◆そもそも選挙権が認められていない
刑務所の敷地内。衆院選挙の掲示板が置かれ、選挙ポスターがずらりと貼られていた。もちろん、多くの刑務官や専門職、面会に訪れる関係者や弁護士など出入りがないわけではない。ただ現状では、関係者でなければおおよそ刑務所に立ち寄ることはないだろう。
無期懲役をテーマに執筆した「服罪－無期懲役判決を受けたある男の記録」（論創社）
というより、そもそも受刑者には選挙権は認められていない。「あえてここに設置しなくてもね…」。そんなことを男性と話した。 男性は無期懲役受刑者で、刑務所を出て仮釈放の身だが、あくまで「仮」であり、恩赦で執行が消えない限り刑期を終えることはない。公職選挙法では「禁錮以上の刑」に処せられている人が1票を投じることは禁じられている。 男性は続ける。「仮釈放になっても、民主主義に参加する権利は剝奪されたまま。言えた立場ではないが、投票させてもらえた方が、逆に社会に責任が持てる。私たちに選ばれたくないのだろうが…」◆刑の目的は更生支援に。受刑者に新たな権利は？
来年6月から刑務所では刑の目的を更生支援だと明確に掲げた「拘禁刑」が始まる。懲らしめを意味する「懲役」という言葉も判決から間もなく消える。刑務所にとって受刑者は「管理」から「支援」の対象へ、その立場を大きく変える。ただ、受刑者の権利が新たに認められるかというと別問題。 例えば選挙権。2013年に大阪高裁で、受刑者に投票権を与えないことに違憲判決が出ているが、広島高裁では合憲とされ判断は割れている。 世界を見渡せば、欧州の多くで、またイスラエルやカナダなどで、受刑者に投票権を与えており、決して珍しくない。服役することと、投票の自由を剝奪することとは、イコールで結び付けられないという考え方だからだ。日本でも拘禁刑創設を契機に議論が始まってもいいのではないか。 罪を犯すために生まれてくる人はいない。生きていく過程で、その時、それが最善の選択だと追い込まれる環境を強いられることで罪を犯すケースがほとんどだ。人間性と罪を犯すこととは分けて捉える。少なくとも司法福祉はそう考えて更生支援に取り組む。 今回出版された書籍は、男性が服役した刑務所以外にも順次届けている。「再犯のない社会に」。そんな一筆を添えて。社会福祉士として今後もできうる限りの一石を投じていきたい。 ◇
＜コラム・社会福祉士 × 新聞記者＞社会福祉士と精神保健福祉士の資格をもつ記者が、福祉の現場を巡って、ふと感じたことや支援者らの思い、葛藤等々を伝えていくコラムです。社会の片隅で生きる誰かのつらさが、少しでも社会で包んでいけるように願って。（木原育子） 【連載①】35年服役した男性が、再び刑務所を訪れたら… 同行した記者が見た、刑務官との信頼関係と決意の言葉
【連載②】「孤独な刑務所で、いちるの望みに…」仮釈放中の男性が受刑者たちに贈った自伝、そこに込めたメッセージ
【連載③】塀と鉄の扉で閉ざされた墓地…刑務所近くの丘に眠る人々とは 仮釈放中の男性は手を合わせ「ここに仲間が」と
【連載④】刑務所の敷地に並んだ選挙ポスターを眺め、「言えた立場ではないが…」仮釈放中の男性はつぶやいた（この記事）
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