被団協のノーベル平和賞受賞が決まり、感想を話す田中熙巳さん＝埼玉県新座市で（平野皓士朗撮影）
田中熙巳（たなか・てるみ） 1932年4月生まれ。13歳の時に長崎市で被爆。元東北大工学部助教授。被団協の事務局長を計20年以上務める。2017年から代表委員。埼玉県新座市在住。
◆爆心地から3.2キロで被爆、親族は「真っ黒な炭」に
田中さんは、被爆体験を語りたがらない。「本気で思い出すと、声が出なくなるから」。何百人もの聴衆の前で黙り込んだことは一度や二度ではない。「感情を切り離せるまで、皆静まり返って待ってくれる」 中国東北部の奉天（現在の瀋陽）生まれ。5歳で陸軍将校の父が亡くなり、母の親族を頼って長崎市に引き揚げた。被爆は13歳、旧制中学1年の時。真っ白な光に目がくらみ、自宅の階段を駆け降りて伏せた。爆心地から3.2キロ。母の声で意識を取り戻すと、なぜか割れていない2枚のガラス板が背中に乗っていた。 母と共に爆心地近くの親族の家へ向かい、焦土で無数の遺体を目にする。川には風船のように膨らんだ水死体が浮いていた。父方のおばといとこは「真っ黒な炭」に変わり果てていた。いつも食料を分けてくれた優しい母方のおばも絶命していた。遺体はトタン板の上で焼いた。「人間の形をした白骨だけ残った。数日前に会ったばかり。初めて大声を上げて泣いた」◆終戦後、原爆の話はアメリカの情報統制で語られず
中学3年の時、同級生とともに（手前右が田中さん、本人提供）
奇跡的に軽いやけどですんだ田中さんにとって、被爆は「貧乏のどん底に落ちること」を意味した。親族の支援が途絶え、働きづめに。長崎港の荷揚げの手伝いは実入りが良かった。「深夜まで働くと電車がなくなっちゃう。倉庫で寝て学校に行くこともあった」 被爆者が、生き証人として体...残り 845/1690 文字
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