障害のある人が働きながら技術や知識を身につける「就労事業所」が、相次いで閉鎖している。共同通信の調査によると、中でも障害者と雇用契約を結び、“最低賃金以上”を支払いながら生産活動や職業訓練をする「A型事業所」の閉鎖が続出しているという。
【映像】民間企業の障害者雇用数は右肩上がり(グラフ)
A型事業所は赤字も少なくなく、公費に依存気味のため、国は今年4月、生産活動で赤字が改善できていない事業所の「報酬引き下げ」を実施。その結果、3月から7月にかけて329カ所の事業所が閉鎖し、約5000人の障害者が退職や解雇になった。
閉鎖したA型事業所の約4割は「B型事業所」に移行したというが、B型事業所では最低賃金が適用されず、障害者の稼ぎが減ってしまう。『ABEMA Prime』では、就労事業所の在り方や、障害者の賃金を考えた。
■「収益をあげられずなんとか回しているところに是正が入った形」
国による報酬見直しについて、障害者雇用ドットコム代表の松井優子氏は「大きな変化は、生産活動に関するスコア評価が強化されたこと。利用者がいることに加え、事業所として収益を得ているかが問われるようになった。A型は事業所の収益から給料を支払うが、最低賃金分の収益をあげられないところも多い。他でなんとか回している事業所に是正が入った形だ」と説明。
弁護士の南和行氏は、「大阪で見聞きした話で、国からお金が入るため、本来はA型事業所が難しいと思われる方でも雇用されている。同じ事業所内でも能力に大きな差があったり、B型事業所で社会と関わったほうがいいと思える人まで抱え込む」と述べる。就労継続支援A型事業の平均賃金は月8万3551円だが、B型事業になると平均工賃は月1万7031円となる。松井氏は「賃金は減るが、一般企業での雇用は難しい人が多いのも事実だ。障害年金なども加味すると思うが、生活に直結して厳しくなる人は多いのではないか」と懸念を示した。
■障害者の賃金「安すぎ」の声も 「その方に合った選択肢があることが大事」
B型事業所をめぐっては、「賃金が安すぎる」との意見がある。Xでは「就労継続B型で時給200円は安すぎヤバい」「適正な賃金で、健常者同様に支払って欲しい」「就労支援B型作業所、あれ単なる悪質な貧困ビジネス」「売上をちゃんと利用者に還元しない事業所がある」などの声があがっている。
松井氏は、「企業の一般雇用と同列に見るのは難しい」という考えだ。「そもそもA型・B型事業は障害福祉サービスとして見られている。労働の金額として見ると厳しいが、働く人や仕事内容を考えると、そうせざるを得ない状況もある。A型の中でも『どうやって収益を得ているのか』と不思議に思う運営体制のところは多い」。一方、「上手にやっているところ」もあるそうで、「国からの報酬を生かして、どうビジネスモデルを組むか。障害者の特性とマッチしていれば、収益が出て継続もできている。うまくいっているのは、A型・B型事業をそれ単体でやっていないところ。ある大手企業は、介護サービスのクリーニング事業をA型でしていて、営業などをする必要がない。純粋にその業務に合う人を採用する形であれば経営も回っていく」とした。
南氏も同様の考え方で、「障害のある人がどうやって社会と関わりを持つか」の重要性を説く。「ともすれば、若い時から高齢になるまで、家族や近所以外とのコミュニケーションがない生活になりかねない。職場や出かけた先の人間関係など、社会との関わりを用意するのが障害者福祉の存在だ」。一方で、「大手であれば産業構造に組み込めるが、『補助金もあるから』と片手間で事業を作るのは危ない」と警鐘を鳴らした。
松井氏は、「雇用契約は結びたいけれど、一般企業で働くのは難しく、A型を選ぶ人もいる。また、B型で社会と関わっていく選択もある。その時々で、一番合っているところへ行ける選択肢があることが重要だ」と促した。
■障害者雇用に尽力「“彼らとどう成長していけるか”しか考えていない」
久遠(くおん)チョコレートでは、障害のある人が全従業員の6割を超えている。業務内容・勤務時間は本人の希望が重視されで、直営店では障害による区別なく全員を一般雇用し、障害がある人の平均賃金は月16〜17万円。B型事業所であるフランチャイズでも、平均賃金は月約6万円だという。
代表の夏目浩次氏は、もともとパン屋を営んでいたが、チョコレート作りがルーティンワークであることを知り、転向した経緯がある。「パンは総菜パンや菓子パン、食パンなど全てオペレーションが違うが、チョコレートは溶かして固めるの繰り返しで、失敗してもまた溶かすことができる」。そこへたどり着いた原動力には、「この人と、どうやって働き続けよう」「どう対価で答えよう」と向き合いつづけた日々があった。20年やってきても「まだ足りない」という思いがある。「障害を『重い』『低い』で区別するのは、あまり好きではない」とも語る夏目氏は、工夫を重ねてきた。「A型やB型にも行けない介護主体の『生活介護』の方たちも、イチゴやレモンなどの粉砕をしている。最終商品を作る細かい作業が苦手でも粉砕はできるし、外注で何千万円もかけていたものを内製化できた。彼らと本気で向き合い、“どう成長していけるか”しか考えていない」。
さらに、粉砕作業も機械から石臼に変更。「素材が崩れずふわっと仕上がる。また、外注していた頃はロットで注文する必要があったが、内製化により、同じ“宇治のほうじ茶”でも、ほうじ方や生産者で分けられるようになった。それがブランド価値になり、商品力につながっている」ということだ。
こうした取り組みに松井氏は「夏目さんだからこそ、できた部分があると思う」としつつ、「自分たちに『できること』と『難しいこと』を知って、難しいところは他者とコラボすることが大事ではないか」と提案する。
夏目氏は「なかなかうまくできていない」と現状認識を明かしつつ、「それでも、いろいろなことを繰り返して、やり続けていくしかない」との思いを語った。(『ABEMA Prime』より)
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