◆総事業費は17兆5000億円に 膨らむ国民負担
再処理事業を担う国の認可法人「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(青森市)は今年6月、再処理工場と、取り出したウランとプルトニウムで作るMOX燃料の工場建設に伴う総事業費は計約17兆5000億円になったと発表した。昨年度よりも4200億円増え、膨らみ続けている。電気料金を通じて国民が負担している形だ。 原発の使用済み核燃料にはウランやプルトニウム、マイナーアクチノイドと呼ばれる核種などが含まれる。再処理工場で化学処理しウランとプルトニウムを取り出し、MOX燃料工場で他の物質と混ぜてMOX燃料に加工し、もう一度発電に利用する取り組みが「核燃料サイクル」だ。 再処理工場では、使用済み核燃料を3~4センチ大にカット。これらを硝酸で溶かし、燃料部分と金属片などに分別する。溶けた燃料部分からマイナーアクチノイドなどを除き、ウランとプルトニウムを取り出す。 さらに純度を高め、ウラン溶液とプルトニウム溶液を精製。ここから、溶けていた硝酸を取り除き、ウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物の2種類を製造。この混合酸化物の粉末が、最終的に「MOX燃料」となる。 現状、日本の使用済み核燃料は、英国が撤退したため、主にフランスで再処理。処理後のMOX燃料を使い発電(プルサーマル発電)するのは関西電力高浜3、4号機など4基にとどまる。◆規制委審査に対応できず 「技術力に疑問」
再処理工場の完成延期が続く大きな原因は、原子力規制委員会による設備の詳細設計や工事計画の審査で、原燃がまずい対応を繰り返しているからだ。原発と違い前例がなく、原発6、7基分の設備数があり、審査対象は約2万5000点。設備の耐震や構造設計などの説明が尽くされていない。完成延期が続く再処理工場(青森県六ケ所村で、日本原燃提供)
原燃は、核燃料サイクル関連で約390万平方メートルの広大な敷地があり、施設ごとに地盤が異なるのに、考慮せずに申請。審査途中で、地盤を調べ直す事態にもなった。約6万ページの申請書のうち約3100ページで誤記載や落丁など不備も見つかっている。規制委の審査担当者は「工程ありきで全部の仕事が雑だ」と指摘。原燃だけで審査に対応できず、関西電力は職員の派遣もしている。 8月26日の審査会合で、原燃はようやく全体計画を報告。すべての説明を終えるのに来年11月までかかる見込みとした。 原燃は「再処理の技術的な能力はある」と自信を見せる。ただ、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「原燃の技術力がないから、規制委から求められる回答ができないのだろう。工場が完成しても、想定通りの量を製造できるのかは分からない」と指摘する。MOX燃料工場の完成予想図(日本原燃提供)
◆サイクル回らず…むつ市に中間貯蔵施設
再処理工場が未完成で使用済み核燃料を運び込めないことから、各電力会社は行き場に困っている。使用済み核燃料を保管する原子炉建屋内のプールが満杯になると、原発を運転できなくなるため、建屋外での保管を計画している。 東京電力と日本原子力発電は、出資会社の「リサイクル燃料貯蔵」を設置し、青森県むつ市に中間貯蔵施設を建設。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)からの使用済み核燃料を受け入れる。 他原発では、原発敷地内に貯蔵施設を造る動きが広がる。すでに原電東海第2原発(茨城県)では稼働中だ。関西電力は立地する福井県から県外搬出を求められているため、県外の中間貯蔵を検討。中国電力とともに山口県上関町で建設計画を示すが、具体化していない。◆原燃ってどんな組織?株主は電力会社
正式名は日本原燃。日本原燃サービス(1980年設立)と日本原燃産業(85年設立)が92年に合併し発足。建設を進めている再処理工場とMOX燃料工場の運営のほか、ウラン濃縮、放射性廃棄物の貯蔵管理を担う。増田尚宏社長は東京電力出身。主な株主は全国9電力会社と日本原子力発電で、9割を保有。核燃料を製造するためのウラン濃縮などで、売り上げは1828億円(2023年度)。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。