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 寝たきり状態だった母親(当時92歳)を殺害した罪に問われている息子の前原英邦被告(61)の裁判で、被告人質問が12日に行われました。男は一日中母親の介護に追われて、経済的にも追い詰められていたということです。

■母親「殺してちょうだい」24時間介護の日々

被告人質問 この記事の写真 前原被告 
「もし、あの時に戻れるのであれば、もう一度やり直せたらと思う」

 2年前、当時92歳の母親を殺害した罪に問われている前原被告。

前原被告 
「『楽にしてちょうだい。殺してちょうだい』と言われた。なので『分かったよ。一緒に死のう』と言った」

 母親と2人で暮らしていた前原被告ですが、5年前に母親の房子さんが脳梗塞(こうそく)で倒れ、ほぼ寝たきりの状態に。つきっきりで母親を自宅で介護し、主な収入は母親の年金でした。

前原被告 
「フルタイムで24時間(介護の)対応するようになりました。たんの吸引、酸素の管理、あとは点滴の抜針」

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■部屋の前に残された謝罪のメモ

■部屋の前に残された謝罪のメモ

謝罪のメモ

 3年間、寝たきりの母親を介護していた前原被告でしたが、2022年8月、事件が起きます。事件当日、前原被告のスマートフォンのメモには「生きる苦しみ限界。母を送ります」と記されていました。

 母親の首をひもで締めて殺害。自身は大量の睡眠薬などを服用し、自室で倒れていたところを訪問介護員に発見されました。

 この時、前原被告の部屋の前には「警察に連絡してください。申し訳ありません。前原」と警察への通報を促す文言と謝罪の言葉が書かれていました。

 事件前、2人の様子を見たという近隣住民は「『お母さんの大好きなマグロを買ってきたよ』と前原被告が優しく語りかけていました」と話し、寝たきりの母親に対して献身的に介護をしていたといいます。

 しかし、時には「夜中に息子さんがお母さんに対して何か叫んでいることがあり、その叫び声を聞いて、介護が大変なんだなとつらい気持ちになりました」とも語っています。

 前原被告を追い込んだものとは、何だったのでしょうか。

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■「要介護5」認定を受けた母親

■「要介護5」認定を受けた母親

要介護5認定の母親

 フランス料理の料理人をしていた前原被告。2009年ごろ、被告が40代後半の時に母親の房子さんに直腸がんが見つかり、人工肛門を装着することになりました。介護が必要な状態となり、フルタイムでの勤務ができなくなります。

 さらに2019年、母親が脳梗塞(こうそく)で入院し、日常生活の大半にサポートが必要な「要介護5」の認定を受けることに。前原被告は自宅で母親の介護に専念するため、仕事を辞めざるを得なかったといいます。

前原被告 
「フルタイムで24時間(介護の)対応するようになりました。カテーテルの廃棄、たんの吸引、酸素の管理、あとは点滴の抜針。このほかにも一般的に介護といわれることをやっていました」

 母親は寝たきりだけでなく、認知症の症状も認められ、訪問診療や訪問介護を受けるようになりました。

弁護側 
「朝何時ごろに起きる?」 前原被告 
「5時前です。母の朝食の用意です。母の血糖値の測定をします。朝食を食べさせます。45分から1時間くらいかかりました」 弁護側 
「そのあとは」 前原被告 
「血糖値の測定、インスリン投与」

 前原被告は「朝昼晩の食事の準備に介護、一日のほとんどを母親のために使っていた」と語りました。

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■借金で生活困窮「預金4015円」

■借金で生活困窮「預金4015円」

経済的困窮

 さらに重くのしかかったのが生活費。介護費用だけでなく、前原被告には銀行などからおよそ500万円、知人からおよそ300万円の借金もあり生活は困窮していました。

検察側 
「持ち家を不動産屋に売却しましたね。いくらで売れましたか?」 前原被告 
「2200万円ぐらいだったと思います」

 そこで、持ち家を売却したのち、その家に借家として住む契約を結び、一時的に2200万円の現金を得た前原被告。そのお金を借金返済などに充てましたが、3年で底を尽き、また新たに借金を抱えてしまったといいます。

 2022年、とうとう母親の年金だけでは追いつかず、家賃が払えない状況に…。犯行が頭をよぎるようになったといいます。

 収入は母の年金や保険の還付金などで、平均月18万円。これに対して、支出は家賃17万5千円、消耗品などの支払いも含めた携帯代が6万円、介護費5万円。そして、毎月の借金返済が10万円。合計すると、平均月40万円ほどの支出となり、毎月20万円ほどの赤字となる計算になります。

前原被告 
「生活費が足りなかったです」

 そして、母親を殺害。その頃の預金はわずか4015円だったといいます。

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■認知症の母と借金生活の息子

■認知症の母と借金生活の息子

過去にも介護疲れによる事件

 困窮する経済状況の中で、高齢家族の介護から殺害に至った例は過去にもあります。

元被告男性 
「もうお金もない。もう生きられへんのやで。これで終わりやで」 元被告男性の母 
「そうか、あかんか」 元被告男性 
「すまんな、すまんな」

 2006年、京都市伏見区で当時50代の息子が認知症を患う86歳の母を殺害した事件。その背景にあったのも、経済的な困窮でした。

 息子は母を介護するため、休職しました。失業保険をもらっていましたが、そのお金もすぐに尽きてしまい、借金を重ねる生活に…。

元被告男性
「もうお金もない。もう生きられへんのやで」 京都地裁 裁判官

 ついに追い込まれ、認知症の母親を殺害しました。その結果、懲役2年6カ月、執行猶予3年の判決が言い渡されました。

 この事件では、京都地裁の裁判官が判決を言い渡した後に、「日本の生活保護行政の在り方が問われていると言っても過言ではなく、この事件を通じて何らかの変化があるかと思う」と付け加えました。

 しかし、その後も親族などによる介護の末の殺害は後をたちません。

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■介護支援が届かず 残された最後のメモ

■介護支援が届かず 残された最後のメモ

淑徳大学 結城康博教授

 介護をしていた息子による母親の殺害。経済的に追い込まれた時、誰かに助けを求めることは出来ないのでしょうか。

淑徳大学 結城康博教授 
「地域包括支援センターとかに相談に行ったり、家族介護者の集いに参加したり、その情報を得ることがあれば、このような悲惨な事件に陥ってないのではないか」

 今回の事件、前原被告は周りに頼れなかったのでしょうか。

被告人質問 前原被告 
「(父は介護を)手伝ってくれなかった」 弁護側 
「お兄さんがいますね」 前原被告 
「はい。11歳離れています」 弁護側 
「相談した?」 前原被告 
「入院費用や介護について相談しました」 弁護側 
「反応は?」 前原被告 
「そういうことは母の弟、おじに相談したほうがいいと」 弁護側 
「援助は?」 前原被告 
「そういうことは一切なかった」 弁護側 
「兄は何をしている?」 前原被告 
「国家公務員です。財務省です」

 誰にも頼れず一人で介護をしていた前原被告。事件当日、前原被告がスマートフォンに残したメモには「生きる苦しみ限界、母を送ります。母を残して死ぬことはできませんでした。これから私も死にます」と記されていました。

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■検察側と弁護側 食い違う主張

■検察側と弁護側 食い違う主張

被告の主張

 母親を殺害した理由を問われると、前原被告は「母を殺したのは私ですが、母から頼まれてしたことです」と述べ、母親に頼まれたと主張しました。

 事件直前にも、次のような会話をしたと証言しています。

前原被告 
「普段は何も聞き取れなかったが『苦しいから楽にしてちょうだい』というのは聞き取れた」 弁護側 
「それに対してあなたは?」 前原被告 
「最初は黙ってました。そしたら『楽にしてちょうだい。殺してちょうだい』と言われた。なので『分かったよ。一緒に死のう』と言った。そしたら、母はうなずいた後に目をこすっていた。涙を流しているように見えました」 主張が対立

 検察側は「経済的困窮から、重度の認知症がある母親を計画的に殺害した」と指摘し、殺人罪が成立すると主張。一方、弁護側は、1人で介護をしていた前原被告が母親から殺害を依頼されていたとして、殺人罪ではなく同意殺人罪だと主張しています。

弁護側 
「お母さんに何か言いたいことは?」 前原被告 
「すみません…。もしあの時に戻れるのであれば、もう一度やり直せたらと思う。母と一緒に生活していき、あんな形で終わらせないようにしたいです」

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2024年12月13日放送分より)

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