MITは学費免除枠を拡大すると発表した(7月、マサチューセッツ州)

【ニューヨーク=野一色遥花】マサチューセッツ工科大学(MIT)は20日、年収20万ドル(約3100万円)以下の世帯出身の学生を対象に、25年秋から学費を免除すると発表した。学費の高騰が続いているが、中低所得の家庭の子供でも有名大学への進学の道が広がることになる。寄付金の運用などで大学の収入が確保されていることが、こうした施策を可能にしている面もある。

年収10万ドル以下であれば、授業料だけではなく住居費や食費なども免除となり、教科書代や小遣い程度の給付金も与えられる。現在は年収14万ドル以下であれば学費が免除され、7万5000ドル以下であれば住居費などが免除されるが、それぞれ上限を引き上げることにした。

大学財務に詳しい米ウェルズリー大学のフィリップ・ルビーン教授は「大学側が、低・中所得者層が高等教育を得る機会を拡大しようとしている証拠だ」と話す。

全米大学ランキングを作成する「USニュース&ワールド・リポート」によると、24年度の私立大学費の平均は4万6700ドル。米調査団体教育データ・イニシアチブによると全米大学生のうち87.3%がなんらかの奨学金(ローン含む)を利用し、その比率は増加し続けている。

受験書類審査の段階では学費を負担できるかを問わず、合格が決まってから必要額をすべて支給する大学は9校あるという。出身世帯の経済状況に関係なく、優秀な学生を取り込むことができる。

MITがこうした措置を取れるのは、寄付金をもとにした「エンダウメント」と呼ばれる基金からの収入が潤沢だからだ。MITの基金の規模は245億ドル。寄付金収入が全体の37%にもなる。

ボストン市近郊に隣接するハーバード大学でも、出身国を問わず、家庭の年収が8万5000ドル以下の場合、生活費などを含めて全額支給としている。15万ドル以下の場合、教育にかける費用は年収の10%以下にとどめられるという。

学費免除を目的にした直接的な寄付も増えている。24年2月にはアルバート・アインシュタイン医科大学にルース・ゴテスマン名誉教授が10億ドルを寄付し、恒久的に全生徒の学費を免除することが決まった。ジョンズ・ホプキンズ大学医学部もブルームバーグ・フィランソロピーズから10億ドルの寄付を受け、同様の取り組みを24年秋に開始した。

ニューヨーク市立大学のジャーナリズム大学院は1月、同院の名付け親であるクレーグ・ニューマーク氏の基金から1000万ドルの寄付を受け、25年8月の新入生の約半数の学費を免除すると発表した。全員学費免除となるよう寄付を募る予定だという。

MITのサリー・コーンブルス学長はMITを目指す学生に対して「費用は障壁ではないと思ってほしい」と呼びかける。ただ、学費自体はかからなくても、入学するためには作文力や共通テストのスコア、課外活動などの経験が必要で、低所得世帯が不利であることは変わらないとの指摘もある。

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