アベノミクスをめぐる石破茂総理の発言が物議を醸している。総裁選での「検証すべき」との発言から、就任後はGDPの伸びや雇用拡大などを評価する姿勢に変化し、ブレているのではと指摘されている。
【映像】「無意味だった」「必要な政策だった」アベノミクスめぐり賛否両論の声(Xより)
アベノミクスは第2次安倍政権の看板政策で、金融緩和でお金の流通量を増やす「金融政策」と、10兆円規模の経済対策予算で需要を創出する「財政政策」、規制緩和で投資を促して民間活力を引き出す「成長戦略」による「三本の矢」を掲げた。
景気低迷とデフレに苦しむ日本経済の大転換を図り、当時の安倍晋三総理も「マイナスからプラス成長へと大きく転換できた」と語っていたが、国民の評価は「実質賃金も上がらず無意味だった」「企業業績も上がり必要な政策だった」と大きく割れている。『ABEMA Prime』では、その功罪について、経済学者と議論した。
■アベノミクスの今
アベノミクスは、当時デフレからの脱却を目指し、適正な水準に物価を引き上げて(当初の目標は2年で2%)、経済成長を達成するための政策パッケージであり、先の「三本の矢」を軸に据えた。アベノミクスから10年以上が経った今の経済状況を見てみると、物価上昇は前年同月比プラス3%(2012年は0%)、失業率は2.5%(同4.3%)、大企業の賃上げ率は5.58%(同1.78%)となり、春闘では33年ぶりに5%を超えた。
経済学者で慶應大学名誉教授の金子勝氏は、「アベノミクスは日本を壊した」といい、「新型コロナでサプライチェーンが壊れ、ロシアのウクライナ侵攻で石油や穀物の価格が上昇して、逆にインフレになった。アベノミクスは本来、物価を上げる政策だが、インフレ状態になっても抜けられていない」と説明する。コロナや世界情勢による影響は、日本だけの話ではない。「物価が急騰して、他国は金利を上げてインフレ抑制に入っているが、日本だけは上げられない。金融政策が柔軟性を失い、日銀総裁が少し利上げするだけで、株価が暴落するなど、身動きが取れない状態になっている」。
■金融緩和「2014年に消費税率を上げなければよかった」
「金融緩和」を行うと、企業が資金を借りやすくなるため、企業の業績向上や賃金アップ、設備投資拡大など、いわゆる「トリクルダウン」による好循環をもたらし、消費が拡大していくとされてきた。当初は2年で2%の物価上昇を掲げていた。 しかし金子氏は、金融緩和によって、“一部の企業”は業績が向上し、賃金アップにつながったものの、設備投資の低速や内部留保の増加により消費が低迷した結果、消費者物価指数は上昇しなかったと考えている。金子氏は「『2年で2%上昇』の目標を達成しなかったが、そのまま『トリクルダウンが起こるまで待とう』とマイナス金利政策を続けたが、10年近くやって、結局うまく行かなかった。ある時点で切り替えれば良かったが、ズブズブと入り込みすぎた結果だ」と批判。
賃金と消費者物価(指数)の推移はどうか。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2007年時点で95前後だった消費者物価指数は、2023年に105.6となった。名目賃金は90前後から103.1に伸びたが、実質賃金は110前後から97.1へと下がっている。 経済学者で慶應大学名誉教授の竹中平蔵氏は「2014年に期待物価成長率は2%になり、その時点で成功した。ところが2014年に消費税率を引き上げると、期待物価上昇率は下がった。あのとき上げなければよかった」と説明する。また、政府は十分に規制緩和できなかったとも指摘する。「日銀だけがハシゴを外された形になるため、黒田前総裁は2016年から金融政策を変えた。国債の買い上げを2016年の80兆円から、最後は20兆円程度に減らした。植田総裁の役割は、最終的な微調整になっている」。
財務省の法人企業統計調査によると、企業の内部留保は2012年度に300兆円ほどだったが、年々右肩上がりで、2023年度には600兆9857億円となった。金子氏は消費増税よりも、その使途に問題があると見る。「社会保障を増やすはずが、安倍氏は法人減税に使った。しかし企業は内部留保をため込むばかりで、賃金は増やさず、配当を増やした。消費に向かないのは当然で、企業も投資に向かうような行動を取らなかった」。
竹中氏は、内部留保が増えた理由を「国内では投資機会がなかなか作れなかったからだ。ところが今は東京都心にものすごくクレーンが立っている。安倍内閣の時に作った規制緩和の制度で国家戦略特区というものがあり、それがいま効いてきている」と考察する。しかしながら、「安倍内閣は前半と後半で、違う性格になったのが残念だ」とも語る。「モリカケ問題から、周囲が安倍総理を前面に出さなくなり、思い切った改革ができなくなった」。
その後、菅政権、岸田政権を経て、石破政権となった。「いいところを引き継いで、できなかったところを直す。そういう当たり前の議論を『いいか、悪いか』ではなくしてもらいたい」。
竹中氏はアベノミクスが果たした役割を評価した上で、「海外企業が日本に投資している」ことの重要性を語る。「『日本は“眠れる森の美女”だ』と言われる。日本にはポテンシャルがあるが、それを生かすシステムがない。安倍政権でコーポレートガバナンスのシステムに手を付け、『ちゃんとやらない社長は辞めてもらう』となった。海外企業が日本を評価する時には、コーポレートガバナンスの変化に触れる」。
■これからの成長産業は?
これからの産業の柱としては近年、AIやEV、自動運転、シェアリングエコノミー、量子コンピューター、半導体、クラウド、医療DXなどが注目されている。竹中氏は「自動車や鉄鋼など、1980年代までのくくりでは、もう考えられない。デジタル化され、AIを活用したものが伸びる一方で、大企業が伸びるとも限らない。『何が伸びるか』は政治家にも官僚にもわからない。自由競争から出てくる人を応援する形でないと、成長産業は出てこない」と指摘する。 作家でジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「日本は『伝統的企業を守ろう』とする姿勢が強すぎる」と話す。「労働者が野に放たれずに済むメリットはあるが、古い企業が温存されると、平均年齢がどんどん上がる。2000年代にパナソニックやシャープがダメになったころ、『平均年齢47歳の会社に新しいものを作れるか』と議論された。古い企業はある程度退場して、その穴をスタートアップで埋める好循環を作らない限り、経済が回らなくなる」。金子氏は「アベノミクスから抜け出るのは難しい」としながら、抜本的な打開策を求める。「裏金や企業団体献金で、防衛産業やマイナンバーカード、エネルギー産業にお金が行く。それをぶち壊して、新たな産業を作ってほしい」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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