民生委員は任期が3年の非常勤の地方公務員で、児童委員も兼ね、1人暮らしの高齢者の見守りや子育て世帯の支援などに無報酬であたっています。

厚生労働省によりますと、去年3月時点で24万547人の定数に対して欠員が1万3121人生じていて、充足率は94.5%で減少傾向が続いています。

担い手の確保が課題となる中、「18歳以上の日本国民で、3か月以上市区町村の区域内に住所を有する」とする民生委員の選任要件の見直しについて厚生労働省が設置した専門家などによる検討会で議論してきました。

これまでの議論では、親の介護などで居住実態がある場合や、地元の商店などで働く人やマンションの管理人など、いずれもその地区内に住民票がなくても民生委員に委嘱できるか、法律の改正を含め検討してきました。

そして26日に開かれた検討会で、選任要件の見直しについては「不在時の対応に課題が残る」とか「同じ地区の住民だからこそ信頼関係を築くことができる」などの意見が出たことを踏まえ、法改正の案は見送られました。

一方で、民生委員が任期途中に転居した場合については、近隣の自治体に居住していることなどを条件に継続できるとするよう、運用のルールを見直す案をまとめました。

また、担い手の確保に向けて企業などで働いている人も活動しやすい環境の整備や、実態に見合った活動費の確保、それに業務の負担軽減などについても議論が必要だとする意見が出されました。

厚生労働省は、選任要件の見直しについて、検討会の案を踏まえた上で今年度中に全国の自治体に通知する方針です。

能登半島地震で被災した地域では

民生委員は、孤立を防いだり地域のコミュニティの構築を働きかける役割が期待され、ことし1月に発生した能登半島地震で被災した地域では住民どうしをつなぐ役割を果たしています。

石川県珠洲市の正院地区で20年、民生委員を続ける瀬戸裕喜子さん(67)は自身も自宅が全壊し、仮設住宅に身を寄せる中、担当地区の住民の仮設住宅を回り、健康状態の確認や地域の人の集いへの参加を呼びかけるなど取り組みを続けています。

この日は、ひとり暮らしの高齢者の仮設住宅を訪ね、相談を聞いたり、健康状態を確認するほか、地元の集いに参加を呼びかけたりしました。

84歳の女性は「瀬戸さんは親切で本当に良い人です。声をかけてくれることがこちらもとてもうれしいです」と話していました。

こうした民生委員の活動について珠洲市は「被災者の孤立死を防いだり、地域のコミュニティを維持するために欠かせない存在で今後も復興に向けて連携を続けていきたい」としています。

瀬戸さんは「私が住んでいた地区の住宅はほぼ全壊で今も建っている家はほとんどありません。ただ少しでも住民が戻ってきたときにみんなが顔見知りになっていて話ができる状態になっていたほうがいいと思い声かけをしています。私自身が何か問題を解決出来るわけではありませんが解決してくれるところにつなぐ役割を持っているのが民生委員で、地域の窓口だと思っています」と話していました。

全国的に民生委員の担い手不足が課題となる中、都道府県別では、東京都が沖縄県に次いで、民生委員の充足率が低く、去年3月末時点で88.2%となっています。

このうち、港区は定数158人に対して11月1日時点で21人の欠員があり、充足率は東京都の平均よりもさらに低い86.7%となっています。

港区の赤坂青山地区で17年前から民生委員を務める小林百合子さん(76)は443世帯を担当しています。

この地区でも1人が任期の途中に転居して、後任が見つからず欠員が続いてるため、欠員となっているおよそ1000世帯で困りごとなどが起きた場合は、地区の会長でもある小林さんが対応しています。

区ではタワーマンションの建設が進み人口は10年前(2014年)に比べて3万人あまり増加していますが、民生委員を推薦する町会や自治会の数が減っていることから、後任を探すのが難しくなっているといいます。

民生委員の要件で、改選時に75歳未満とされていることから、76歳となった小林さんは、来年の任期満了で退任する予定ですが、後任が見つかっていないということです。

小林さんは「後任をお願いをした人には家族の介護を理由に断られてしまいました。民生委員は地域に根ざした人になってもらいたい気持ちはありますが、そうも言ってられない状況になってきているなと感じています」と話していました。

民生委員の問題に詳しい新潟医療福祉大学の青木茂教授は今回の運用の見直しについて「民生委員活動は信頼関係の元で成り立っているので、顔も知らない人がある日突然民生委員になったり、後任が見つからずに民生委員の空白地帯が生まれたりするよりは今回のようなケースを認めても構わないと思う。ただこの見直しだけでは、この担い手不足の根本の解決にはならない」と指摘します。

その上で担い手不足を解消するために、「まずは民生委員の負担がどこにあるのかということを改めて検討し直すことが必要になる。周囲からは民生委員は『何でもしてくれる人』という捉え方もされている。民生委員が本来の活動に専念できるよう負担を軽くしていくことやそのための議論をしなければなり手不足の解消にはつながらない」と話していました。

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