太陽に接近し、尾をのばすポン・ブルックス彗星=山梨県富士河口湖町で2024年3月14日午後7時9分、手塚耕一郎撮影(10センチ屈折望遠鏡使用、30枚の画像を加算平均合成)
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 2024年、二つの彗星(すいせい)に注目が集まっています。まさに今、太陽に接近しつつある「ポン・ブルックス彗星」と、秋に大彗星になると予想されている「紫金山(ツチンシャン)・アトラス彗星」です。

 長い尾をのばし、数日から数カ月かけて星空を駆け抜ける彗星は、一期一会の天文現象として多くの注目が集まります。連載「星空と宇宙」、今回は二つの彗星を紹介します。

尾をのばすポン・ブルックス彗星(左)と、アンドロメダ銀河=山梨県富士河口湖町で2024年3月14日午後7時6分、手塚耕一郎撮影(30枚の画像を加算平均合成)
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 ポン・ブルックス彗星は、約71年ごとに太陽に近づく短周期彗星です。1812年にフランスの天文学者ジャン・ルイ・ポンによって発見されました。83年に米国の天文学者ブルックスが発見した彗星が、同じものだったことが分かり、2人の名がつけられました。

 今年4月21日には太陽に0・78au(天文単位「au」は、地球と太陽の距離=約1・5億キロを1とした単位)まで最接近します。この彗星は、既に3月上旬には双眼鏡で容易に見ることができました。写真では長い尾がのびている様子もわかります。4月に入り、日没後の西空で4等台の明るさになると予想されていますが、太陽に最接近すると観察が難しいため、見られるのは4月半ばまでになりそうです。

2024年4月10日午後7時20分の「ポン・ブルックス彗星」の位置(東京での場合)
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 4等台は、暗い夜空なら肉眼で十分見ることができる明るさです。しかし、今回の彗星の位置は低空で、日ごとに高度が下がります。また10日以降は月が次第に明るくなるので、見えづらくなります。星ははっきりとした点光源ですが、彗星は雲越しに眺めた星のような、光が拡散した姿です。そのため、空が少しでも明るいと、ぼんやりした姿が背景にとけ込んで見えにくくなるのです。

 ポン・ブルックス彗星の見つけ方ですが、4月上旬には彗星はおひつじ座の中にあります。周囲に明るい星が少ない中で、良い目印となるのが、マイナス2等の木星です。日が沈むと西空で最も明るく輝く木星から、右下方向に彗星が見えます。

 4月10日の日没後には、さらに右下近くに細い月があり、木星、彗星、月が並ぶ美しい光景が見られるかもしれません。首都圏では空が明るすぎて厳しいかもしれませんが、ぜひ西空が開けた、ちょっと暗い場所で双眼鏡を手に探してみてください。

10月16日午後6時の「紫金山・アトラス彗星」の位置(東京での場合)
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秋には期待の「紫金山・アトラス彗星」

 続いては、今年の目玉と言われる「紫金山・アトラス彗星」についてです。こちらは中国の紫金山天文台と、地球に衝突する恐れのある小惑星を監視するシステム「アトラス(ATLAS)」によって発見された新彗星です。初めて太陽に接近し、二度と戻ってこない可能性が高いと推測されています。

 発見された2023年1月には、太陽から遠く離れた木星と土星の軌道の中間あたりに位置していましたが、24年9月27日に、太陽から約0・4auの距離まで接近します。そして10月中旬から下旬にかけて、日没後の西空で0等級より明るくなり、長い尾を引いた様子が肉眼でも観察できるのではと期待されています。

巨大彗星として注目されたヘール・ボップ彗星。マイナス等級の明るさとなり、明るい尾を引いた彗星らしい姿が東京の市街地でも観察できた=東京都日野市で1997年3月17日、手塚耕一郎撮影
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 肉眼でなんとか見られる明るさの彗星は、数年に1度程度は訪れています。しかし北半球で、市街地でも肉眼で簡単に見つけられるような明るい彗星は、1997年の「ヘール・ボップ彗星」以降現れていません。ただ、大彗星になる期待が外れ、明るくならなかったものもいくつかあります。

 彗星の明るさや尾の長さは、地球との距離、太陽との距離の他、サイズやガスの量など複雑な要素があり、正確な予測は難しいのです。太陽に近づいた時に彗星の核が崩壊して消滅してしまうこともあります。また、事前に騒ぐほど、明るくならないという天文ジンクスもあります。久々の大彗星が夜空に輝くことを静かに期待して、西の空に注目しましょう。【手塚耕一郎】

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