東京大の藤井輝夫学長は10日に記者向けの説明会を開き、教育環境の改善のため、学部生の授業料を2025年度から2割引き上げる案を正式に示した。世帯収入に応じた経済的支援の拡充を併せて検討していると説明。学内会議に案として諮り、「速やかに決めたい。問題なく了承されれば、9月中には決定する見込みだ」とした。

「教育環境を持続的に改善する基盤を迅速につくり上げる。皆様の理解と協力をお願いしたい」。藤井学長はこう強調した。東大は10日、学生と教職員向けの学内会議の審議案を示した。

文部科学省の省令は国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、最大で20%まで引き上げられると定めている。

東大の現在の授業料は標準額と同額で、学部生については25年度から上限の同64万2960円とすることを検討。修士課程については学部生の実施から4年後の29年度から同額にしたい考えだ。博士課程については「次世代の学術を担う研究者の育成は東大の使命」だとして、据え置くとした。

国内の大学ではトップレベルの収入がある東大だが、財務構造は盤石ではない。国からの運営費交付金は減少傾向で、財政の厳しさから24年度は学生の体験型プログラムの拡充やティーチングアシスタント(TA)の待遇改善などを見送った。

授業料を引き上げた場合、28年度末時点で13億5千万円の増収を見込み、学修情報の可視化や学修ソフトの充実、グローバル体験の拡充や図書館機能の強化などを目指すという。

国立大学法人の授業料の引き上げは学長や理事で構成する役員会が決定することができ、文科省の承認は不要だ。当初は6月下旬の役員会で決め、7月中旬の25年度入学者選抜要項の発表時に公表予定だった。

だが学生や教員の一部は「進学機会の格差拡大につながる」などと懸念。藤井学長が6月、学生との意見交換の場である「総長対話」で引き上げ案を説明した際、学生側からは反対意見が相次いだ。執行部が一部の学部の教授陣に説明に回った時も反発が強かったといい、正式決定の時期を遅らせざるを得なかった。

藤井学長は10日の説明会で、引き上げとともに学生への経済的支援を拡充することを強調した。授業料全額免除の対象について、現在は世帯収入年400万円以下の学部生としているところを、同600万円以下の学部生と大学院生に広げる案を示した。同600万円超〜900万円以下の学生についても、出身地など状況を勘案して一部免除とする。

授業料の見直しは東大だけの問題ではない。交付金削減や光熱費の増加などを受け、国立大の財政状況は厳しい。

標準額は04年の国立大の法人化に伴って導入され、05年度に引き上げられてから一度も見直されていない。現在、標準額より高い授業料を設定するのは東京工業大や千葉大など首都圏の7校にとどまる。

日本経済新聞が6月下旬に学部をもつ全国の国立大82校を対象に実施したアンケートでは、東大を含む3校が授業料引き上げを検討、12校が今後検討する可能性があると回答した。

国も国立大の財務構造に関する検証を始めた。文科省は7月に国立大の機能強化に向けた有識者会議を設置。法人化後の20年間の研究成果や教育内容、財政面などの課題を24年末までにまとめる。その後、財源確保策の一環として授業料についても取り上げる見通しだ。

(大元裕行、斎藤さやか)

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