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 東京から電車やバスで7時間かかる青森県にある秘境の温泉宿に今、外国人が多く集まっています。電気も携帯電話も使えない不便な温泉宿が、なぜ人気なのでしょうか。

■幻想的な光景広がる…十和田湖、奥入瀬渓流

 午前7時半、青森駅前のバス停には長い行列ができています。言葉を聞くと、大半が外国人旅行者のようです。  彼らが目指すのはバスでおよそ2時間。青森県と秋田県にまたがる十和田湖。深い原生林に縁取られ、コバルトブルーに輝く神々しい光景は“神秘の湖”とも呼ばれています。  その湖から流れ出た清らかな水が生み出した奥入瀬渓流。渓流と並行して整備されたおよそ14キロの遊歩道には、大木が緑のトンネルを作り、木漏れ日が差し込み、幻想的な光景が広がります。  今月下旬には紅葉が見ごろとなり、赤や黄色に色付いた葉が清流に映え、さながら日本庭園のような風情ある景色を楽しめます。 オーストラリアからの観光客
「ここは川も湖も信じられないほど自然のままで美しい」 香港からの観光客
「とてもとても美しいです。こんな景色は香港では絶対に見られません」  奥入瀬渓流を代表する名所「阿修羅の流れ」。うっそうとした木々の間を水が荒々しく流れる姿から名付けられました。雄々しくも神秘的な美しさは、多くの人を魅了します。  轟音(ごうおん)を立て流れ落ちるのは、奥入瀬渓流の本流にかかる随一の滝「銚子大滝」。高さおよそ7メートル、幅はおよそ20メートル。滝のすぐそばまで近づけることから、多くの観光客でにぎわっていました。 アメリカからの観光客
「生きているってすてき。こんな景色に出会えるんだもの」
「みんな東京、京都、大阪には行きますが、小さい街に絶対に行くべき。こういう場所に」

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■電気、ネットも一切つながらない宿が人気

■電気、ネットも一切つながらない宿が人気

 外国人観光客の目的地は、さらに山奥にあります。

 東京からは新幹線と在来線、バスを乗り継ぎおよそ7時間。青森県のほぼ中央、青荷渓谷の傍らにある温泉旅館「ランプの宿 青荷温泉」です。  近くに名所や観光地があるわけでもなく、四方を山に囲まれたポツンと一軒たたずむ、まさに“秘境の宿”。冬には積雪が2メートルにもなり、宿に通じる唯一の道路は一般車両の通行が禁止に。専用のバスでしかたどり着けません。  ランプの宿の名の通り、館内の明かりは「灯油ランプ」だけ。創業から95年、100個以上のランプの優しい光が変わらず館内を照らします。  客室に電気が通っていないので、テレビはもちろんエアコンもありません。明かりはランプが一つあるだけ。さらに、この場所が秘境と呼ばれる最大の理由が、携帯電話も、インターネットも一切つながりません。 東京からの客
「全く問題ないって言ったら嘘ですけど、良いと思います。会社から連絡も無いですし」  そんな不便すぎる宿にもかかわらず、旅行会社の社員など旅のプロが選ぶ「人気温泉旅館250選」に25回中17回も選出。年間およそ1万3000人の宿泊客が訪れますが、最近では外国人の宿泊客が増えています。 台湾からの客
「壁とか、絵とか、ランプ。すごくきれいで、素晴らしい」 モナコからの客
「渋いね、カッコいいよ!」 アメリカから来た客
「(ランプの)光もですが、オイルの匂いもして良い雰囲気です。最高です!」

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■「アドベンチャー」昔ながらの旅館スタイルは…

■「アドベンチャー」昔ながらの旅館スタイルは…

 この日の宿泊客は、日本人7人に対し、なんと外国人宿泊客は21人と日本人の3倍。なぜ、秘境の宿にこんなにも外国人が訪れるようになったのでしょうか? ランプの宿 青荷温泉
石動尚支配人

「はっきりした理由は全然分からないです。正直なところ。(私は)SNSとかやってないので、やってないというか(ネット環境がなく)できないので。来たお客さんが良かったと思って発信してくれているのが大きいと思いますよ」  この宿を訪れた外国人のSNSには、「世界中どこを探しても最もユニークな体験の一つでしょう」「この宿での48時間は日常からの完璧な離脱だった」「日本の東北を訪れたら絶対体験するべき」とありました。

 ベルギーから来た夫婦は、AIを使って日本旅行の計画を立てるなかで、おすすめの宿として青荷温泉が提案されたそうです。

ベルギーから来た夫婦
「(Q.ここは電気やテレビ、インターネットもつながりませんよ?)素晴らしい!とても良いですね!逆に都合が良いですよ。日常生活とは違うものになりますから」

 一方、妻はこの宿の情報を把握していなかったようで…。


「ランプは電気じゃないの?」
「オイル、オイル、オイルだよ」
「テレビもないし、ネットフリックスも見られないのね」
「ベッドは?」
「この(押し入れの)中、自分達で用意するんだよ」
「本当に?」
「そう、布団だよ」
「床で寝るということ?」
「そうだよ!」
「おー!変わってるわね!」
「アドベンチャーだね」  これまでに何度も日本を旅してきたという2人。しかし、妻は昔ながらの旅館スタイルに困惑しきりです。
「(Q.この宿で快適に過ごせそう?)もちろん」
「もちろんよ、問題ないわ。頑張るわ」

 笑顔で答えはしたものの、およそ1時間後には…。


「インターネットは全く使えませんか?携帯電話もつながりませんが」 取材スタッフ
「インターネットはつながりません」 妻
「なるほど…子どもたちに私の居場所を知らせることができないのね」

 まさか日本でインターネットにつながらなくなるとは、想像もしなかったようです。

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■客室の明るさは“常夜灯”程度

■客室の明るさは“常夜灯”程度

 午後6時、夕食はランプの明かりの下でいただきます。自慢の料理は山菜やイワナなど、青森県の食材をふんだんに使用。

 ゲソを包丁で叩き野菜と一緒に揚げた「いがめんち」や、細かく刻んだ野菜を米に見立て、昆布だしで煮込んだ「けの汁」など津軽地方の郷土料理が人気です。

 その夕食会場で東京から来た男性が驚いたのは、食事をしているのはほとんどが外国人なことです。

東京からの客
「びっくりしました。外国人ばっかりで。よく調べて来ますよね」

 フランス出身のツアーガイドも驚きを隠せません。

フランス人のツアーガイド
「自分もだけど、外国人ってそんなに多い。ビックリした(秘境に)こんなにいるの?って」  午後8時、すっかり日が暮れるとランプの宿の“非日常”がさらに際立ちます。街の明かりはもちろんなく、宿を照らすのはランプと夜空の星のみ。街の喧騒もなく、聞こえるのは川を流れる水の音だけです。

 部屋を訪ねてみると、真っ暗。

台湾からの客
「暗いね!」
「(Q.何か困りごとはありませんか?)大丈夫」
「ないです」
「全く問題ないよ」 モナコからの客
「ランプのことは知っていたけど、実際に体験するとビックリします」  客室のランプの明るさは就寝時に使用する、オレンジ色の常夜灯程度。 ベルギーからの客
「(Q.部屋の暗さはどうですか?)とてもいいわ。私は暗いのが好きなの」

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■特別な体験「魔法のような時間」

■特別な体験「魔法のような時間」

 ランプでの夜を楽しむ外国人がいる一方、想像を超える暗さに頭を抱える日本人の家族も…。

仙台からの客
「暗いだろうなとは思ったんですけど、何も準備はしてなくて。(絵本を読むのは)ちょっとこれはきょう厳しいです。ランプだけでは厳しい」  息子のためにお気に入りの絵本を準備してきましたが、到底本を読める明るさではありません。  ただ、携帯やインターネットから離れ、ランプの優しい明かりだけで過ごす時間。宿泊者は口々に特別な体験だったと言います。 ベルギーからの客
「本当に素晴らしかったわ。私には魔法のような時間でした」
「(ひとことで言うと)再生かな、エネルギーが注入された感じがします」 アメリカからの客
「とても楽しめました。家族と一緒に時間を過ごし、静かな環境を楽しめました」
「(Q.アメリカに帰ったらこの宿をどう伝える?)『追われるような日々の生活から逃げるには、とってもいいよ』って伝えます」

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2024年10月1日放送分より)

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