「抗がん剤は…」「イベルメクチンが…」
「検索」にも注意を
信頼できる情報はどこに?
注目
自分で試す「セルフチェック」も
乳がんに詳しい国立国際医療研究センター病院の清水千佳子医師は、この情報について、デメリットだけを強調した不正確なものだと指摘しています。国は乳がんの検診について、40歳以上の女性に対し、2年に1度の問診とマンモグラフィー検査を受けるよう推奨しています。
清水医師「メリットとデメリットを比較する必要があります。デメリットとしては放射線による被ばくの問題があり、がん検診の対象になっていない世代が何度も何度も繰り返し受けると、がんになるリスクが高くなるということはあります。一方で、40代や50代の乳がんになりやすい年代になってくると、早期に乳がんが見つかって治療につながるというメリットのほうが上回ります」
国立がん研究センターなどによりますと「検診で受ける放射線の量は胸のレントゲンより多いものの、通常の検査の範囲内であれば健康への影響の心配はない」ということです。
また、「抗がん剤は2次的ながんを発生させる」といったものや「イベルメクチンが乳がんに効く」といった投稿も、Xでそれぞれ数万回閲覧されています。同様の情報はXに限らず、TikTokやInstagram、Threads(スレッズ)などさまざまなSNSで広がっていました。これらの情報についても、清水医師は不正確な情報や科学的根拠がないものだと指摘します。
清水医師「乳がんはタモキシフェンいう薬がホルモン療法としてよく使われますが、50歳以上の人が長期にわたって服用した場合に子宮体がんになるリスクが上がると言われてます。実際に子宮体がんになるリスクは1%に満たないぐらいです。一方で、薬によって乳がんの再発を抑えられる効果は確かめられているので、効果のほうが子宮体がんになるリスクを上回ります」「少なくとも私たち、乳がんの薬の治療を専門としている医師の間で、イベルメクチンが乳がんに効くという情報はどこにもないです。仮に試験管での実験などでイベルメクチンが有望だという情報があるのであれば、患者さんで効いたという根拠まであるかどうかを確かめてもらいたいです」
SNSだけでなく、インターネットの「検索」でも注意が必要です。例えば、グーグルやヤフーなどの検索エンジンで「乳がん ステージ4」などと検索すると、自由診療で「免疫療法」や「遺伝子治療」を行っているとする医療機関などのウェブサイトが上位に表示されます。
しかし…自由診療は、科学的に安全性や有効性が確立していると認められていないために保険が適用されていない治療で、費用は全額自己負担。数百万円かかるものも少なくありません。そして、こうした自由診療を行う医療機関が科学的根拠に基づいた情報を出しているとは限らないと、がんの情報に詳しい国立がん研究センターの若尾文彦医師は指摘します。
若尾医師「インターネット上には科学的な根拠に基づかない情報があふれていて、医療機関が出しているから、医師が出しているから、必ず信用できるというわけではありません」「まずは保険が効くか、保険が効かない自由診療かを見てほしい。保険が効くということは、よほど古いものでなければ、科学的な手法で安全・有効であると確認された最も良い治療、“標準治療”が提供されていますので、保険が効かない自由診療は選ばないようにしてほしい」
また、「がん」に関連して検索をすると、「広告」や「スポンサー」などと表記された形で、科学的な根拠に基づかない治療を提供する医療機関などのウェブサイトが表示されることもあるため、注意が必要です。
若尾医師「広告やスポンサーというのは、お金を出して場所を買っているので、検索画面の上位に表示されているから優れた情報というわけではありません。すべての広告に問題があるわけではないが、基本的に開かないほうがいいです」
乳がんの患者はどのような思いで治療などの情報を集めるのか。自身も乳がんを経験し、いまはがん患者を支援する一般社団法人「CSRプロジェクト」の代表理事をつとめる桜井なおみさんは、がんと診断された当時のことをこう振り返ります。
桜井さん「パニック状態でしたし、どれが正しい情報かとか、そんなことも分からないところからスタートするんです。新しい情報に乗り遅れたくないという気持ちからすごく焦るんですよね。医師と話すことができる診察時間も短いので、それ以外の時間は不安な気持ちからいろいろなことばを入れて検索しまくる。そして情報の渦の中に巻き込まれてしまう感じになるんです。自分に都合のいいところだけをつまみ食いして、自分が嫌で避けたいものをより避けていく、そういう面が強くなっていくと思います」
そのうえで、患者の役に立つ正しい情報が目に入りやすいところに表示されるようになることが必要だと訴えます。
桜井さん「命に関わることなので、検索した際にはスポンサーがついているページではなくて、公的機関であるとか、正しい情報が上にくるようなシステムになってほしいと思いますし、誤情報を発信したらだめだという罰則のようなものも必要になってくるのではないかと思います」
では、科学的な根拠に基づく医療機関かどうか、ウェブサイトからどう見分けるか。こちらは、実際にあった例をもとに、注意する点をまとめた“典型的なサイト”です。国立がん研究センターの若尾医師の監修を受けて作成しました。
具体的に、注意が必要な点とは…。
がんは遺伝子の変異により発生する病気で、がんによって変異する遺伝子が異なる。すべてのがんに効くというのは今の科学ではありえない。
健康保険の適用となる「標準治療」と保険の効かない「自由診療」を併用した場合、混合診療となるため、「標準治療」にも保険が使えなくなる。
本当に効果のある治療法であれば、その医療機関だけで提供するのではなく、臨床試験・承認をへて、全国・全世界に広めるべきもの。そうではないということは、それができない理由がある。
実際は科学的根拠がなくても、お金さえ払えば掲載される「国際科学雑誌」も存在する。なかには、がんに関係のない論文もある。
若尾医師「つらい思いに寄り添うようなことばがあったり、非常に効果があるという形で情報を出したりしていますので、患者さんやご家族などが魅力を感じることは当然だと思います」「新しい治療法ができたら、臨床試験という形で患者さんに投与して安全性や効果を確認する。その結果、安全性や効果が認められたら、それが標準治療になって保険が適用される。研究や臨床試験もしないで言い値で治療を提供しているということはやはり効く可能性が低いですし、自由診療は注意が必要です」
正確な情報を見極めるポイント。その覚え方は、「か・ち・も・な・い」です。
自分や家族、大切な人の治療に役立つ情報を集めたいときにはどうすればいいのか。若尾医師は、気になる情報を見つけたら、1人で判断せずに、まずは主治医に相談をしてほしいとしています。そのうえで、参考にしてほしいウェブサイトとして、国立がん研究センターが運営している「がん情報サービス」(ganjoho.jp)を挙げています。
がんについて知りたい情報がある場合には、このサイトの中で検索をすることも1つの手だとしています。また、行政や公的機関、「日本乳癌学会」(jbcs.gr.jp)など、がん関連の学会や大手製薬会社のサイトも参考になるとしています。(日本乳癌学会のサイトには、患者のためのガイドラインも掲載されています)実際に相談したいときには、全国に461か所ある、がん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」を利用できます。面談や電話で無料で相談でき、匿名でも可能です。電話の場合、「がん情報サービスサポートセンター」(0570-02-3410)でも相談先を探すサポートを受けられます。(平日10時から15時)
乳がんに詳しい、国立国際医療研究センター病院の清水千佳子医師は、早期の発見にはセルフチェックの習慣化=「ブレスト・アウェアネス」も重要だと指摘しています。清水医師によりますと、生理が終わったタイミングで指をそろえて面にして乳房を触り、小石のような固いものがないか、両手をあげて乳房にくぼみやひきつり、左右差がないか、それに乳頭から出血がないかなどについて確認するといいとしています。
清水医師「一度、ご自身で触って確認をしてみてほしいです。このピンクリボン月間で乳がんについて知って自身の体について意識を向けるきっかけにしてください」
(機動展開プロジェクト 金澤志江・籏智広太、経済部 岡谷宏基)
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