北九州市門司区に市が計画している複合公共施設の建設予定地で、去年、明治時代に開業した旧門司駅の機関車庫の基礎部分などとみられる遺構が見つかりました。
市は、市民の安全のため、老朽化した公共施設の集約は欠かせないとして計画は変更せず、遺構はデータを記録したうえで取り壊すとしていました。
これに対し、ユネスコの諮問機関・イコモスはことし9月、「重要な歴史的価値を持つ文化遺産を軽視していることを深く遺憾に思う」などとして、ヘリテージ・アラートと呼ばれる警告文を出したほか、今月には市民団体のメンバーが住民監査請求を行うなど、保存を求める意見が相次いでいました。
こうした中、北九州市の武内市長は21日、臨時の記者会見を行い、「市として最大限何ができるか検討した結果、遺構の一部を残すことにした」と述べ、特に価値が高いとされる機関車庫の基礎の一部を現地で保存する方針を明らかにしました。
また、遺構の一部を取り出したり、デジタルを活用したりして新たな施設の中で展示するとしています。
武内市長は「施設の整備と、遺構の記憶をつなぐことの両立に努めながら、しっかりと進めていきたい」と述べました。
旧門司駅 これまでの経緯
旧門司駅は1891年(明治24年)に開業した九州鉄道の駅で、筑豊炭田から石炭などを運び出す中心地として日本の近代化を推し進めるうえで重要な役割を果たしてきました。
現在の駅名は門司港駅に変わり、2代目の駅舎は、鉄道の駅として全国で初めて国の重要文化財に指定されています。
遺構は、北九州市が門司港駅の近くで進める複合公共施設の建設予定地で去年見つかり、旧門司駅の開業当時のものとみられる赤レンガや機関車庫の基礎部分などが確認され、専門家からは歴史的に重要な価値のある文化遺産だと指摘されましたが、市は遺構を取り壊し、計画どおり複合公共施設の建設を進める方針を示しました。
これに対し、ユネスコの諮問機関・イコモスのパリにある本部が「文化遺産を軽視していることを深く遺憾に思う」などとしてことし9月、ヘリテージ・アラートと呼ばれる最も強い警告文を発出し、建設の中断と遺構の保存を求めたほか、イコモスの国内委員会の溝口孝司副委員長は機関車庫の一部にあたる、縦5メートル、横15メートルの部分を現地に保存すれば、世界遺産の構成資産になりうると訴えていました。
さらに、今月半ばには遺構の保存を求める市民団体のメンバーが市の監査委員に対して、遺構を取り壊す工事などの契約破棄を求める住民監査請求を行っています。
北九州市は遺構の取り扱いについて、展示方法の検討を進めていたものの、具体的な方針は明らかにされないまま今月15日に造成工事が始まり、今月中にも遺構の取り壊しが始まる見通しとなっていました。
イコモス国内委「画期的な前進」
溝口孝司副委員長は「一部は現地に残しつつ一部は移築するという大きな方針転換がなされたことについては画期的な前進だ」と述べ、一定の評価を示しました。
そのうえで、現地で保存される部分は世界遺産の構成資産になりうる部分の一部にとどまるという認識を示したうえで、「残されれば確実に世界遺産の構成資産になっていたであろう価値が失われることを残念に思う」と述べ、今後は現地で保存する範囲の拡大を求めていく考えを示しました。
市民団体「引き続き専門家と協議を」
旧門司駅の遺構の保存を求める市民団体「門司・北九州の未来を考える会」の門司支部長を務める吉田清春さんは、「一部を現地で保存すると方針を転換したことについては、こちらに耳を傾けてくれたと思っているが、保存する場所などは市が一方的に決めずに、引き続き専門家と協議をしてほしい」とコメントしています。
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