9年前、都内の会社に家政婦と訪問介護ヘルパーとして登録していた当時68歳の女性は、寝たきりの高齢者がいる家庭で1週間住み込みで家事や介護にあたったあとに死亡し、労災も認められなかったため、夫が処分の取り消しを求めて訴えを起こしました。
1審の東京地方裁判所は、労働基準法で家政婦の仕事は労災の対象外とされ、介護については長時間労働とは言えないなどとして訴えを退けたため、遺族が控訴していました。
19日の2審の判決で東京高等裁判所の水野有子裁判長は「女性と会社との間に雇用契約書は交わされていないが、女性は会社から介護だけでなく家事の仕事についても指示を受けていた。いずれも会社の業務として行われたもので、労働基準法の適用外にはならない」と指摘しました。
そのうえで「7日間の総労働時間は105時間で、深夜でも介護の必要があり6時間以上の睡眠を連続して取ることもできなかった」などとして、長時間の労働と死亡には関係があると判断し、1審の判決を取り消して労災と認める判決を言い渡しました。
原告側の弁護士によりますと、個人で契約している家政婦の労災が認められるのは異例だということです。
女性の夫「正しい判決をしてくれたことに感謝」
判決を受けて亡くなった女性の遺族が弁護士とともに都内で会見を開きました。
裁判を起こした70代の夫は、「亡き妻を労働者として認めてもらいたいという思いで闘ってきました。裁判長が正しい判決をしてくれたことに本当に感謝しています。家事労働をしているすべての人を幸せにする判決だと思います」と話していました。
自身も介護の現場で働く40代の次男は、「フリーランスなどで家事労働をする人の力がなければ、これからの社会は支えられないと思います。母にいい判決が出て本当によかったと思います」と話していました。
代理人の指宿昭一弁護士は「個人で契約している家政婦に労働基準法を適用して労災を認めた初めての判決ではないか。これまで労基署は、個人の家に家政婦を送り出す会社が実態としては雇用しているという現実を正面から見てこなかった。今回の判決が、労働基準法の見直しの議論の後押しになると思う」と話していました。
厚労省「適切に対応したい」
判決について厚生労働省労災保険審議室は「国の主張が受け入れられなかった。判決内容を十分に精査するとともに、関係機関とも協議した上で適切に対応したい」としています。
死亡した女性 労働時間は1日15時間に
女性は9年前の2015年、当時68歳で亡くなりました。
夫によりますと、女性は50歳ごろから家政婦として働いていて、亡くなった当時は都内の会社に家政婦と訪問介護ヘルパーとして登録していました。
2審判決によりますと、女性は1週間、要介護5の高齢者の自宅で住み込みで働き、労働時間は1日15時間に上り、専用の部屋がなかったため休憩中は台所のいすに座るなどして過ごし、要介護者の部屋で寝ていたということです。
1週間の仕事を終えた直後に都内の入浴施設で倒れ、搬送先の病院で亡くなりました。
家政婦をめぐる法律の議論
労働条件の最低基準を定める労働基準法では、家事使用人、いわゆる家政婦として働く人には労働基準法を適用しないと条文で定めています。
法律が公布された昭和22年からある規定で、厚生労働省は、「家庭内で働く人は、通常の労働者とは勤務時間など働き方の実態がかなり異なっているため、一律に適用するのは適当ではない」としています。
一方、この規定をめぐっては、昭和63年に当時の労働省が「家事使用人かどうかは従事する作業の種類や性質を勘案して労働者の実態を見て決定する」とする通達を出し、事業者に雇われてその指揮命令のもとに家事を行う場合は、労働基準法が適用され労災の対象となるとしました。
一方、平成5年には、労働基準法の問題点などを研究するために当時の労働大臣が集めた学識経験者による懇談会で「規定を廃止することが適当だ」とする報告書もまとめられました。
ただ、条文自体は今も残り続けています。
4年前の国勢調査では、家事を行う対価として賃金を得ている人は7250人いました。
厚生労働省では平成30年から、家事労働をする人も個人で労災保険に入る特別加入の対象にしていますが、保険料は自身で支払う必要があります。
ことしに入ってからも厚生労働省が立ち上げた研究会で議論され、委員からは「法律ができた当時とは時代が変わっている」という意見も出ています。
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