東京23区における火葬費用の高さが問題視されている。東京23区の区長からなる特別区長会が先週、火葬民間業者に対する収支透明化を義務づける法整備を求めて、武見厚生労働大臣に要望書を提出した。23区内には9カ所の火葬場があるが、そのうち7カ所が民間業者だ。うち6カ所を経営する「東京博善」は、大人1人9万円のプランが一般的で、公営火葬場の倍額程度になっている。
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区長会は要望書で、火葬場経営が営利目的でゆがめられないよう、公益目的にのっとり非営利性を確保すべきとした。「多死社会」における葬儀や弔いについて、『ABEMA Prime』で考えた。
■都内で高騰した火葬料金 民間業者は公営の倍近い料金に23区の火葬場料金は、区内在住の大人1人の場合、民営の東京博善(6カ所)は9万円、同じく民営の戸田葬祭場は8万円となっている。公営の臨海斎場(4万4000円)や瑞江葬儀所(5万9600円)よりは高めの設定だ。なお参考までに、立川市は無料、横浜市は1万2000円、京都市は2万円となっている。
東京博善の火葬料も、これまで変化してきた。2020年には5万9000円だったが、2021年1月に7万5000円へ。2022年6月には燃料サーチャージ(燃料費特別付加火葬料)が導入され、2カ月ごとの見直しでプラス1万円前後。今年6月に燃料サーチャージは撤廃され、8万9600円になった。
東京博善は『ABEMA Prime』の取材に対して、火葬料金について「特別高いとは考えていない」との認識を示す。民営のため燃料費・人件費・法人税・固定資産税の支払い、火葬炉の修繕積立費用などをまかなっていることや、公営よりも土地代が高く、建屋・設備が優美な点を理由に挙げる。また、区民葬(区民が利用できる簡素で質素な葬儀)を取り扱う葬儀社であれば、瑞江葬儀所と同額の5万9600円で利用可能(公費補助なし)とする。臨海斎場でも近隣区民以外だと8万8000円であることも理由とした。
葬儀会社「佐藤葬祭」代表の佐藤信顕氏は、「瑞江葬儀所は元々7000円程度だったが、石原都知事時代に、補修費用確保のため、民間と同程度の金額にそろえた」と説明しつつ、「東京博善が儲かっていると資本家に目を付けられた。独占・寡占状態で、値上げし、投資対象にされた」と背景を語る。また区民葬については「区民葬協議会で認可されないと、価格が上げられない」と事情を語る。
佐藤氏の指摘のように、この値付けの背景に、中国系資本の影響があるとの声もあるが、東京博善は、番組の取材に対して「値上げや価格決定と中国資本には関係がありません。値上げは燃料価格や人件費の高騰に伴って安定的、継続的に火葬を行うために必要なタイミングで実施しています」と回答している。
■足りない火葬場「エリア的な独占・寡占状態で市場がいびつ」リザプロ社長の孫辰洋氏は、「絶対儲かるなら値上げする。私企業で公的資金をもらっていないならば、値上げは健全な経営手段だ」と指摘する。元兵庫県明石市長で弁護士の泉房穂氏は「行政が自ら運営するか、関与しないといけない。人間は必ず死ぬ。全員に関係するものを、民間に丸投げするのは違うのでは」と懸念を示す。
孫氏は「もし自分が火葬業者なら、人間は一度しか死なないのだから、逆にサービスを向上して利益を上げて、従業員の給料を上げる」と話す。しかし佐藤氏によると、「従業員の給料は上がらず、儲かっているのは資産家だけだ」という。加えて、火葬独自の事情がある。「お寺やお墓は価格や地域で選べるが、火葬は死んだ場所で行わざるを得ない。エリア的な独占・寡占状態を解決するよう行政指導が必要だ」。
■打開策は供給の安定か寡占状態の背景には、火葬場や墓地の新設が難しい事情もある。2007年には長崎市の葬儀場建設をめぐり、「隣が葬儀場なんてイメージが悪い」「団地の価値が下がる」などと反対運動が起き、規模を縮小して建設が進められた。2008年には東京都建設局が、土地確保の面で平面墓地を交通の便が良いところに新たに作るのは難しいとの見解を示した。
泉氏は「行政が公営で作ればいい」と考えている。「明石市は市営で、併設する斎場は料金が選べる。ただ火葬そのものは選択肢がないため、料金を抑えるべきだ」。葬儀ができなくなる「無葬社会」に詳しい、ジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼秀徳氏は、「自治体が民間に運営を委託する形が健全なのでは」と提案する。
佐藤氏は、公営火葬場が足りていない現状を語る。「八王子や町田、立川などではパンク状態で、増やさなければいけない状況だ。供給量不足のため足元を見られる」。これに孫氏は「金額の議論よりも、まずは供給量を増やす必要がある」と反応する。
■トータルの葬儀料、適正は?コストを抑えた葬儀は、いくらからできるのか。「病院から運び、ひつぎに入れ、東京博善で火葬し、骨つぼに入れるところまで、大体30万円。公営だと20万円程度でできる」というのが佐藤氏の見積もりだ。
孫氏は経営的な視点から、「価格の正当性を確保するには、弔い方を変えるか、火葬の扱いを変えるか、火葬場を大量設置するかしかない」と分析する。一方で、最近は安さを売りにする業者もある。佐藤氏は「『家族葬32万円』『一般層50万円』と出ていても、3〜5倍請求されるのが普通だ。火葬料や花代、人件費などのコストを計算すると、都内では100万円弱かかる」と、その“闇深さ”を説く。
鵜飼氏は時代によっての変化を指摘する。「かつては上司の母親の葬儀を、みんなで手伝ったが、今は死がオープンにならず、丸投げになった結果、内訳が見えづらくなっている」。死の“ビジネス化”にも触れる。「民間企業にとって収益を上げることは大事だが、火葬は公共性が強い。『社会のために尽くしている』と見えれば、みんな納得する。社会科見学を受け入れるなど、社会のための付加価値を付けることで、『9万円でも、いいことをやっている』となる可能性がある」。
孫氏もこの意見に賛同する。「根本には『死との距離感』がある。火葬場の隣に住みたくない人が減れば、火葬場新設のハードルは下がる。教育者としては、社会科見学をやりたいが、親は絶対に行かせない。教師などがリスクを負って、死との距離感を変えなければ、行政も新設できない。価値観の変革が、課題解決につながる」と語った。
(『ABEMA Prime』より)
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