NHK NEWS おはよう日本

2024年10月19日 - NHK NEWS おはよう日本 放送予定
役所広司さんインタビュー

10月某日。
役所広司さんは、意外にも少し緊張した面持ちでインタビュー場所に現れました。

赤木アナ
「よろしくお願いします。緊張します」
役所さん
「僕も緊張します」

しかし、映画や演じることに話が及ぶと、慎重にことばを選びながらも熱をもって語り始めました。

Q. 俳優生活45年を迎え、いま、演じることをどう感じていますか?

「もともと自分が映画館で映画を見て、すごい影響を受けてきて。
映画館に入っていく自分と、映画館から出ていく自分が、こう何か変わっているような感じってあるじゃないですか。
映画を見た人が映画館から出ていくときに違う自分になっている感じ。
そういう影響を人に与えられるような仕事をしたいと思ってこの世界に入ったんですけど。
あと何本そういう仕事ができるか。
もうカウントダウンが始まってきている年代ですから。
でも、できるだけ自分が参加した映画が50年100年残っていく作品に出会いたいなっていうのは、最近は特に思いますね」

映画で描き続けるべきは “正義の物語”

そうした中で役所さんが出演を決めた作品の一つが、今月末に公開される映画『八犬伝』です。

役所さんは、「南総里見八犬伝」を執筆した江戸時代の作家・滝沢馬琴を演じました。

正しいものが勝つ勧善懲悪の世界を描いた「南総里見八犬伝」。

刊行されるとたちまち評判となり、物語を絵やひらがなでまとめたいわばダイジェスト版が多く流通。

庶民の間にも広まっていきました。

さらに、昭和の時代には八犬伝の世界を人形劇で表現する番組「連続人形劇“新八犬伝”」も放送され大人気を博すなど、時を超えて日本のエンターテインメントに影響を与え続けています。

映画では、「南総里見八犬伝」の物語を描いた“空想世界”と、馬琴が物語を執筆する過程を描いた“現実世界”の両方が描かれています。

“空想世界”で勧善懲悪の世界を描こうとした馬琴。

しかし、“現実世界”では周囲から「正しいものが勝つとは限らない世の中で正義を描く意味があるのか」と問われ、苦悩します。

さらに、晩年には両目の視力を失い、自分で筆を執ることができなくなります。

それでも、馬琴は40代後半から70代まで、28年の歳月をかけて物語を書き上げたのです。

映画の制作指揮を執った曽利文彦監督は、構想当初から「役所さんが滝沢馬琴を演じなければこの映画は成立しない」と考えていたといいます。

曽利文彦監督
「役所さんが演じられた作品の中のイメージにある揺るがない真の強さみたいなものが、滝沢馬琴と被るというのがありました。
馬琴は28年かけて『南総里見八犬伝』という作品をずっと描いたわけですよね。
途中でくじけそうになったこともあるかもしれないですけれども、28年間、しかも目が見えなくなっても描き続けた。
完成させるという信念、もはや執念かもしれないですけども、そうしたものを演じきれる役者さんというと、日本では役所さんが一番自分の中ではぴったりだと思い込んでいました」

そして役所さんもまた、馬琴の思いに、みずからの映画に対する思いを重ねていました。

Q. 滝沢馬琴を演じるにあたり、役作りはどのように進めましたか?

「40歳から亡くなる80歳ぐらいまでの長い時間の変化を丁寧に描くので、まずはメイクさん、衣装さん、床山さんが作ってくれる、年老いていく過程のふん装にかなり影響を受けて、役がそこで自分の中に入ってくる感じがしましたね。
自分が台本だけ読んでいるときはそこまで想像できないことがあるんですけども、実際ふん装してセットの中に入ることで、こんな所で暮らしているんだなとか、10年後の場面ではセットはずいぶん変わるんだなっていう。
やっぱりその美術的なもので、役がものすごく入っているんですね」

Q. 馬琴の“正義”を一貫して描く姿。その考えに共感しましたか?

「そうですね。
悪が得をするような世の中ではいけないというテーマはどの時代でも永遠のテーマでしょうけども、僕たち物語を作っている人間としては、特に永遠のテーマですよね。
改めて今の時代に正義を貫くというのは美しいんじゃないかと思いますね。
現実はやっぱりこう、悪がいい思いをする世の中でもあるんでしょうけども、正義が報われることがない世の中っていうのは非常になんかこう悲しい世の中だと思いますので、正義が報われることは、映画でも描き続けていかなければいけないものだと思いますね。
汚れた世の中を描いてそれでおしまい、現実を突きつけてそれで感じてもらうっていうのもあるんでしょうけれど、でも見る方がやっぱりこう、ああ、これではいけないなと感じてくれるものでなければいけないと思いますね」

映画界に訪れたピンチ もう一度、若者が憧れる映画界に…

映画の持つ可能性に魅了され、走り続けてきた役所さん。

しかし、その憧れた日本映画の世界が揺らいだ時期がありました。

コロナ禍の頃、多くの映画が制作中止となり、たくさんのスタッフや俳優が映画の世界から去らなければならないという事態に直面したのです。

「その間はもう何の保証もないわけだから、みんな自分が夢見たドラマ作りとか映画作りの現場から去らなければならなかった。
何の保証もされてないので、やっぱり素晴らしい才能がどんどんどんどんそういうところからいなくなるような気がしますよね。
この映画の業界は、僕が生きている間にはそんなに変化はないでしょうけれども、でも、もっといい環境になっていくために、もう少しの時間で、これから映画界を目指す若者たちが来てくれるような、いい環境の職場であるようにしたいな、そうできるといいなと思いますね。
かつて、日本映画というのは、本当に世界中から尊敬されていたと思うんですよ。
そういう日本映画を目指して、いい才能が来たがるような職場になるといいなと思います。
あそこに行きたい、あそこでいい仕事がしたいというふうに思われるような業界でなければいけないと思う」

映画館は “人生の教室” 見てくれた人にいい影響を与えたい

俳優となって45年。

日本映画界をけん引する存在となった役所さんに、改めて、役者として表現し続けていくことの意味を尋ねました。

すると、「難しい質問ですね…」としばらく考え込んでから、こう答えてくれました。

「僕がこんなことを言うとおこがましいですが、僕が映画ファンとして、やっぱりいい映画を見たとき、すごく自分の人生に関わっていくような映画との出会いってありますよね。
教えてくれることがたくさんある。
だからそういう意味では、映画館って本当に人生の教室っていうんですかね、いいことを教えてくれることはあると思うんですよ。
だからもうワンシーンだけでも、ワンカットだけでもいいと思うんですけど、見てくれたお客さんに何かこういい影響を与えてくれるんじゃないかと。
それを信じて、そしてそれがまた仕事になっているということが、僕にとっては大きな意味かな。
まぁ、生活していかなきゃいけないし、生きていくための手段でもありますけど、でもそれを超えたところで何かこう、いい影響が与えられるといいなと思いますけど」

そして最後に、これから演じてみたい役を聞いてみると…

「老人と若者のロードムービーっていうんですかね。
そういうのをやりたいですね。
せっかく老人になったから。
ちゃんと欠点も持ちながら、若者と一緒に、子どもでもいいですけど、子供も老人も成長していくような物語みたいなのないかなと思いますね」

その映画では私たちにどんな“いい影響”を与えてくれるのか、今から楽しみでなりません。
(放送予定・10月19日おはよう日本)

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