2023年度実施の教員採用試験で、公立小学校の競争倍率が前年度比0.1ポイント減の2.2倍だったことが26日、文部科学省の調査で分かった。5年連続で過去最低を更新した。同日公表された別の調査では、働き方改革や校務のデジタルトランスフォーメーション(DX)が道半ばであることも判明。業務の見直しを進め、教員人気の回復を急ぐ必要がある。
採用試験の調査は都道府県や政令市など68自治体の実施状況をまとめた。
自治体別でみると、小学校の倍率が最低だったのは熊本県と熊本市、鹿児島県の1.2倍。2倍を切ったのは計20自治体で、全体の3割近くに上った。
倍率の低下は小学校以外にも広がる。中学は4.0倍(前年度4.3倍)、高校は4.3倍(同4.9倍)で、いずれも過去最低。小中高などを合わせた全体の倍率は3.2倍で、34自治体で倍率が低下していた。
倍率が下がれば選抜機能が弱まり、教員の質の低下につながる。滋賀県の公立小の40代男性教諭は「新卒の教員のレベルが低くなっていると感じる。高学年の授業を担当させることができない教員もいる」と漏らす。
文科省は採用試験の日程が遅いことが倍率低下の一因とみて、24年度の1次試験の実施日について、「標準日」を23年度より1カ月早い6月中旬とした。
5割の教育委員会が前倒しして6月以前に設定したが、日本経済新聞の集計によると、公立小の採用試験の志願倍率(志願者数を採用予定人数で割った倍率)は2.3倍で前年度(2.6倍)から悪化。4割の教委が1倍台に低迷しており、前倒しの効果はみえていない。
優秀な人材を教員として確保するカギとなるのは、働き方改革の加速だ。
26日公表された同省の調査では、業務の外部委託や精選が遅れている項目があった。
同省が24年9月時点の状況を全国の教委に聞いたところ、保護者や地域住民の要望への対応について、負担軽減をはかっているのは45%にとどまった。校内清掃は同省が「必ずしも教師が担う必要がない業務」としているにもかかわらず、民間委託などをしていると答えた教委が2割に届かなかった。
23年度の教員の残業時間も調べた。同省が指針で上限として定める「月45時間」以下だった割合が小学校では75%、中学校では58%だった。
校務のDXも道半ばで、紙での作業が根強く残っている。
26日公表の調査結果によると、全国の公立小中学校のうち、業務で押印が必要な書類が「ある」と回答した学校は9割を超える。日常の業務にファクスを使用しているとの回答は77%に上った。文科省はいずれも25年度までに原則廃止する目標を掲げるが、達成は困難な見通しだ。
経済協力開発機構(OECD)が18年に実施した調査によると、中学教員が1週間で事務作業に充てる時間は5.6時間で、参加国・地域で最長。日本の教員の校務の負担の大きさはかねて指摘されている。
生成AI(人工知能)の活用もポイントとなる。「生成AIを校務で活用しているか」との問いに「全く活用していない」と答えた学校は6割近くあり、改善の余地は大きい。
同省は小中高での生成AIの扱い方に関する指針の改訂版を26日に公開した。校務での積極的な活用を促しており、教材やテスト問題のたたき台、部活動の練習メニュー案の作成といった使用例を充実させた。
文科省幹部は「DXや業務精選を通した働き方改革や、人員拡充と給与改善によって教員の魅力を向上し、競争倍率を高めて人材を確保したい」としている。
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