収入が最低生活費以下となっている人に、困窮の程度に応じて、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を援助する「生活保護制度」。2023年度は申請件数が4年連続で増加し、25万1364件となった。その一方で、受給者数は年々減少傾向で、202万577人に。「保護率増減マップ」によれば、12の市区では、保護率が過去10年で40%以上も減少しているという。
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このうち群馬県・桐生市は41.1%減少したが昨年、違法行為や人権侵害が長年行われてきたことが発覚。生活困窮者に対し、生活保護の利用を認めず追い返す「水際作戦」の実態とは。『ABEMA Prime』では専門家にその原因を聞いた。
■窓口で追い返す「水際作戦」
生活保護制度は「働くことができない。働いても収入が不十分」「預貯金や資産(居住中の住居除く)がない」「他制度(年金など)の給付が受けられない」「親族等から援助を受けられない」などの理由で、最低限の生活が送れない人を対象にしている。東京23区の単身世帯であれば、月額約12〜13万円が支給される。申請件数は増えているものの、保護率が減っていることについて、SNSで「生活保護おじさん」として活動する、つくろい東京ファンド新規事業部長の佐々木大志郎氏は「役所側が抑制することもかなり増えていると感じる。一方で、緊急支援の対象者に若い人が増えている。20代から40代の働き盛りの人が、いわゆるスポットワーク、隙間バイトアプリで働きながら、最低生活ぎりぎりのところで稼いでいる。ぎりぎりで生活できているということで、生活保護は受けられない。生活は苦しいが生活保護は受けられないことも保護率低下につながっているのでは」という。
また世田谷区で保護担当職員を務めた経験がある田川英信氏は、「いくつかの自治体でひどい運用が問題になったが、貧困が広がってる中で保護率が40%以上減少しているのはやはり異様で、ありえない。水際作戦をしている可能性は非常に高い」と、不当に申請者を追い返してしまっている現状があると指摘した。
実際に水際作戦は、どう行われるのか。佐々木氏によれば、申請者に対して親・兄弟などの親族に伝えるということ。申請の際、親族に連絡を取る必要はないが、担当者がそう伝えることで、申請者は「ずっと連絡していないので」と断念するという。また、住居がない場合は仮住まいできるが、その環境が劣悪であることを伝えることで「行きたくない」と諦めるケースは多い。
また田川氏は「法の運用を正しくしていない。不動産も一定程度であれば持っていていいのに、処分しなさいと言って追い返す。また今、経済的に困っているのに『若いのだからまだ働けるだろう』と追い返している事例は結構ある。生活保護は資産が一定以下なら誰でも利用できるが、仕事の探し方が悪いなどと追い返す実態もある。もともと生活保護はなるべく利用しない方がいいという価値観を持っている職員もいる」と述べた。
■自治体によっては全額、国が負担のケースも
生活保護費は4分の3が国、残りの4分の1を自治体が負担するとされている。2ちゃんねる創設者のひろゆき氏は「生活保護の人に12万円支払うとして、自治体の負担は3万円。保護された人が自治体で12万円使えば、自治体としては国から金を引っ張れて、町は豊かになるのではないか」と指摘したが、これに田川氏は地域によって、さらに国が負担するケースもあるという。「地方交付税交付金というものがある。お金持ちの自治体は4分の1負担だが、そうでないところは、まるまる国からのお金で地域経済が回る形になっている」。つまり、生活保護費のほぼ全額を国が出し、自治体の負担がないという。しかもその数は全自治体の9割以上にものぼる。それではなぜ、水際作戦のようなことが起きるのか。これには様々なパターンがある。たとえば窓口に立つ担当者の負担の大きさだ。佐々木氏は「お金を出す以外にも、いろいろなことがある。就労できない人であれば一緒にハローワークに行くし、精神疾患の方であれば病院を手配するといった生活の相談がどんどん来て、非常に大変なのはわかる」とした。
また田川氏も「国は標準として80世帯を1人のケースワーカーが受け持つことにしているが、残念ながら『80』を守っていない自治体は多く、ひどいところであれば『140』や『150』。寄り添った支援をする余裕がなく、心理的負担も多いからなるべく申請を避けたいという心理が働いている。新規申請の事務処理も集中してやっても1世帯で2、3日かかる。訪問調査もして、記録も書いてと、結構な時間がかかる」と、不正受給を防ぐために必要な手続きとはいえ、人手不足なども水際作戦に拍車をかけているという。このほか、多忙なため生活保護について十分な研修・教育の機会が与えられず現場に立つという状況もあり、今の状況を招いていると指摘した。
■世間のイメージで自ら「申請しない」人も
申請した人が追い返されることもあれば、自ら申請を諦めてしまうこともある。これもまた問題だ。佐々木氏も「基本的に今は要件を満たせば問答無用で(保護が)取れるのに『生活保護だけは絶対に嫌です。ただ今日いっぱい何とかしてください』という声はすごく聞く」と実例をあげると、田川氏も「基本的に生活保護を利用しないで暮らすのがいいという価値観を持っている国民は多い。いくら困っていても生活保護を利用したくないと、生活保護を忌避する気持ちを持っている人は非常に多いのがネック。保護を受けた人がネット上でバッシングを受けているのを見て、自分もレッテルを貼られることを避けている」とした。 現役保育士で育児アドバイザーのてぃ先生も、生活保護に対する偏見について言及し、働く人々の給与の低さとの関連を突いた。「日本の給与は世界基準と比べてもどんどん下がっているというか維持してしまっている30年を考えた時、生活保護の申請をすべき人が申請しないのは、いわゆるスティグマ的な偏見や差別、生活保護に対する誤解がある」とし、さらに「保育士も地方に行くほど給料は低くて、沖縄などであれば手取りで本当に12〜13万円という人たちもいる。子どもたちの命を背負いながら働いているのに、生活保護で12〜13万円もらっている人がいれば、当然その人たちに対する見方はきつくなり、悪循環になっている。海外の場合は、そういった人たちに対する目もある程度和らいでいるから、生活保護を受けるべき人が受けられる割合が高くなっているのでは」と、ヨーロッパでは80%を超えるものの、日本では約20%に留まる捕捉率の差についても問題提起していた。
(『ABEMA Prime』より)
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