政治資金収支報告書は、収入や支出などを国民に明らかにするため、政治資金規正法に基づいて政治団体が年に1度提出しなければならないもので複数の都道府県で活動する団体については総務省が、それ以外については各都道府県の選挙管理委員会が、毎年、11月末までに前の年の分を公表しています。

総務省は、2004年から庁舎での原本の閲覧だけでなくインターネットでの公表を行い、各都道府県選管でも2008年以降、順次ネット公表が始まっていて、国会議員関係政治団体については去年までに新潟県を除く46の都道府県で実施されていました。

そして29日、去年分の収支報告書が新潟県選挙管理委員会のホームページに掲載され、さらに30日、兵庫県選挙管理委員会のホームページにこれまで掲載されていなかった地方議員などの政治団体の収支報告書も掲載される予定です。

これで、収支報告書のネット公表が始まってから20年たってようやく、すべての政治団体の収支報告書をインターネット上で閲覧できるようになります。

しかし、公表されるのは、提出された書類をそのままPDF形式にしたもので、利用者が内容を検索するなどして手軽に分析できるようにはなっていないなど、課題もあります。

各国の政治資金データベース公表は

自民党の派閥の問題を受けて政治とカネに関する国民の関心が高まる中、ことし6月の政治資金規正法改正で収支報告書のオンライン提出とネット公表が義務化されることになり、28日始まった臨時国会でも、誰でも手軽に調べられるようにするための政治資金収支報告書のデータベース化をめぐる議論が交わされる見通しです。

政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするという政治資金規正法の目的を達するため、どのような仕組みを目指していくべきなのか。

各国の制度に詳しい専門家は、政治制度や社会の仕組みが異なるためこの方式を採用すればすべて解決ということはなく、データベース化などに先進的に取り組んでいる国の仕組みを踏まえ、日本型の新たな仕組みを模索していく必要があると指摘しています。

【アメリカ】

アメリカでは、大統領選での多額の企業献金をめぐる問題をきっかけに、およそ100年前に、政治家側への資金の流れを詳細に公開し徹底的に透明化を図る制度が形づくられました。

日本は、政治資金規正法に基づく政治団体が日常の政治活動の収支報告書を提出し、公職選挙法に基づく選挙運動費用については候補者が収支報告書を提出する仕組みです。

一方、アメリカは、駒澤大学の富崎隆教授によりますと、日本の政治団体に相当する「政治委員会」が、特定の政治家や候補者の日常の政治活動の収支と選挙運動費用の収支をまとめて報告し、第三者機関が不正や記載の不備がないかチェックしたうえで、提出から48時間以内に検索可能なデータとしてインターネットで公開します。

このため、プライバシーへの一定の配慮は行われますが、誰でも金額だけでなく寄付した個人や団体の名前や住所なども確認できます。

しかし、巨額の資金を使った広告などでキャンペーンを行いアメリカの政界や選挙に大きな影響を持つとされる「特定の政治家や候補者との結びつきを標ぼうしない団体」に対しては上限なく寄付でき、寄付した団体がどこから資金を得たのかは公表されないため、データベースの情報だけでは実情はわからないという課題があるということです。

【イギリス】

ヨーロッパは政党が中心で、議会制民主のイギリスでは、政党だけに1年の政治資金の収支報告を義務づけていて、2011年からデータベース化されました。第三者機関がチェックしたうえで提出期限から20日以内に公表していますが、寄付した個人や団体の住所は記載されないなど、一定の制限があります。

政治家個人が資金を集めることはほとんどないため、基本的に日々の政治活動の収支を報告する義務はなく、選挙運動にかかった費用だけ報告すればいい仕組みだということです。

【フランス】

フランスは、政治活動の自由を重視しているため、政治資金にあまり規制をかけず収支報告も義務づけられていませんでしたが、政治資金をめぐる不祥事が相次いだことを受けて、アメリカやヨーロッパ各国を参考にして1990年までに政治資金のチェックを行う第三者機関の設立などの取り組みが進められました。

第三者機関は、政党から日常の政治活動の、候補者から選挙運動費用の収支の報告を受け、チェックしたうえで検索可能なデータとしてインターネットで公表します。

不正などがないことを確認しているとして、寄付した人の名前と住所が省かれた形で公表されるため、一般の人が政治資金の収支を詳しくチェックすることはできません。

専門家「日本型のやり方が求められる」

駒澤大学の富崎隆教授は「政治資金のデータはいったん表計算されて集計されるので、それを報告し公表するのが一般的で、日本のように提出された書類やそれをPDF化したデータの公表で済ませてしまう国は、ほぼない。悲しくなり、あぜんとするほど、遅れている。日本は、政治や選挙の制度がアメリカとヨーロッパの中間くらいで、個人が政治資金の問題を起こすケースが多いので、アメリカの制度設計を取り入れつつ、ヨーロッパのように政党にも報告義務を課していく、日本型のやり方が求められる」と指摘しています。

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