新型コロナウイルス対策として実施された中小企業向けの資金繰り支援を巡り、政府系金融機関が貸し付けた約20兆6000億円のうち、7.6%にあたる1兆5000億円超が「返済困難」になっていることが18日、会計検査院の調べでわかった。金利上昇や物価高で中小企業の経営環境が厳しさを増すなか、膨らんだ債権の回収が課題となる。

検査対象は日本政策金融公庫の「新型コロナ特別貸付」など政府系金融機関による貸し付け。売り上げが一定以上減った企業への融資は実質無利子・無担保(ゼロゼロ融資)となる。

2020年3月から始まった新型コロナ特別貸付などの債権状況を検査院が調べたところ、23年度末時点の貸し付け実績は前年度比1兆2031億円増の20兆6397億円だった。

このうち回収不能となった債権は1490億円、回収不能と判断された債権が2178億円、不良債権が1兆1965億円に上る。回収不能・困難の恐れがある債権は計1兆5633億円に上り、前年度より約4900億円増えた。

返済期間の延長(リスケ)など貸し出し条件を変更中の債権も前年度比4000億円増の1兆654億円となった。一方、返済に至ったのは8兆892億円。前年度より3兆309億円増えたが、借り換えで完済されたものも含まれる。

民間金融機関による「新型コロナ関連保証付融資」などの状況も調べた。20年5月に始まり、23年度末時点で信用保証協会が承諾したのは38兆2664億円に上った。このうち返済困難となって信用保証協会が肩代わりして金融機関に支払った分(代位弁済)も増加傾向にあり、計4848億円に上った。

国は23年度までの5年間、企業への貸し付けや利子補給、信用保証などの原資として政府系金融機関などに対し、出資金約11兆円、補助金約4兆円、貸し付け約17兆円に上る財政援助を実施した。

信用保証協会による代位弁済の損失補償として6000億円超の補助金が支出され、すでに233億円が穴埋めに使われた。

将来の企業倒産に備えて日本公庫は貸倒引当金を積んでいるが、財務状況の悪化リスクはある。

返済が本格化する中、24年の企業倒産件数は11年ぶりに年間1万件を超える可能性がある。東京商工リサーチによると1〜11月の倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同期比16%増の9164件。コロナ下で過剰債務を抱え、物価高でも価格転嫁が困難な中小企業の倒産が増加傾向にある。

紳士・婦人服の製造販売を手掛けていた大賀(大阪府枚方市)は7月、民事再生法の適用を申請。ゼロゼロ融資などで資金繰りを維持していたが、業容が改善しなかった。

政府は資金繰りにめどが立たない企業の負担軽減を目的に「コロナ借換保証」を23年1月に始めたものの、一部の支援策を除き、6月に終了した。中小企業庁による経営改善の後押しを目的とした保証付き融資も25年3月末で終える予定という。

今後は金利上昇で体力の乏しい企業の倒産はさらに増えそうだ。

足元ではリスケによる条件変更も多いが、金利の上昇局面では返済額の増加につながる。東京商工リサーチの坂田芳博情報部課長は「リスケしている企業は業績回復が遅れ体力を消耗している企業が多い。金利負担が重荷になり倒産が増えていく可能性がある」と話す。

金融機関は経営改善や事業再生支援に軸足を移している。坂田氏は「業績回復が見込める企業には伴走支援をする一方で、返済が難しいと判断すれば追加資金は出しづらいのが実情だ」と話す。

過剰債務を抱えた企業が淘汰された結果として人材が成長分野に移動すれば、生産性向上や日本経済の構造転換につながる。帝国データバンクによると、23年に新設された企業は15万2860社と前年比7.9%増えた。総務省によると7〜9月期の過去1年に転職を経験した人も346万人と前期比21万人増えた。産業の新陳代謝をいかに進めていくかが課題となる。

(藤田このり、城川和真)

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