「ながら運転」事故 ドライブレコーダーの映像
「ながら運転」の自転車が衝突 夫を亡くした女性
専門家「被害者にも加害者にもなるおそれ」
「ながら運転」は危険 実験映像で見る
【QA解説】改正道路交通法 何がどう変わる
具体的には、携帯電話を使用しながら自転車を運転して事故を起こすなどの危険を生じさせた場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金、危険を生じさせなくても携帯電話を手に持ちながら通話や画面を注視した場合、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。また、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある「酒酔い運転」には罰則がありましたが、罰則の対象外だった「酒気帯び運転」についても、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。さらに、自転車と勘違いされやすい「モペット」などと呼ばれる電動モーターやエンジンで走行できる二輪車についても、ペダルをこいで運転するモードにしても自転車と同じ扱いではなく、原付きバイクやオートバイに該当すると明確化されます。警察庁によりますと、自転車が関係する人身事故は9月末までに全国で4万9044件起きていて、このうち自転車の「ながら運転」による事故は126件発生しているということです。全国の警察は法改正や交通ルールについて周知を図るとともに、悪質な違反を取り締まることにしています。
都内で撮影されたタクシーのドライブレコーダーの映像です。画面左側に見える自転車の男性は左手にスマートフォンを持って運転しています。タクシーが車線変更した際に自転車の男性もタクシー側に近づき、接触してしまいました。また、福岡市で撮影された映像では、片側1車線の道路をタクシーが進んでいると、反対車線にとまっていた車の後ろから自転車が出てきてぶつかりそうになりました。携帯電話で通話しながら片手で運転していたとみられます。
自転車の「ながら運転」による事故で、62歳の夫を亡くした女性がNHKの取材に応じました。事故は6年前の2018年、茨城県内で起きました。女性の夫は最寄りのバス停から自宅に向かって歩いているときに前から走ってきた自転車と衝突し頭を強く打って亡くなりました。自転車を運転していたのは当時19歳だった大学生で、ライトが点灯しない状態でイヤホンで音楽を聴き、スマートフォンを見ながら運転していたため、女性の夫に気づかずにぶつかったということです。女性は当時の心境について、「自転車との事故だったと聞いて当初は、『車じゃなくてよかった』と思いました。自転車事故で亡くなる人がいるのは聞いたことがありましたが、まさかそうなってしまうとは思ってもいませんでした」と振り返りました。また、「ながら運転」だったことについては、「ほとんど街灯もない道で、なんでスマホなんて見ていたんだろうと思いました。本人は、『急いでいて、時間を見るためにちょっとだけスマホを見てしまった。とにかく全部こっちが悪いです』と言っていましたが空虚な気持ちになりました」と言葉を絞り出していました。事故以来、交通ルールを守らない自転車が目に付くといい、「なんでスマホを見ながら運転しているのだろうと思うのですが、注意したくても怖くて注意できない自分が情けないです。自転車は幼児からお年寄りまで免許なしで乗れる、身近な交通手段ですが、ルールを守らなかったり、ちょっと油断したりすると、凶器になってしまうことをわかってほしいです」と訴えていました。夫については、「温厚で達観している人でした。36年連れ添いましたが、愚痴を聞いたことは1回もなく、いつも私の愚痴を聞いてくれました。料理も作ってくれたし、散歩も映画も一緒に行って、夜遅くまでよくおしゃべりしていたので、いなくなって今でもとても寂しいです」と話しました。
自転車での「ながら運転」について、専門家は「歩行者や車に衝突する危険性が非常に高まり、自身が被害者にも加害者にもなるおそれがある」と指摘します。
交通工学が専門で「ながら運転」の危険性に詳しい愛知工科大学の小塚一宏名誉教授は、改正道路交通法が施行されるのを前に、自転車での「ながら運転」の危険性を検証する実験を行いました。自転車を運転する学生の頭に視線がどこに向いているのか測定できる機器を取り付け、周囲に歩行者がいる状況で大学内に設置したおよそ40メートルの直線のコースを走ります。実験で撮影された映像を小塚名誉教授たちが分析したところ、通常の運転では、歩行者に視線が向いていた「目視時間」の合計が、12.8秒から14.8秒だったのに対し、「ながら運転」では最も長かったケースでも、6.4秒と半分ほどでした。最も短いケースでは、1.4秒しか歩行者に視線を向けていなかったということです。小塚名誉教授は、「人は、歩行者や車に視線が移動して、その視覚情報が脳に届き、脳で認識されて初めて、歩行者や車の動きがわかるので、視線が動くことが重要だ。『ながら運転』をすると、視線はスマートフォンの画面付近にとどまり、視線はほとんど移動せず、歩行者や車の動きを認識できない。当然、歩行者や車に衝突する危険性が非常に高まり、自身が被害者にも加害者にもなるおそれがあるので、十分に気をつけてほしい」と話していました。実験に参加した学生は、「画面を見るために下を向いているので、歩行者が密集している場所ではすごく危なかった。スマートフォンで地図を見るときは、いったん自転車を止めて確認してから運転するようにしたい」と話していました。
実験で撮影された映像です。映っているのは、自転車を運転する学生から見えている視界で、オレンジ色の丸印が、視線が向いている場所を表しています。スマートフォンを持たない通常の運転の場合は、歩行者の方向にオレンジ色の丸印が動き、広い範囲に視線を向けていることがわかります。一方で、スマートフォンを操作しながら自転車を運転する「ながら運転」の場合には、スマートフォンの画面にオレンジ色の丸印がとどまっていて、画面に視線が集中しています。そのため、目線が下向きになっていて、歩行者が通過してもオレンジ色の丸印が歩行者の方向に動かない場面も見られました。
自転車に関する法律の改正で何がどう変わるのか。ポイントをQAでまとめました。
Q.11月1日から何が変わる?A.自転車の交通違反への罰則強化などを盛り込んだ改正道路交通法がことし5月に成立し、11月1日から施行されます。ポイントは3つです。1つ目は、携帯電話を使いながら自転車を運転するいわゆる「ながら運転」を禁止して、罰則を設けること。2つ目は、これまで罰則の対象外だった自転車での「酒気帯び」運転に罰則を設けること。3つ目は、自転車と勘違いされやすい、「モペット」などと呼ばれる電動モーターやエンジンで動く二輪車を原付きバイクやオートバイに該当すると明確化することです。
Q.携帯電話の「ながら運転」はどう変わる?A.自転車の「ながら運転」は、都道府県の公安委員会が定める規則ですでに禁止されていました。しかし、「ながら運転」による事故は全国でおととしは155件、去年は197件と、増加傾向になっていました。そこで今回、法律で禁止し、新たに罰則を設けることになりました。
Q.ながら運転の罰則はどれくらい?A.これまでは全国一律で、5万円以下の罰金でしたが、法律で禁止され、罰則も強化されました。具体的には、携帯電話を使用しながら自転車を運転して事故を起こすなどの危険を生じさせた場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金、危険を生じさせなくても携帯電話を手に持ちながら通話や画面を注視した場合、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。
Q.どんな行為が違反になる?A.ながら運転の違反行為は、「通話」と「画面の注視」があります。「通話」は、携帯電話を手に持って通話をすること。手に持たずにハンズフリーの形で通話する場合は該当しませんが、イヤホンなどで周りの音が聞こえない状態で自転車を運転する行為は別の規定で禁止されています。「画面の注視」は、2秒以上見続けることが目安となっていて、メールや動画を見ることはもちろん、地図アプリを操作しながら運転する行為も該当します。一方で、車のカーナビのように自転車に固定したうえで、画面をちらっと見るだけなら当てはまりません。スマートフォンをハンドル部分に固定した自転車を見かけますが、これ自体は違反ではありません。ただ、注視すると違反になるので、操作をする場合は、自転車を止めてから行ってください。
Q.酒を飲んで自転車を運転するのは、以前から違反では?A.これまでも酒を飲んで自転車を運転することは法律で禁止されていました。ただ、罰則の対象となっていたのは、“めいてい状態”など、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある「酒酔い運転」で、「酒気帯び運転」は罰則の対象外でした。しかし、「酒気帯び運転」による死亡・重傷事故率は、飲酒していない場合と比べ、およそ1.9倍に高まるなど、危険なため今回、罰則が設けられました。「酒気帯び」の状態で自転車を運転した場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
罰則の対象となるのは自転車に乗る人だけではありません。自転車で居酒屋に来るなど、「酒気帯び運転」をするおそれのある人に酒を提供した人は2年以下の懲役または30万円以下の罰金、自転車を提供した人は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
Q.「モペット」などと呼ばれる、ペダルが付いている二輪車は何が変わる?A.「モペット」は、電動モーターやエンジンで走行できる二輪車で、原付きバイクやオートバイに該当します。歩道を走ってはいけないなど、原付きバイクなどと同じ交通ルールが適用されていますが、ペダルが付いているため、自転車と勘違いしている人が多いということです。これまで、法律上はモペットに特化した記述はありませんでしたが、モペットによる交通違反や事故が増加したことから、今回、明確化しました。
Q.モペットをペダルをこぐモードで運転したら自転車の扱いになるの?A.自転車の扱いにはなりません。たとえ、ペダルをこぐモードにしたとしても、原付きバイクやオートバイに分類されるということが明記されました。利用者をはじめ、国民に広く、モペットは原付きバイクやオートバイと同じ交通ルールなんだと認識してもらうのがねらいです。
Q.自転車で交通違反をするとどうなるの?A.現在、自転車に対する取締りの多くは、専用のカードを使って交通ルールを指導する「警告」で、去年は全国でおよそ133万件に上りました。一方、自転車による悪質な違反に対しては、交通切符、いわゆる「赤切符」が交付され、刑事罰の対象として検察庁に送られることになっています。また、「ながら運転」や「酒気帯び運転」など、こうした危険行為で3年以内に2回以上、交通切符を切られたり、交通事故を起こしたりした場合、「自転車運転者講習」を受ける必要があります。各地の運転免許センターで、自転車事故の被害者や遺族の体験談が紹介され、自転車事故の映像を見たり、ディスカッションをしたりしながら、交通ルールや事故の悲惨さについて学びます。通知を受けても受講しなかった場合、5万円以下の罰金が科されます。去年1年間で全国で631人が受講したということです。さらに、ことし5月に成立した改正道路交通法では、車やオートバイと同じように、自転車での交通違反に対して反則金を納付させるいわゆる「青切符」を導入することが決まりました。「赤切符」などで検挙されても、違反者の多くは起訴されず、実際に罰則が適用されるケースが少ないため、実効性のある取締りとして「青切符」の導入が必要だと判断されたためです。今後、2年以内に施行される見通しで、警察庁は交通ルールの順守の徹底と制度の周知を図ることにしています。自転車は免許証が必要ないため、誰でも気軽に乗れる一方、車やバイクを運転する人に比べ、交通ルールや安全性について学ぶ機会が少ないのが実情です。自転車も車両であるという認識を改めて持ち、これまで以上に交通ルールを守ることを心がけてほしいと思います。
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