臓器移植専門委 新たな基準の案を承認
心臓移植待つ患者 平均待機期間5年近く
家族との時間大事に 自宅療養決断し移植を諦めた患者も
大阪・吹田市にある大阪大学医学部附属病院では現在、8人の患者が入院して治療を受けながら心臓移植の機会が巡ってくるのを待っています。この病院に入院しているのは心臓の状態が理由で補助人工心臓が使えなかったり一度は補助人工心臓を着けたものの合併症を起こしたりした患者で、最も長く待機している人は入院期間が5年にわたります。
移植を受ける前に死亡してしまう患者も毎年のようにいるということで、大阪大学医学部附属病院循環器内科の赤澤康裕医師は「患者は5年待つんだという相当な覚悟を決めて入院してくる。移植待機ができる状態を維持するために自己管理を徹底しストイックな生活を淡々と続けていて頭が下がる思いだ。緊急度の高い患者が優先される仕組みになれば、これまでは移植にたどり着けなかった患者の命を救える可能性があり、非常に喜ばしいことだ」と話していました。
重い心臓疾患がありながらも家族との時間を大事にするため、移植を諦めていた患者もいます。福岡県宗像市の末次佳子さん(37)です。夫と5歳の子どもと暮らす末次さんは移植の待機リストに登録していますが、心臓の状態が補助人工心臓に適していないため使えず、入院せずに自宅から通院して治療をしているため、現在の基準では優先順位は高くありません。30歳の時、不妊治療のために受けた検査がきっかけで、まれな種類の心筋症を患っていることがわかりました。病気が見つかった時点で症状は重かったものの、不妊治療を優先し、子どもが産まれてから1年後に治療を始めました。カテーテルによる治療に加え、不整脈が起きた際に作動する「除細動器」を心臓に埋め込むなど2回の手術を行いましたが病気の進行は止まらず、心臓の移植以外に治療の方法はないといいます。医師からは入院して心臓の働きを助ける点滴をすることで、移植の優先順位を上げることも提案されましたが、待機期間が平均で5年に及ぶということを知り、「短い命でもいいので家族と一緒にいたい」と考え、自宅での療養を続けることを決めました。ふだんは心臓に負担をかけないよう気をつけて毎日を過ごしていますが、200メートルほど歩くと苦しさで歩けなくなったり、常に強い吐き気を感じたりと徐々に症状が悪化していることを自覚しています。ことし6月には自宅で不整脈が起きて30秒以上にわたり意識を失いました。心臓に埋め込んでいる除細動器が作動し、意識を取り戻しましたが、残されている時間は長くないと感じています。
多くの待機患者が入院して心臓移植を待つ中、自分が移植を受けることは現実的ではないとあきらめていた末次さんですが、緊急度に応じて移植の優先順位が見直されることに希望も持っています。末次さんは「治療を諦めても家族と一緒にいられるならそっちの方がいいと思ってきました。それでも少しでも可能性があるなら列の最後尾でもいいから並ばせてくださいという気持ちでした。優先順位の基準が変われば移植を受ける可能性が高まるかもしれないので、期待をしたいですが、期待しすぎてもつらいので複雑な気持ちもあります」と話していました。
末次さんの外科治療を担当する九州大学病院ハートセンター長の塩瀬明医師は「患者からは『入院しないと移植へのカウントさえ始まらないというのは、絶望でしかない』と聞いたことがあり、常々システムを変えてほしいと思っていた。移植のチャンスがないまま亡くなる患者を減らすためにも今後も制度の改善を常に考えていく必要がある」と話していました。
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