住宅地 上昇率トップ10
商業地 上昇率トップ10
地方の都市や観光地も 32年ぶり上昇
能登半島地震 被災地で下落顕著
住宅地で最も上昇率が高かったのは、▽沖縄県恩納村真栄田で、プラス29.0%となりました。2位が▽沖縄県宮古島市伊良部でプラス26.1%でした。恩納村や宮古島市では、移住などを目的とした住宅需要が高まっています。3位が▽北海道千歳市栄町5丁目でプラス23.5%となっていて先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」の工場の建設が進み従業員の住宅などの需要が高まっています。
商業地では、▽熊本県大津町室と大津町大津の2地点が、いずれもプラス33.3%と最も高くなりました。次いで、▽熊本県菊陽町津久礼で32.5%となりました。菊陽町では、台湾の半導体大手TSMCの工場が建設され、隣接する大津町を含めた周辺地域に関連企業の進出が相次いでいます。工業地も▽熊本県大津町室がプラス33.3%で全国で最も高くなりました。沖縄県や北海道、熊本県以外では商業地の▽全国4位が長野県白馬村北城でプラス30.2%、▽全国6位が岐阜県高山市上三之町でプラス27.1%となっていていずれも海外からを含む旅行者の回復で、ホテルなどの投資が増加しています。
「都道府県地価調査」は、毎年7月1日時点の全国の土地の価格を都道府県が調べるもので、国土交通省は2万1400あまりの地点の結果をまとめ、17日、公表しました。それによりますと、すべての用途の地価の全国平均は、去年に比べてプラス1.4%と、3年連続で上昇し、上昇率も拡大しました。大都市圏だけでなく地方の都市や観光地などでも広く地価の上昇が見られ、地方圏のうち札幌、仙台、広島、福岡の「地方4市」を除いた地域でプラス0.2%と、1992年以来、32年ぶりに上昇に転じました。
用途別でみると、住宅地は、全国平均でプラス0.9%と3年連続の上昇となりました。このうち、▽東京、大阪、名古屋の「三大都市圏」はプラス3.0%、▽三大都市圏を除く「地方圏」もプラス0.1%でした。都市部の利便性の高い地域を中心に住宅需要が堅調で、海外の富裕層などによる取引も活発となっているほか、リゾート地として知られる離島などに移住しようという動きも地価を押し上げました。
商業地は、全国平均でプラス2.4%と、3年連続の上昇となりました。▽「三大都市圏」ではプラス6.2%と高い伸びとなったほか、▽「地方圏」もプラス0.9%と2年連続で上昇し、上昇率も拡大しました。コロナ禍と比べ働く人の出社する頻度が増えたことでオフィス需要が高まっているほか、海外を含めた旅行者の増加で、観光地を中心にホテルや飲食店向けの土地の需要も急速に高まっています。
住宅地の地価の上昇は都心部で顕著で、東京・中央区や渋谷区では、去年と比べプラス10%以上の高い上昇率となっています。背景にあるのがおう盛な住宅需要で、「パワーカップル」と呼ばれる高収入の世帯に加え、海外の富裕層や投資家が資産性の高いマンションなどを買い求める動きが活発になっています。東京・上野にある不動産会社では、主に中国や台湾など向けに物件を紹介し、円安を背景に契約件数が増え続けているといいます。最近では、毎月40件前後で1年前と比べておよそ2倍となっています。社内のホワイトボードには、契約が成立したマンションの名前が次々と埋まっていました。この日は、中国でIT企業を営む40代の経営者に東京・湾岸エリアのタワーマンションなど2か所を案内していました。いずれの物件も築20年前後で1億円を超える物件ですが、この経営者は「中国のマンションと比べても割安なのに、眺望も、管理状態も優れていてコストパフォーマンスが高い。2億円ほどでほしいと思うが、いい物件があれば、予算を超えてでも買いたい」と話していました。不動産会社の越水亮社長は、「東京23区内のマンションは、居住用・投資用問わず、外国人からも人気が高い。海外の都市と比べて割安の物件が豊富なので今後も人気は続くと思う」と話していました。
「商業地」の地価を押し上げている要因には訪日客の増加による観光需要の高まりがあります。東京・築地には、9月30日に新たなホテルが開業しますが、このホテルでは訪日客仕様の設備やサービスを取り入れています。連泊のニーズが高いことから、すべての客室に乾燥機付きの洗濯機や電子レンジ、冷蔵庫などを設置したほか、一部の部屋には料理ができるようにキッチンも設けました。また、大浴場では座って体を洗うことに慣れていない訪日客向けに、シャワーのスペースを多くとりました。宿泊の前後にもスーツケースを預けて散策できるように、無料の荷物置き場も設けています。価格は、標準的な部屋で1泊あたり1室3万3000円で、外国人に人気の銀座に近い立地を生かして訪日客を取り込みたいとしています。三井不動産ホテル・リゾート事業一部の内川孝広部長は、「コロナ前に比べて訪日客を中心に滞在する日数が増える傾向にあり、各部屋に家電があることでより高い利便性を提供できる。このホテルをハブとして首都圏のさまざまな観光地を訪れてほしい」と話していました。
ことし1月の能登半島地震の被災地での地価の下落が浮き彫りになり、住宅地・商業地ともに、全国で地価の下落率が大きかった10地点は、すべて石川県と富山県の被災地でした。このうち、住宅地で最も大きく下落したのは▽石川県輪島市河井町でマイナス14.8%でした。輪島市河井町では、建物が倒壊する被害が相次ぎ、鉄筋コンクリート造りの7階建てのビルが倒壊し、いまも横倒しになっているなど、復旧に時間がかかると見込まれています。このほか、穴水町や能登町などで10%以上地価が下落する地点が見られました。
商業地で最も下落率が大きかったのは、▽輪島市新橋通八でマイナス17.1%でした。珠洲市や能登町などでも10%以上下落した地点がありました。このほか、▽富山県高岡市伏木古国府でマイナス11.3%となっていて液状化の被害が大きかったことが影響しました。
今回の「都道府県地価調査」の結果について地価の動向に詳しい不動産調査会社「東京カンテイ」の井出武上席主任研究員に聞きました。Q.住宅地・商業地ともに全国平均は3年連続で上昇となった。
A.ここ数年、上昇していた地価が今回もさらに強まる動きになり、しかも、上昇しているエリアが全国に広がっている印象だ。日本経済が力強く回復していることの証ではないか。
Q.今回の地価動向をどう分析する?
A.「住宅地」と「商業地」に分けてみた場合、「商業地」の伸びが全体を引き上げていた。その要因の1つが円安。海外からの旅行者がかなり増え、それに伴って地域の出店意欲が高まる好循環が生まれている。新たな働く場ができると周辺に住み始める人が出てくるので、こうした地域では時間差で「住宅地」の地価も上がっていく傾向にある。
Q.今回は、沖縄県の離島や長野県白馬村などリゾート地で上昇率が高まる傾向もみられた。
A.もともと観光客にも人気のエリアだったが、年々インフラ整備が進み、住環境が整っていく中で、国内外の富裕層がセカンドハウス、サードハウスを持ちたいという需要を反映した結果ではないか。
Q.都市部での特徴的な動きは?
A.全国的な上昇基調ではあるものの都市部での伸びがやはり大きい。資産性が高いとされる都心部のマンションなどを海外も含めた富裕層や投資家が買う動きが盛んで、東京・大阪・福岡の中心部で顕著だ。
Q.住宅価格の上昇は続く?
A.建築費の上昇や用地の不足で新築マンションの供給は減少を続けており、富裕層や投資家層の取引も活発なので、都心部においては、今後も上昇を続けるとみられる。一方で、郊外の都市などでは、すでに一般世帯が買える価格帯まで上がりきっており、価格が横ばいになる調整局面に入ったところも出てきている。
Q.「金利のある世界」の到来が見込まれるが、住宅価格への影響は?
A.現状の利上げ幅では、価格が下がるほどの影響はないとみられるが、今後、金利がどこまで上がっていくか次第で局面は変わってくると思う。ただ、一部では、住宅ローンの変動型の金利を引き上げようという動きも出ており、住宅購入を検討している一般世帯にとっては判断が難しい状況。当然、月々の返済額も変わってくるので、購入を考える際には、今後、金利がさらに上がることに備えることも重要だ。
全国の商業地で地価が最も高かったのは、19年連続で東京・中央区銀座2丁目の「明治屋銀座ビル」で、1平方メートルあたり4210万円でした。訪日客の増加を背景に高級店などの出店意欲が高く、賃料も上昇傾向となっていて、ことしの地価は5.0%値上がりしました。
全国の住宅地で地価が最も高かったのは、6年連続で東京・港区赤坂1丁目で1平方メートルあたり556万円でした。去年に比べて6.1%の上昇です。周辺の麻布台地区や虎ノ門で再開発が進んでいることに加え、アメリカ大使館も近くにあり、外国人の富裕層の住宅需要も高い状況が続いています。
全国の工業地で地価が最も高かったのは、3年連続で東京・大田区東海2丁目で1平方メートルあたり77万8000円でした。東京港や羽田空港、首都高速道路へのアクセスがよく、物流施設の用地としての需要が堅調です。
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