厚生労働省が昨年度行った調査では、全国の企業で課長級以上の管理職に占める女性の割合は12.7%と、国際的に見ても低い水準にとどまっています。
このため、女性管理職の積極的な登用を促そうと、厚生労働省は、先月開かれた労使などでつくる審議会で、企業に対して女性の管理職比率の公表を義務づける方針案を示しました。
それによりますと、対象は従業員101人以上の企業で、就職活動を行う人が職場を選ぶ際の参考情報として役立ててもらうねらいもあるということです。
厚生労働省は審議会での議論も踏まえ、年内にも正式に取りまとめることにしています。
女性管理職の割合 日本は12.9%と低水準 2022年時点
労働政策研究・研修機構が公表した女性管理職の割合の国際比較では、2022年時点で比率が高い順に
▽スウェーデンが41.7%
▽アメリカが41%
▽シンガポールが40.3%
▽フランスが39.9%などとなっていて、同じ調査で日本は12.9%と低い水準でした。
厚生労働省の研究会がことし8月に公表した報告書では、日本では男女に賃金の格差があり、女性管理職の比率の低さがその要因の一つだと指摘されています。
そこで、厚生労働省は審議会で、現在、従業員301人以上の企業に公表が義務づけられている男女の賃金格差についても、その対象を拡大して101人以上とする方針案を先月、示しました。
こちらも年内にも正式にとりまとめることにしています。
女性管理職比率の公表義務づけ 期待する声
女性の管理職比率の公表を企業に義務づけてほしいと期待する声があがっています。
そのひとりが中小企業で営業の仕事をしていて転職を考えている30代の女性です。
女性は今の職場で、管理職を目指して働いてきましたが、ことし第一子を出産して育休を取得しました。
しかし、職場にいる管理職の大半が長時間労働をしていて、ロールモデルになるような子育て中の女性がほとんどいないことから、将来のキャリアに不安を感じ転職を考え始めました。
探しているのは、テレワークやフレックスなどの制度があり子育てをしながら自分の成長を目指せる会社で、女性の管理職比率が公表されていれば職場を選ぶ際の指標になると考えています。
女性は「今の職場では、産休や育休から戻ると第一線ではないところに異動する人も多い。管理職になろうとするタイミングと出産や結婚が重なってしまいキャリアをストップせざるをえない。今後は柔軟な働き方を認めてもらいながらも競争社会でやっていける会社を受けてみたいと考えていて、女性管理職比率が公表されれば、この会社に入ろうかと判断するひとつの指標になる」と話していました。
また、女性に特化した人材サービスを展開する都内の会社も公表の義務づけに期待しています。
この会社は女性管理職比率を高めたいと考える企業に対して、マネージャーなどの立場に関心がある求職者を紹介する事業などを展開しています。
この会社ではことし1月、管理職経験のある全国の女性260人を対象に「管理職への挑戦でハードルになったこと」をアンケート調査しました。
最も多かったのが
▽「ワークライフバランスへの懸念」で39.6%
次いで
▽「精神的負担が大きいこと」で34.2%
▽「ジェンダーバイアスに基づく評価や昇進の妨げ」が23.1%となりました。
こうした状況も女性管理職比率の公表が義務づけられれば、少しずつ改善されていくのではと期待しています。
人材サービス会社「Waris」の田中美和共同代表は「管理職になると長時間労働を求められることもあって、挑戦をためらう人もいる。また、出産をきっかけに短時間勤務となり、業務内容が限られ、なかなか評価されないケースもある。公表が義務づけられることで企業間の競争原理も働き、柔軟な働き方が促進されるなど企業風土の改善が期待できる」と話していました。
比率公表して女性の積極的な登用進める企業も
女性管理職の比率を公表し、積極的な登用を進めている企業も出てきています。
全国で173店舗を展開するホテルチェーン「スーパーホテル」は、正社員がおよそ130人いて男女の割合が半々となっています。
会社では女性が活躍できる場を増やそうと13年前の2011年に昇進制度を見直し、筆記試験や面接などで性別を問わず客観的に評価する制度を導入しました。
また、フロントや接客が中心だった女性の職場を営業や企画などに拡大してきました。
その結果、女性管理職の割合は2011年度には13%余りでしたが、今年度は28%余りに上昇しました。
こうした取り組みによって、美容品を設置した女性専用の部屋づくりや、オーガニック素材のアメニティーの導入なども進み多様な客が訪れるようになり売り上げの増加につながっているということです。
30代の男性の社員は「男性も女性も仕事をきっちりと評価されていると感じる。男性も女性もある程度同じ数で管理職がいたほうがサービスの開発もスピード感を持ってできているのではないか」と話しています。
おととしからは管理職手前の候補生を対象に、専門の研修を受けてもらい上司と1対1で面談する取り組みを開始し、仕事上の悩みや不安に2人で向き合い解決策を探っています。
会社では今後、子育て中の社員への配慮として育休からの復帰後、一定期間は宿泊を伴う出張に行かなくても、管理職のままでいられる制度を設けることも検討しています。
女性管理職比率の公表が義務づけられれば、企業も人材確保のため、人事制度の改善により努めなくてはならないと考えています。
経営品質本部の星山英子本部長は「採用の面でも女性が活躍している企業で勤めたいという若い方々も多いと思うので、その対策も必要だ。男性、女性だからではなく、能力や人間性を重視して評価する会社になっていく必要があると思う」と話していました。
専門家「比率が低い要因 企業に考えてもらうことが重要」
労働政策に詳しい東京大学の佐藤博樹名誉教授は「女性管理職比率の数字を公表すること自体が目的ではなく、比率が高い低いといった要因をきちんと企業に考えてもらうことが重要だ。比率が低い場合は、どこに原因があって、これから何を改善するのかということも合わせて公表してもらうことも大事だ」と指摘しています。
その上で「企業は、結婚や出産などのライフイベントがあっても社員が勤め続けることができ、管理職につながる仕事の経験や能力を身につけられる環境を整備していかないといけない。また、男女問わず管理職になりたくない人も増えている中、管理職の働き方改革を進めていく必要もあると思う。情報の公表をきっかけに社内の働き方や人事制度を見直していくことが大事だ」と話していました。
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