厚生労働省によりますと、昨年度、仕事の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害になったとして労災と認められた人は過去最多の883人でした。
このうち、企業の管理職などにあたる「管理的職業」は52人に上り、前の年度の37人から15人増えこちらも過去最多でした。
また、自殺に追い込まれた人は未遂も含めて15人で、前の年度から4人増加しました。
管理職の労災について、日本精神科産業医協会で共同代表理事を務める渡辺洋一郎医師は「部下の労働時間を減らさなくてはいけないが、自分の仕事量は減っていない。トップから『働き方改革を推進しろ、だけど業績は上げろ』と指示されて、プレッシャーがかかっている」と述べました。
対策として「会社側は管理職についても時間管理をきちっとする。疲労蓄積度のチェックリストなどを定期的につけてもらい、一定の点数以上であれば必ず健康管理室のところに相談にいくような仕組みをつくることが大切だ」と述べて、管理職向けの相談やカウンセリング体制の整備の必要性を指摘しています。
“管理的職業は長時間労働の傾向に” 調査も
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査で、企業の管理職など「管理的職業」の人は長時間労働の傾向にあることが明らかになっています。
4年前の調査では、1か月当たりの労働時間の全体の平均はおよそ179時間でしたが、このうち「管理的職業」は185時間でした。
そして、▽残業の頻度が「ほとんど毎日」と回答した人の割合は全体で21.7%だったのに対して、「管理的職業」は31.4%でした。
▽勤務時間外に電話やメールなどで仕事関係の連絡を取る割合についても「よくある」と回答したのは、全体で14.9%だったのに対して、「管理的職業」は25.1%でした。
また、2019年から2020年にかけて実施した管理職50人へのヒアリング調査では、部下の育成や指導に加えて、みずからも顧客を持ち売り上げ目標を担うプレーイングマネージャーとなっていて、忙しさや負担が大きくなっている事例や、働き方改革で部下に残業させられず業務が終わらない場合は管理職が引き取ったという事例がありました。
医師 “体調の異変に早期に気付く仕組みを”
管理職が仕事の強いストレスや長時間労働で精神障害にならないための必要な取り組みについて、日本精神科産業医協会で共同代表理事を務める渡辺洋一郎医師に話を聞きました。
昨年度、仕事による精神障害で労災認定された企業の管理職などは52人でしたが、産業医などとして働く人から相談を受けている渡辺医師は、病気になったとしても労災の申請ができなかった管理職がほかにもいるのではと考えています。
そのうえで「1人で何でもできるのが管理職で優秀な人間だというような誤解をしているケースがある。相談せずに1人で悩みを抱え込んで行き着くところまでいって、どうにもならなくなってから医師に相談するということも多い。まずは意識改革が重要だ」と指摘します。
そして、管理職が相談しやすい場所や体制を作り、体調の異変に早期に気付く仕組みを整えてほしいとしています。
渡辺医師は「管理職は非常に真面目な人が多く、自分から『大変です、しんどいです』と言えず、産業医の面談にもなかなか来てくれません。そのため、疲労度チェックシートなどを定期的につけて何点以上であれば健康管理室に相談してもらうといったシステムを作っていくことが大事だ」と話します。
体調に異変があったときはすぐに相談することが大切で、渡辺医師は「メンタルヘルス不調になると『疲れているのに眠れない』、『好きなことも楽しめない』という状況になるので、こうした場合はすぐに相談してほしい。好きなゴルフや散歩、ゲームなどもやる気にならないというのは生命エネルギーが落ちている状況にある可能性もある。早く適切な対応をすれば、それ以上悪くならず早く回復することができるので、それだけは覚えていてほしい」と話していました。
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