子宮けいがんなどを防ぐための「HPVワクチン」をめぐっては、接種後に体の痛みを訴えた人が相次ぎ、厚生労働省がおととし3月までの9年間、積極的な接種の呼びかけを中止していました。

この間に接種の機会を逃した女性に対し、厚生労働省は無料で受けられる「キャッチアップ接種」を来年の3月末まで実施しています。

ワクチンは3回接種し、初回は今月末までに打つ必要があるとされていて、それに間に合わせようと接種を希望する人が増えています。

そうした中、ワクチンを製造するメーカーでは、在庫が少なくなり、先月3日から出荷を制限していることがわかりました。

医療機関側からの注文に対し、すべてを供給することができない状態になっていて、一部の医療機関では接種の予約を中止する動きも出てきています。

厚生労働省によりますと、地域の医師会から「ワクチンが足りない」という相談や「接種期限を延長してほしい」といった要請が寄せられているということです。

メーカーによりますと、現在、増産を急ぎ、徐々に供給量は増えつつあるということで、厚生労働省はすべての希望者が接種できるよう対策を検討しています。

厚生労働省は「接種の予約が取りにくい地域も出ているが、希望する人は複数の医療機関に問い合わせてほしい」と呼びかけています。

一部の医療機関 新たな接種の予約中止も

一部の医療機関では、HPVワクチンの出荷制限を受けて新たな接種の予約を中止するところも出てきています。

東京 千代田区にあるクリニックでは、HPVワクチンのキャッチアップ接種を行ってきましたが、先月のはじめに製薬メーカーの社員からワクチンの出荷制限を知らせる案内文を手渡されました。

すでに初回の接種を終えている人の2回目以降のワクチンは入ってきていますが、新たな接種希望者のワクチンは入荷できておらず、クリニックは新規の接種予約を中止しています。

接種を希望する人からは「なぜ打てないのか」などと困惑する声も聞かれるということです。

飯田橋レディースクリニックの岡野浩哉院長は「子宮けいがんで亡くなる人を防ぐためこれまで接種を呼びかけてきたのに、一転して『ワクチンがありません』と伝えるのは心苦しいです。希望者が接種できない事態は避けてほしいです」と話していました。

HPVワクチンとキャッチアップ接種

厚生労働省によりますと、子宮けいがんでは年間におよそ3000人の女性が亡くなっています。

特に若い女性に多く、25歳から40歳の女性の死因では、がんの中で2番目に多くなっています。

HPVワクチンの定期接種は小学6年から高校1年までの女性を対象に、2013年から始まりましたが、接種後に体の痛みを訴えた人が相次いだことなどから、積極的な接種の呼びかけがおととし3月までの9年間中止されていました。

この間、ほとんどの人が接種を受けていません。

このため厚生労働省は、接種機会を逃した女性を対象に今年度までの3年間、無料で受けられる「キャッチアップ接種」を行っています。

キャッチアップの初年度の接種率は、年齢別で2.2%から9%ほどとなっています。

製薬メーカーによりますと、出荷制限を解除する見通しは示していませんが、増産を急ぎ、今月は制限前の9月と比べて6万回多いおよそ68万回分のワクチンを供給する見通しだということです。

専門家「医療機関はまず初回の接種を優先して」

ワクチンの流通に詳しい順天堂大学革新的医療技術開発研究センターの伊藤澄信 特任教授は「3回分のワクチンを一度に注文する医療機関があり、需要が急増してしまったと聞いている。メーカーも増産すると聞いているので、医療機関はまず、初回の接種を優先してほしい。また、予約が取れない方も不安に感じずに、自治体に相談してほしい」と話しています。

そのうえで、ほかのワクチンでも同様の事態が起きうるとして「ワクチンが一部の医療機関に集中しないように、厚生労働省が流通をある程度、コントロールしていくことが大事だ」と指摘しています。

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