世界遺産の高野山には、町の人口の500倍を超える観光客が訪れ、違法駐車や昼食が食べられないなど深刻なオーバーツーリズムに直面しています。対応に追われる町を取材しました。
■“天空の聖地”高野山「オーバーツーリズム」
標高1000メートル級の峰々に囲まれた世界遺産・高野山。1200年前、弘法大師・空海が開いた“天空の聖地”は厳かに人々を迎え入れます。 住職「半年先くらいまで満室」 創作精進料理店 代表取締役
「テーブルについても、40分・50分待ち」 高野町長
「年間140万人超のお客様。今の人口で支えていくことが、非常に先々苦しくなっていく」 しかし、人口2600人の町を訪れる観光客は、なんと年間140万人。全国各地で問題になっているオーバーツーリズムは、天空の聖地でも住民たちの頭を悩ませていました。
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■「高野山が繁忙期になると食事できない」■「高野山が繁忙期になると食事できない」
訪れたのは、和歌山県・高野町にある真言宗の総本山・金剛峯寺。この日も多くの観光客の姿がありました。 大阪から来た家族「ものすごく心が洗われるような感じで良かったです」 仏像を見に来た家族
「当初2時間くらいしか、高野山にいる予定なかったんですが、思った以上に広く観光できるので、きょうはここで一日終わってしまうかと」
欧米を中心とした海外からの観光客も、円安を背景に急増しています。
フランスからの観光客「日本の歴史的な宗教や文化、伝統を知りたくて来ました。すべてがフランスと違っていて興味深いです」 デンマークからの観光客
「ここは特別な場所なんだと感じます。大小さまざまな寺院や歴史的な建物がとても美しい」 東西6キロ・南北2キロにわたって広がる盆地を中心に、117の寺院と51の宿坊がある高野山。平安時代から1200年続く寺院を訪れると、住職が欧米からの観光客の対応に追われていました。 宿坊でも、英語表記の案内が整備され、布団になじみがない外国人観光客向けにベッドも設置されました。 高野山真言宗 別格本山 西禅院
後藤慈延住職
「連日、満室の状況で予約をいただいておりますが、外国の方は特に先々の予約をいただいていて、半年先くらいまでいっぱい。今の段階でお盆の予約をされても、いっぱい(満室)の状況ですね」 観光客が押し寄せているのは、宿泊施設だけではありません。 高野町 観光振興課課長 茶原敏輝さん(60)
「高野山は、ごま豆腐が特産。ここは、ごま豆腐を製造する店が直営するお食事処ですが…」
この店の名物は、ごま豆腐を使った創作精進料理です。午後2時を過ぎても、昼食を求める人たちの行列が途切れず、店先に設置された端末には「15組待ち」と表示されていました。
茶原課長「高野山が繁忙期になると、お食事ができない」
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■住民から懸念も…観光客による救急車利用■住民から懸念も…観光客による救急車利用
至る所に観光客があふれる町で今、大きな問題になっているのが、違法駐車です。歩道を塞ぐように止まった車や、歩行者が車道を歩かざるを得ない危険な場所もありました。 茶原課長「高野山は山上の盆地の中に広がっている町なので、(土地が限られていて)駐車場がなかなか作れない」
町は駐車場を10カ所用意していますが、駐車スペースが圧倒的に不足しています。
茶原課長「650台くらいの駐車場を用意しているんですけれども、一番多いピークの時になると1日にだいたい7000台の車が高野山へ入ってきます」
訪れる1日7000台の車に対して、最大でも1050台しか止めることができません。
高野町で生まれ育ち、特産品の仏壇に供える「高野槙」を販売する高根良子さん(81)は不安を口にします。 高根さん「救急車も高野山の山内だと2台しかないからね。観光客がけがしたとか、事故が起こって走っていけば、(住民が必要となっても)間に合わないと思う」 町にある2台の救急車が観光客の救急搬送に使われると、住民が利用できなくなるというのです。
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■訪問税の徴収案も…オーバーツーリズム■訪問税の徴収案も…オーバーツーリズム
そして、各地のオーバーツーリズムと同様に、ごみ問題も起きています。路上に捨てられたごみを拾う男性がいます。高野町は、清掃業者に業務を委託しています。街頭にごみ箱を一つも置かず、業者が一日に何度もごみ拾いをして回っているというのです。
茶原課長「ごみ箱を置いておくと、ごみがこんもりという状態になって非常に汚らしい状態になる。(路上に)ごみがあるとごみを捨てられるので、ごみをなくしていくということを丁寧にやっている」 違法駐車が相次ぐため、こんな案も…。 高野町 平野嘉也町長
「パークアンドライドも一つの案。高野山の中に車は入れない。極端(な話)ですよ、車入れて満車になったら近隣に止めて、公共交通機関が人を運んでくる」 観光客に駅やバスターミナルなどと隣接した駐車場に車を止めてもらい、公共交通機関に乗り換えて移動してもらうパークアンドライドの実証実験を行い、検討を重ねています。4年後をめどに、観光客などから訪問税を徴収する案も検討しています。
1200年前、弘法大師・空海が開いた仏教の町に巻き起こっているオーバーツーリズム問題。
後藤住職「“仏教の教え”であらわせるように、助け合いの精神というのは誰もが忘れてはいけないこと。共に皆が共働し合い、共存し合い、それが未来永劫(えいごう)続いていくような街づくりができればいいと思います」
(「グッド!モーニング」2024年5月8日放送分より)
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