自宅で袴田巌さん(左)に再審無罪の判決を伝える姉のひで子さん(9月26日、浜松市)=袴田さん支援クラブ提供

1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定していた袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、検察側は8日、無罪判決に控訴しない方針を明らかにした。事件から58年を経て袴田さんの無罪が確定する。

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畝本直美検事総長が同日、「控訴しないこととした」とする談話を公表した。

静岡地裁は9月26日、検察側が有罪立証の柱とした「5点の衣類」などを捜査機関による捏造(ねつぞう)と認定し、無罪判決を言い渡していた。

死刑確定事件で再審無罪は戦後5例目。これまでの4件も検察は控訴していない。袴田さんは80年に死刑が確定し、翌年に裁判のやり直しを求めていた。確定判決が覆るまでに44年かかったのは極めて異例。

再審では事件から約1年2カ月後に現場近くの工場のみそタンクから見つかった5点の衣類の評価が最大の争点だった。赤みが残った「血痕」が付着していたとされる。

9月の静岡地裁判決は1年以上みそ漬けされた血痕に赤みは残らず、犯行着衣であることに「合理的な疑いがある」と指摘した。一審の公判中に見つかったことも踏まえ「発見に近い時期に捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ隠匿された」とした。

袴田さんの実家で見つかった衣類の布の切れ端や、警察や検察による自白の強要によって作られた調書を含め、捜査機関が捏造した証拠は3件あると認定。袴田さんは「犯人であるとは認められない」と結論付けた。

事件は1966年6月30日未明に発生した。静岡県清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社の専務宅が全焼し、焼け跡から4人の遺体が見つかった。従業員だった袴田さんが強盗殺人などの容疑で逮捕、起訴されたが、公判では一貫して無罪を主張した。80年、最高裁で死刑判決が確定した。

81年から始まった最初の再審請求審は27年かかり、2008年に最高裁で退けられた。2度目の請求で静岡地裁が14年に初めて再審開始を認め、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。最高裁による差し戻しを経て、23年3月の東京高裁決定が捏造の可能性に言及、再審開始が決まった。

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