28日投開票された衆院東京15区補選は、元職・新人9人が乱立した。選挙期間中は、一部の諸派が他陣営の演説中に大音量で遮るなど、異常な行動も目立った。政治とカネの問題が注目されたが投票率は過去最低。担当記者らが選挙戦を振り返る。(この記事は前編です)

◆理解に苦しむ出馬理由「逮捕されないため」

電話ボックスに上り大音量で演説する諸派陣営関係者。奥には乙武洋匡氏の陣営が演説していた=16日、東京都江東区で

 A 「選挙妨害」という残念なニュースに注目が集まった。諸派「つばさの党」陣営が他の候補の演説を大音量で遮るなどの行為を続け、街頭演説の事前告知が難しくなり、有権者が候補の訴えを聞きづらい異常事態となった。  公職選挙法違反の疑いがあるとして、警視庁から警告を受けた陣営は、代表者らが25日に都知事選への出馬を表明した。出馬の理由は「逮捕されないため」。理解に苦しむが、自分たち以外にも大勢の候補を擁立する考えを示した。同様のことが繰り返されないか心配だ。  B 告示日に無所属新人の乙武洋匡氏の演説会場を取材したが、この諸派の根本良輔氏らが、近くの公衆電話ボックスに上り遊説をかぶせていた。車でクラクションも鳴らし、辺りは騒然。弁士の小池百合子都知事の演説はほとんど聞こえなかった。根本氏は本紙の取材に「そういうことをされる候補者。ドンマイ」と言っていたが、身勝手すぎる。

根本良輔氏

 C その後、小池氏が訪れる街頭演説では、手荷物チェックと金属探知機による検査があり、物々しい雰囲気。乙武氏らに近づこうとする他陣営の候補者と、押しとどめる警察官との間でもみ合いとなる場面も多く、聴衆からけが人が出ていてもおかしくはなかった。

◆選挙運動での「衝突」がSNS上でも展開され…

 D 昨年12月に同じ江東区であった区長選では、各陣営がX(旧ツイッター)で、街頭演説のスケジュールを公開してくれていたのだが、今回は妨害を恐れてか、公開する陣営はほとんどなかった。  業を煮やした日本維新の会の音喜多駿参院議員は「選挙最終盤、ヒートアップしてくると小競り合いが起きがちだけど…日本保守党陣営へのお願い」と題してツイート。駅前で街頭演説に向けて押さえていた場所を「横取り」されたと訴えた。そして「先にきた陣営を尊重する」「時間を融通し合う」などの配慮を求めた。  一方で維新は、告示前に日本保守党の事務所前で街頭演説をしたことを同党陣営に批判され、金沢結衣候補が自らのXアカウントで謝罪に至った経緯もある。交流サイト(SNS)が、政党間のけんかや、他陣営を非難するツールになってしまっていることに複雑な思いを抱いた。

街頭演説会場を警備する多数の警察官=21日、東京都江東区で

 E 有権者の50代女性は「本来ならいろんな陣営の街頭演説を聞きたかったのに、今回は事前に告知がされなくなってしまって困った。今日はたまたま通りかかって見られたけど、選挙公報をよく見て候補を決めたい」と話していた。  乙武氏は「皆さんの聞く権利が奪われ、民主主義が揺るがされている」と強調。都議補選や知事選も近づいているため、立候補者やその陣営の妨害を取り締まれない公選法を、すぐに改正しなければいけないと主張。選挙の自由を制限するような事態は、本来なら避けたいところだが、やむを得ない面はある。(後編に続く)    ◇    ◇

◆「選挙の自由妨害罪」は4年以下の懲役も

 公職選挙法は、候補者らに暴行したり、演説を妨害したりする行為を「選挙の自由妨害罪」と規定する。違反すれば、4年以下の懲役か禁錮、または100万円以下の罰金が科せられる。有罪が確定した場合、確定から5年間、選挙権と被選挙権が停止される。  東京15区補選での妨害行為は国会でも議論になった。岸田文雄首相は22日の衆院予算委員会で「候補者の主張が有権者に伝わりにくくする行為が広まっていくのなら、何らかの対策が必要だ。選挙制度の根幹に関わる事柄として、各党、各会派で議論するべき課題だ」と述べている。  駒沢大の逢坂巌准教授(政治コミュニケーション)は今回の演説妨害について「候補者の話す自由や有権者の聞く自由を損なう。『選挙の自由妨害』は判例の積み重ねがあるので、司法が粛々と判断することが求められる」と話す。その上で「日本では選挙期間中のコミュニケーションの手段が街頭演説や練り歩きくらいしかないのが問題だ。戸別訪問を解禁するなど、有権者とより触れあえる選挙運動のあり方を考え直すことが必要だ」と指摘した。(清水俊介)

衆院東京15区補選 取材チームが振り返る<後編>

宣伝に終始した党、アテが外れた陣営…有権者はシラケていた



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