受験シーズンを前に、雑誌「小学三年生」が「中学受験チャレンジ増刊」を出したと話題になっている。中学受験については、Xで「東京、大阪だと早い時期からガチ勉強しないと難しい」「塾代や子どものサポートなど、親の覚悟や経済力が重要」といった指摘がある一方で、「中学受験失敗して、敗北感で大学受験も失速」「公立小で、児童間の格差や庶民排除が目立つようになった」など、負の側面を訴える投稿もある。
【映像】公立と私立、これだけ違うお金の差
このように中学受験には、さまざまなメリットやデメリットがある。多感な時期に塾に通わせてまで受験させるか、それとも多様な経験をさせるべきか。『ABEMA Prime』では、あらゆる選択肢のある中学への進学について考えた。
■中学受験率が過去最高も賛否両論
首都圏模試センターの調べによると、2014年は4万人台前半だった中学受験者は、右肩上がりとなり、2024年は5万2400人(前年比マイナス200人)。また受験率も年々高まり、2024年には18.12%で過去最高を記録した。
中学受験賛成派である、個別指導塾「Growy(グローウィ)」代表のユウシン氏は、「中高一貫校に入るメリットが大きい」と指摘する。「高校受験を経ずに、6年間好きなことができる。中3から高1の勉強をやらなくなる“中だるみ”の時期が許されるのもメリットだ」。
最近の私立中学では、大学受験に向けた勉強だけでなく、体験型のプログラムも増えているという。これらのメリットから、「目標に向かって頑張った経験のない10〜12歳の子どもがほとんどだ。大学受験で頑張る経験をしておくと、中高生で花開く可能性もある」と勧める。
一方で、公立小学校教諭の宮澤弘道氏は「12歳で受験するのは早すぎる」と否定的だ。「子どものストレスは、学校内で“不適切行動”として現れる場合がある。物を隠したり、いじめたりする子は、乗り越えられないストレスを抱えている。その要因には、貧困や親の不仲、そして受験もある。それが大丈夫な子もいるが、『受験には早い』と感じる子もいる」。
加えて、受験シーズンになると、授業中に“内職”する子も増える。「内職自体をとがめるつもりはないが、入試直前に学校を長期休暇して、地域の子と過ごせないのはもったいない」。こうした考えの背景には、「小学生には学びや考えることを楽しんでもらいたい」との願いがある。「私は授業で、『30点だけれど解答欄が真っ黒』な子をめちゃくちゃ褒める。受験という関門があると、ダメだった時の絶望感も大きい」と指摘する。
起業家で投資家の成田修造氏は、中学受験を「親の自己満足を満たすためのゲーム」と表現する。「僕は中学受験をして、人間にとって無意味どころか害が大きいと感じた。感受性や自我が芽生える大事な時期に、なぜわざわざ親が決めたレールを走らせるのか。そんな時間とお金があるなら、旅行などで経験をさせて、どこで輝くか、どう想像力を発揮するかを見るべきだ」。
■中学受験に見る分断・格差とは
作家でジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「1970年代までの“総中流社会”が崩壊して、社会の階層化が進み、上下の分断が進んだ結果だ」と考察する。「お金持ちの経営者は、金を教育に使っている。年収数千万円あっても、意外と地味な暮らしをしていて、小中高一貫の海外の学校に通わせるなどに投資する」。
このような富裕層の価値観には「日本が沈没しつつある」という危機感があり、「『東大を出ても給料の安い官僚ぐらいにしかなれない。それならハーバードやアイビーリーグに行かせた方がいい』という発想だ」と説明する。
しかし、年収1000〜2000万円の世帯も、同様の道を志向する現状がある。「『こっちを目指さなきゃ』と引っ張られることで、無理にお金をかけて中学受験させなくてはならず、亀裂が生じている」。
その反対に、佐々木氏が毎月訪れている福井県では、「そもそも私立中学さえ、ほとんど存在しない。公立で高校まで行く、昔通りの暮らしをしていると、中学受験の発想は1ミリもない」と地域差を紹介。「問題は年収1000〜2000万円の人々がどうするかだ」とまとめた。
■AI時代に学歴、意味ある?少子化で“名門大学”に希望者が全員合格の未来も
成田氏は、今後のAI時代では「より自己のアイデンティティーが競争優位につながる」と予測する。「知識の生かし方や、信念・価値観が最重要だ。そのためには、いろいろとやらせるしかない。延々とクイズのような勉強をやることに価値があるのか」。
大切なのは、「どこで努力するか」だとして、「僕は14歳までは能天気で、やる気もなかった。中学受験で敗北感を味わい、第3志望にも落ちて、塾の先生から『これくらいの学校しか行けない』と笑われていた。そこから乗り越えて培った」と振り返った。
これに佐々木氏は「成田さんは地頭がいい」と返す。「地頭と学歴は、微妙に異なる。堀江貴文氏が典型だが、優秀な高校を出て、東大を中退した。優秀な起業家ほど、地頭で良い高校へ行っても、学歴に興味がなくて、たいして大学へは行かない人が多い」。
しかしながら、「一般人は地頭が良くない代わりに、学歴でカバーしようと思う。必死でのし上がろうとするのが、中学受験につながっているのでは」と分析する。「『公立校に通うと、自分も沈没してしまう』と危機感を持つ親が結構いる。子どもを地元コミュニティーから剥がして、アッパー層に入れたい強い欲求から、中学受験に挑む。価値観が明確でないなかで、ある種の幻想の中で生きている」。
成田氏は「年間の出生数は60万人程度だが、慶應や関関同立など比較的優秀な大学を合わせた学生数は20万人前後だ。半数が大学生になると考えると、現時点でも30万人のうち20万人が、これらの大学に入れる」と説明する。
このように、従来に比べて「大学の難易度が劇的に下がっている」現状があり、「各大学がマンモス校化するなか、30万人全員がそういう大学に入れるようになる」と予測する。「大学の価値が相対的に落ちたとき、重要なのは何か。それは『あなたが誰か』や『何してきたか』だろう」。
(『ABEMA Prime』より)
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