サタデーウォッチ9(10月19日放送予定)

SNSの投稿に貼られた記事のリンクをクリックしてみると、広告だらけのサイトに。

記事の本文を見ようとするとさらに広告が。

そして、少しスクロールするだけで、新たに画面中央にも広告が。

関連する記事の部分はごく一部、画面のほとんどを広告が占めている。

「見たことありますね」
「うざいですね。うっとうしい」
「(サイトを)見る気なくします。読みたい記事までたどり着けないことがあるので」

街中で話しを聞くと、こうした声が多く聞かれた。

ネット広告の仕組み:主流は「運用型」

そのつど広告を消さないと記事が読めないような作りだったり、記事自体の情報性がなかったりする、このようなサイトがあとをたたないのはなぜなのか。

その背景には複雑なネット広告の仕組みがある。

インターネット広告には主に2つの種類がある。

▼どこの枠にどの期間表示するか事前に決める「予約型」、
そして▼アクセス履歴などから最も効果的だとされるサイトに自動的に表示される「運用型」だ。

現在の主流は運用型で、ネット広告費全体の85%を占めている。

消費者1人1人のスマホの閲覧履歴などを元に、売り込みたい特定の属性の人をターゲットに広告を出せる。

この仕組みには、さまざまな広告代理店や広告配信プラットフォームなどが介在していて、どの広告がどのサイトに掲載されるのかは、リアルタイムの自動的な入札の取り引きなどで決まっている。

このため、実際にどのサイトにどのように表示されるかを管理することが難しく不透明になりやすいと指摘されている。

こうした中で、広告収入を得ることだけを目的にした迷惑サイトが次々に立ち上がり、さまざまな問題が紛れこみやすくなっているのだ。

頭を悩ませる広告主

こうした状況に頭を悩ませている広告主の企業もある。

都内の人材サービス会社。

最近、求人などの自社の広告が望まぬ形で迷惑サイトに掲載されるケースが目立つという。

実際に表示されたサイトを見せてもらった。

数行の記事の周囲をぐるりと広告が取り囲んでいる。

サイトの運営者の情報を見に行こうとすると全画面に広告が表示された。

スマートフォンで見るとさらに広告の圧迫感が強い。

スクロールしようとすると下の方に広告バナーが現れ、うっかり押しそうになる。

担当者の田中さんは、こうしたサイト経由の広告効果は非常に低く、広告費が無駄に使われていることになると話した。

エン・ジャパン 田中奏真 マーケティング部長
「クリックはたくさんあったんですけど、その後の会員登録とか求人の応募は一切なかったんです。そうしたサイトに広告を掲載しているとクリックごとに課金されてしまうので、広告費が無駄になってしまうところに困っています。しかもサイトの記事には誤字脱字があり、画像もおそらくコピーしたもので、ユーザーが見たときにその広告に対してネガティブな感情を抱いてしまう」

会社では、広告配信プラットフォーム各社に広告枠を出すサイトの品質を保つよう要望しているほか、実際にどこに掲載されたのか目を配り、悪質なサイトへの出稿を防ぐツールを導入するなどの対策を行っている。

こうした対応をしなければ、このようなサイトに掲載される広告の費用は月に1000万円に上ると試算しているという。

ただ、次々に新しいサイトが立ち上がる中、完全に防ぐことは難しいという。

そして、会社のイメージや信頼性の低下につながるのも問題で、さらに、押し間違いを誘導するような自社の広告が出ることで消費者から見て自分たちが迷惑な広告の共犯者のようになってしまうのも本意ではないと話した。

エン・ジャパン 田中奏真 マーケティング部長
「強い危機感を抱いています。消費者にいまただでさえ広告に対してネガティブな感情を持たれているのに、いっそう広告は見たくない、広告を出す企業のブランドは使いたくないという負の感情が膨れ上がってしまい、広告業界全体に悪影響が出ると思います。地道に対策をしていくしかありません」

去年から急増か

企業が頭を悩ませる中、こうしたサイトは、最近、急激に増えているとみられている。

広告不正対策を手がける東京 港区の会社。

広告主の企業から依頼を受け、こうしたサイトを検出し、広告が掲載されないような対策をサポートしている。

会社によると、2、3年前からこうしたサイトが目立つようになり、去年の冬ごろから増加のペースが上がっているという。

特徴として、デザインがよく似ていて、インターネット上の住所にあたる「IPアドレス」が同じウェブサイトが、いくつも見つかっている。

会社では、去年1年間で、国内でおよそ200億円の広告費が、こうしたサイトに流れ込んでいる可能性があると試算している。

中には、人間ではない自動プログラム、botによって、実際よりも多く広告がクリックされたように見せかけ、広告費を不正に水増しているおそれのあるサイトも含まれているという。

Spider Labs 赤石暁さん
「ウェブサイトはテンプレートがあれば機械的に自動的に作ることができるし、最近だと記事の内容も、生成AIで自動的に生成したような古い情報をまとめたようなものも多いです。簡単に不正ができる環境ができていて、余計に対策が難しくなっています。」

サイトの実態を追う

この会社が、ことし8月までの半年間で、広告費目当てだと判定したウェブサイト741件について、NHKが詳しく分析した。

サイトの内容を見ると、雑多な記事を掲載しているニュースサイトやブログのようなものが251サイトと最も多く、次いでウェブ上で遊べる「ブラウザゲーム」などを寄せ集めたようなサイトが200サイト余りに上っていた。

ニュースサイトやブログの内容を見てみると、生活に役立つ情報や経済・ITに関するニュース記事が掲載されていて、英語のサイトが多かったが、韓国語やフランス語、日本語で書かれたサイトもあった。

文章の特徴から生成AIが書いた可能性を判定するツールで調べた。

すると69件のサイトの記事が生成AIで書かれた可能性があると判定され、このうち28サイトの記事は、極めて高い可能性と判定された。

そうした記事では、文章がいくつかの段落ごとに分けて書かれているほか、最後に「結論」という段落でまとめられているなど、生成AIの文章の特徴が見られた。

こうしたサイトを運営しているのは誰なのか。

ある日本語のサイトに注目した。

このサイトは、バズった話題や画像、著名人のゴシップなどの記事を複数掲載。

表示された半分は広告で占められていた。

さらに、このサイトと同じ運営者とみられ、同じように過激な見出しや記事を掲載しているサイトはほかにも26見つかった。

日本語だけでなく、英語や中国語、ポルトガル語で書かれていたものもあった。

そして、こうしたサイトに誘導するための投稿が、SNSで急増していた。

旧TwitterのXでは、刺激的なタイトルと画像でこれらのサイトに誘導する投稿が今年に入って急激に増えていて、先月1か月だけで5万9000件余りに上った。

記事の削除依頼や問い合わせ先としてサイトに記載されていたアドレスに何度かメールしたが、このアドレスは使われていないという返信メールが届いた。

そこで、サイトの中身をさらに詳しく調べてみた。

すると、ページ上では表示されていないサイトのデータの中に、日本人の女性と思われる名前と都内の住所が書かれているのが見つかった。

その住所を訪ねてみると、そこはある事務所だった。

事務所の人によると、確かにサイトのデータにあった女性は以前ここでアルバイトをしていたというが、サイトについては知らないと話した。

そして、その女性は今は辞めていると話した。

さらに、この女性が、中国のネット広告関連会社の日本法人の代表に一時期なっていたことがわかり、私たちは、その会社の所在地を割り出して、訪ねた。

都内のマンションの一室で、会社の表札はかかっていたものの、呼び鈴を鳴らしても反応はなかった。

その後も、日時を変えて何度か訪ねたが、連絡は取れていない。

世界に広がる広告費目当てのサイト

こうしたサイトは、いま、世界的に広がっていると、広告不正対策を行う会社のエウリコ・ドイラドCTO(最高技術責任者)は、指摘する。

エウリコ・ドイラドCTO
「サイトの運営者は、組織や個人などさまざまだと思います。もともとアドフラウド(広告不正)を行っていた海外のグループもあれば、国内の副業セミナーなどで広告費を稼ぐ手法を知った人もいると思います」

そしていま、日本のネット広告市場が狙われていると指摘する。

大手広告会社の調査では、去年1年間のインターネット広告費は3兆3330億円と過去最高を記録。

テレビや新聞を抜いて最も多くの割合を占める。

そうした中、生成AIの登場で、翻訳の精度が上がり、また簡単にサイトを作れる環境になったことなどから、国内外の多くのサイト運営者などが、こうした広告収入を得るのを目的としたサイトを立ち上げようとしているとみられるという。

エウリコ・ドイラドCTO
「こうしたサイトは多くの金額が得られる割に、明確に詐欺とはいえず制裁もないので、運営者にとってリスクが少ない状況です。加えてネット広告の流れがブラックボックスになっている中で、なかなかお金の流れを止めることはできません。それぞれの広告主が広告の出る先の透明化を求めていく必要があると思います」

ネット広告のエコシステム

こうしたネット広告の問題は、サイトの運営者のほかに、広告主、広告配信プラットフォーム、そして消費者も関わっている。

今月開かれた、ネット広告関係者が集まる国内最大級のイベントでも、この問題が取り上げられた。

「ユーザー体験を意識しない広告主や代理店、広告枠の管理が不十分なプラットフォームなど、ネット広告業界に広く責任がある」
「新たなツールの導入が利便性を高めるだけではないという現状を理解していくことが重要」

広告主やメディア運営者などがそれぞれの立場から対応していく必要があるという意見が出た。

広告主で作る業界団体「日本アドバタイザーズ協会(JAA)」は、プラットフォーマーへ対策の強化を求める一方、広告主自身に対し、「広告がどのメディアに出てどこに費用が使われているのかを認識し、不適切なメディアに資金が流れないよう最大限の注意を支払うべきだ」と、高い倫理観を持つ必要があると提言している。

そして、広告配信プラットフォームの運営者のひとつ、Googleは取材に対し、次のようなコメントを寄せた。

「Googleの広告を掲載して収益化する際のポリシーは厳格に定められています。例えば、広告表示のみを目的として公開されているページに広告を組み込むことは禁止されている行為の一つです。有用性の低いコンテンツの画面にGoogleが配信する広告を配置することはできません。また、誤クリックを誘導する行為はいかなるものも認められません。ポリシーに違反する広告掲載の検知と対応のための投資を継続して行っています」

見てきたとおり、ネット広告の運用型広告は、広告主や配信プラットフォームが、掲載するサイトや枠を完璧に管理するのが難しい複雑な仕組みになっている。

そうした中、対応を取ろうとする動きも一部は見られるが、大きな流れにはならず、迷惑サイトがあとを立たない状況がいわば放置されている。

専門家は、このままの状態が続くと、影響は広告業界だけにとどまらず、社会に幅広く悪影響を及ぼすと指摘している。

コンテンツメディアコンソーシアム 長澤秀行 事務局長
「問題を放置し、簡単に作れる迷惑サイトに多くの広告費が流れることで、コストをかけてコンテンツを作ったサイトがだんだん弱ってくる。情報収集にあたっての不便さや偏りが出てくるおそれもある」

私たちがネットで多くのコンテンツを楽しむことができるのは、ネット広告の収益に支えられているからだ。

だからこそ、このネット広告の仕組みが健全に働かないと、コンテンツの質の悪化につながり、本当に役立つ良質な情報が見られなくなってしまう、つまり私たちユーザーの利便性や利益が大きく損なわれるおそれがある。

過激な見出しの記事をどんどんクリックすることで、結果的に迷惑サイトの運営者にお金を流れているかもしれない。そのことに十分に自覚的になることが必要だと思う。

(ネット広告の闇取材班:絹川千晴 斉藤直哉)

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