韓国で保守系の尹錫悦(ユンソンニョル)政権の閣僚らが、植民地時代の朝鮮半島の人たちは「日本国籍だった」と述べたことに、革新系野党などが猛反発している。「日本の統治を正当化し、植民地支配に対する独立運動の評価をゆがめる」とみているからだ。尹大統領には歴史問題を置き去りにして日韓関係改善を優先させたとの「親日批判」もあり、歴史観を巡る対立が激化している。(共同通信ソウル支局=富樫顕大)
▽日の丸隠して表彰式
「孫基禎(ソンギジョン)選手は日の丸を付けてベルリン五輪に出た」。2024年9月の国会で、雇用労働相に就任したばかりの金文洙(キムムンス)氏は、植民地支配下の1936年に行われたベルリン五輪マラソンに日本代表として出場した孫選手を挙げ、当時の国籍は日本だと主張した。
孫選手は金メダルに輝いたものの、表彰式で胸元の日の丸を隠した。日本でも公開された韓国映画「ボストン1947」のモデルになっている。
独立運動史を伝える国家報勲省傘下の「独立記念館」の館長に2024年8月就任した金亨錫(キムヒョンソク)氏も、当時の国籍を巡って同様の見解を示した。
▽独立運動は違法?
中部・天安(チョナン)の独立記念館の職員棟や周辺の道路には、新館長の辞職を求める横断幕が張られている。ある職員は「私たちには選挙権もなかった」と主張。金館長の考え方は植民地支配が合法と認めることにつながり「独立運動が違法になってしまう」と嘆いた。
2024年7月には、日本の植民地支配を肯定的に取り上げた書籍「反日種族主義」の著者の一人が、韓国文化を研究する教育省傘下機関「韓国学中央研究院」の院長に就任した。
こうした人事について与党関係者は「尹氏がそうした思想というよりも、(検事から大統領に転身して)政界の広い人脈がなく、知人の知人などが登用された結果ではないか」と推し量る。
▽戦争肯定で反平和的
大統領府の申源(シンウォン)シク・国家安保室長は、国会答弁で「韓国が法的な正統性を引き継ぐ上海臨時政府は日本による併合を違法とし、私たちが日本人でないと宣言した。植民地時代も私たちは日本人でなく韓国人と見るのが妥当だ」と指摘。金文洙氏らの主張を否定する。
しかし、元徴用工訴訟問題を巡る解決策などで「日本に免罪符を与えた」と尹政権を批判してきた野党は、「新・親日派」と政権への攻勢をさらに強める。
ソウル女子大の金鉉卿(キムヒョンギョン)助教授(女性学)は、植民地支配の是認は「アジア太平洋戦争の肯定にまでつながる。反民族的というだけでなく反平和的だ」と話した。
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