公益通報者保護法とは
通報後 懲戒処分の職員「不当な扱い 減る可能性に期待」
注目
公益通報者保護法の主な見直しのポイント
「公益通報者保護法」は、勤務先の不正を通報した人への不当な扱いを禁じた法律で、通報者を守ることを目的に18年前の2006年に施行されました。対象は企業のほか、自治体や団体などで働く労働者や役員、1年以内の退職者で、勤務先や取引先の刑事罰や過料の対象となる不正行為を通報した場合に、法律で保護されます。具体的には、通報者に対する▽解雇を無効とするほか、▽降格や減給、退職金の不支給など不利益な取り扱いを禁じるとともに、▽損害賠償を請求することはできないとしています。通報先は▽勤務先の内部通報窓口のほか、不正を信じる相当の理由などがあれば、▽行政機関や、▽報道機関、消費者団体などの外部も対象と認められています。また2020年に、法律の一部が改正され、従業員が300人を超える事業者に対しては、通報を受け付ける窓口の設置など体制の整備が義務づけられたほか、窓口となる事業者の担当者には罰則付きの守秘義務が課せられています。
公益通報を行った後、懲戒処分を受けた京都市役所で勤務する50代の男性職員は、刑事罰が導入されることで、通報者への不当な扱いが減る可能性があると期待を示しました。男性職員は、2015年に市内の児童養護施設の入所者が性的虐待を受けたという相談が放置されているとして、京都市が設けた外部の窓口に公益通報をしました。しかし、通報のために相談記録が記された資料を持ち出したことなどを理由に市から停職3日の懲戒処分を受け、直後に別の部署への異動が言い渡されました。男性職員は懲戒処分の取り消しを求めて裁判を行い、「資料の持ち出しは公益通報を目的として行われたものだ」と認められ、2021年に最高裁判所で処分の取り消しを命じた判決が確定しました。また、処分に対する賠償を求めた裁判では、京都地方裁判所が2023年、処分直後の異動も違法などと認定し、京都市に220万円余りを支払うよう命じました。
当時を振り返り、男性職員は、「(組織に)良かれと思ってしたことで、停職処分というのは明らかに報復されたなという思いでした。パソコンなど、いろいろなことを調べられて、処分を受けるまでの間は本当に夜も眠れなかったです」と話しました。今回、報告書案に刑事罰の導入が盛り込まれたことについては、「公益通報者保護法を熟知した上で、通報する人はいないので、通報者を守るためにも、罰則を設けて、事業者側にハードルを設けるのはいいことだと思います。通報者に対する不当な扱いは減っていくのではないか」と話しました。一方で、配置転換などで不当な扱いを受けるケースもあることから、匿名で不正を通報しやすくしていくべきだと訴えました。男性職員は「露骨な不利益な処分をせずに、配置転換をされると因果関係も分からない中で、通報者は防ぎようがないんです。匿名で通報できる、受け付けられるようにして、通報者の探索を禁止するということが大事なんだろうと思います」と話していました。
内部通報によってこれまで数々の組織の不正が明らかになった一方で、通報者に対する報復や問題になる対応は後を絶たないのが実情です。消費者庁がまとめた資料によると、「公益通報者保護法」が施行された2006年か2022年5月までに、通報した人が不利益な取り扱いを受けたなどとして裁判を起こしたケースは少なくとも88件にのぼっています。消費者庁が2023年11月に行ったアンケート調査でも、不正の通報や相談をした人のうち、17.2%が「後悔している」と回答し、理由として人事や評価などで不利益な取り扱いを受けたとする人が多くいました。ことしに入ってからも兵庫県の斎藤知事のパワハラの疑いなどについて、告発文書を作成した県の元幹部が公益通報の保護対象とされず、停職3か月の懲戒処分になりましたが、対応の妥当性について議論となり県議会の百条委員会が調査を続けています。また、内部通報を調査する体制が適切に整備されておらず、企業が行政指導を受けるケースも相次いでいます。中古車販売会社旧「ビッグモーター」の保険金の不正請求問題では、2023年7月に公表された調査委員会の報告書で、従業員の内部告発について「特段の調査も行わないまま、告発をもみ消したといわざるを得ない」などと指摘されました。その後、消費者庁は、会社側に公益通報の調査を行う体制が整備されていなかったとして、行政指導を行いました。また、自動車メーカーの「ダイハツ工業」が国の認証を不正に取得していた問題でも、消費者庁が内部通報制度の運用状況を確認したところ、体制整備が一部で適切にできていなかったとして、ことし1月に会社側に行政指導を行いました。
<1つ目のポイント>報復や不正の隠ぺいを目的に事業者が通報者に対して不利益な取り扱いをした場合の刑事罰の導入です。不利益な取り扱いの範囲は、解雇と懲戒処分に限られ、違反行為をした組織と意思決定に関与した個人が刑事罰の対象になります。罰則の程度については、これから検討するとしています。別の部署に異動させる配置転換や嫌がらせなどは刑事罰の対象に含まれていません。その理由については、経済活動の過度な萎縮を防止する観点から、犯罪の構成要件を明確化するためなどとしています。
<2つ目のポイント>民事裁判になった場合の立証責任の転換です。解雇と懲戒処分については、処分を不服として通報者と裁判になった場合、通報との関係や処分の妥当性の立証責任が事業者側に転換されます。対象となる期間は、内部通報の場合は通報した日から、外部への通報の場合は知った日から、それぞれ1年以内に行われた処分としています。これまでは通報者側が不当な扱いを受けたことを証明する必要がありましたが、情報や証拠資料の多くは事業者側が持っていることなどから、通報者の大きな負担になっていると指摘する声が上がっていました。
<3つ目のポイント>通報者を捜す行為を法律で禁止することです。これまで匿名で不正を通報してきた人を事業者側が捜す行為は、指針で禁止されてきました。しかし、事業者が禁止されていることを十分に理解せず、正当な理由なく通報者を捜すケースがおきているため、法律に規定して禁止すべきだとしています。ただ、反社会性の高い行為とまでは言えないとして、違反した場合に罰則の対象とすることは見送られました。このほか、公益通報を妨害する行為についても法律で禁止し、これに反する契約締結なども無効とすべきとしています。
<4つ目のポイント>事業者に対する内部通報を受け付ける体制整備の徹底です。いまの法律では従業員が300人を超える事業者に対しては、通報を受け付ける窓口の設置など体制の整備が義務づけられています。今回の見直しでは、窓口に担当者を配置しないなどの従事者指定義務に違反した事業者が、行政の指導や命令などにも従わなかった場合に、新たに刑事罰を科すとしています。
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