再犯率が高いとされる性犯罪。痴漢、盗撮といったものが挙げられるが、日本では近年再び痴漢の摘発件数が増加している。性犯罪の再犯率が約14%と言われる中、痴漢は30%以上と最も高い。痴漢の6割以上が電車内で日常的に起きているが、この加害者を治療することで、被害者を減らす取り組みが進み始めている。
【映像】「痴漢外来」実際の様子
心理学者の原田隆之氏は、痴漢を犯してしまう人に「窃触障害」として治療を行うことに「国際的な学会でも定義され、きちんと治療法もある」とし、その効果も患者の再犯率が約3%まで下がったことに手応えを感じている。『ABEMA Prime』では、痴漢を繰り返し刑務所に4回入り、現在はクリニックに4年通い続ける当事者とともに、今後の加害者治療の課題を考えた。
■日本は“痴漢大国”だった 心理学者「満員電車があるから」世界各国で性犯罪が起きているが、実は日本ではとりわけ痴漢の割合が多い。その最たる理由が「満員電車」だという。原田氏は「WHOの診断基準では、窃触障害が非常に稀な障害としてリストアップされている。海外の論文を読んでも、日本には痴漢というものがあるらしいという感じ。専門家が言うには、アメリカは車社会なので、出勤でそもそも痴漢が起こり得ない。電車でも駅と駅の間が長いところで多い」とした。多くの人とやむを得ず接触することがある満員電車であれば、痴漢に発展する可能性は自ずと高くなる。一時、コロナ禍で電車内が空いていた時期は、痴漢の件数も減ったという。
痴漢を病気として捉えることに、どんな意味があるか。「WHOでも病気の定義はされていて、治療法も100%ではないまでも確立していて、確実な再犯抑止効果がある。我々のところでもそれを提供していて、一定の効果を上げている。『認知行動療法』という心理療法だ。また、満員電車を避けるのは当然のことで、(痴漢の)スイッチを引いてしまうような危ないものを我々は『引き金』と呼ぶが、それはたくさんある。何かイライラしてストレスがあって、そのはけ口として痴漢行為、盗撮行為に出てしまうこともある」と説明した。
WHOでも病気とされているものの、今の日本にはこの窃触障害と向き合える病院の数が非常に少ないという。「片手ぐらいしかない。それも東京、横浜、大阪といった都市部ばかりで、本当に治療機関が少ない。これが一番の問題だ。司法の問題であって医療の問題ではないと思っている人も多く、専門家の中にもアレルギーがある。『うちの病院に痴漢の方が何十人も来られたら困る』という人もいる。医療側で意識改革をしなければいけない」と状況を説明した。
■再犯繰り返し4回刑務所「その状況になったらそれしか考えられない」現在クリニックで治療を受けている小林さんは、過去に4回、痴漢で刑務所に入っている。中学1年生の時に路上痴漢・のぞきを繰り返したことに始まり、高校1年生で計3度の補導、21歳時に3度逮捕され罰金刑にもなった。さらに26歳では執行猶予付きの実刑になると、さらに再犯し2度刑務所へ。出所後、女性と婚約することができたものの、35歳にまたも痴漢でけがを負わせ4回目の刑務所行き。女性との婚約は破棄された。ただ、現在は出所後に「痴漢外来」に通うことで、この4年間は再犯なく暮らせている。
4回目の服役を終えた後、どうやって痴漢外来に行き着いたのか。「婚約者もいて、仕事も順調なのに、またやってしまって全て失った。もうここで何かを治療しなきゃと担当の弁護士さんを通じて助けてくださいと言ったところ、探し当てた1カ所が今現在かかっているクリニック。現在は毎週1回の夜間ミーティングに参加させてもらい、あとは月1回の診察と投薬を欠かさず続けている」。診察では、他愛もない世間話だけで終わることもあれば、問題行動(痴漢)を考えて始めて危ないことを伝えたり、普段他の人には話せないような内容を打ち明けたりしている。「自分に何が問題があるのか気づけた。僕の場合は感情のコントロール。例えばストレスのはけ口として、犯罪をしていた。本当に真っ当な人生を送りたいのが本音。幾度となく被害者も作ってきて、本当に申し訳なさ、反省も後悔もしているのに止められない自分がいる。捕まればまたゼロからやり直しで、被害者を作ってしまうとわかっていても、その状況になったらそのことしか考えられなくなり、後先考えずにやってしまった」と、自身の問題行動を振り返った。
■治療の難しさ「最低2年は通院を」当事者「治療は一生かけてやっていく」より再犯率を下げるため、治療はどう進んでいくべきか。原田氏は痴漢を犯した人に対して、現状は保険がきかず自費で受けるしかない治療を、国が補助して義務付ける必要性を訴えた。「本人から来る分にはいいが、初犯で執行猶予がついたり罰金で済むと、あとは『自己責任で頑張って』。それでは頑張れないし、刑務所の中でも同じような(治療の)プログラムはあるが、痴漢は刑期が短くて3カ月か4カ月。これは一種の依存症みたいなものなので、私は最低2年は病院に通ってくださいと言う。週1回の方もいれば週5回の方もいて、期間は相当かかると思うが、心理療法はそれほどお金がかからない。薬も場合によっては保険もきく。刑務所に入れば1人当たり、年間300万円から400万円かかるのだから、刑務所に入ることを考えれば国が出してもいいと思う」。
また小林さんは、性犯罪を厳罰化して加害者を減らすことに賛成ではあるものの「厳罰化だけでは足りないのかなとも感じている」という。4年間、クリニックに通っていても、通院の回数や薬の量を減らせるとは思えない。「常に不安と戦っている。先生は年齢とともに性欲も落ちるから大丈夫というが、僕自身は常に不安。治療も4年目だが、たった4年という認識で通っているし、もしかしたらこの後やってしまうかという不安もある。最初は性欲と一括りだと思っていたが、前回に婚約が破断になった経緯もあってか、今は別物だと感じた」。
ただ今の小林さんは、病気とされたことで救われている部分がある。「クリニックにかかって窃触障害という病名がつき、治療を受けていることで安心した。(直接関係がない)被害者の方と直接話す機会もあり、被害者感情を真剣に受け入れたいと常日頃から考えている。治療は一生かけてやっていく気持ちで生活している」と語っていた。
(『ABEMA Prime』より)
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