはマスク)とオープンAIが一線を画すことができるかどうかは、アルトマン自身に懸かっている。
アルトマンは解任されたことを、父親の死を知ったときのような「予想外の混乱と喪失感」だったと語った。
もっとも、彼が騒動を通じて見せたかったのは、自分は「ハリケーンの中心に立つのがうまく」、うまくいかないときも、冷静さを失わずに思慮深い決断を下せるというところだろう。
そのようなときに思慮深い決断を下せることこそ、AI時代に人間が必要とする力ではある。
今はアルトマンが「AIの顔」だ。彼に人類の未来を託して本当にいいのかどうかは、また別の話なのだろうが。
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