1968年に西日本一帯で発生した食中毒「カネミ油症事件」をテーマにしたドキュメンタリー映画が完成し、稲塚秀孝監督らが東京都内で街頭活動を行い、今も続く被害に目を向けるよう呼びかけた。今年発覚した紅こうじサプリメントの健康被害の問題も踏まえ、稲塚さんは「責任を原因企業に押し付けるだけでは同じことを繰り返す」と警鐘を鳴らす。(山田祐一郎)

映画のチラシを配る稲塚秀孝監督=東京都千代田区で

◆映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」、8日から上映

 「カネミ油症事件をご存じですか。多くの被害者がいるにもかかわらず、認定されずに救済されない人が多くいます」。今月4日、稲塚さんと共同プロデューサーでNPO法人有害化学物質削減ネットワークの藤原寿和理事が、食品の安全を所管する厚生労働省の前で通行者らに、映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」のチラシを手渡した。  「カネミ倉庫」(北九州市)製の米ぬか油を摂取した人が健康被害を訴えた食中毒事件。製造過程で混入したポリ塩化ビフェニール(PCB)やダイオキシン類が原因とされる。強い倦怠(けんたい)感とともに全身に大量の吹き出物ができるなど当時1万4000人が健康被害を訴え、世界最大級の「食品公害」とも言われた。  厚労省所管の研究機関「全国油症治療研究班」が定めた診断基準によって認定された患者に、国とカネミ倉庫が健康調査協力費や医療費を支払っているが、認定患者は現在約2300人にとどまる。

◆発生から半世紀経っても認定進まず

 映画は、被害者やその子ども、医師、研究者ら約40人を取材。発生から50年以上も続く健康被害や認定が進まない現状、次世代にも被害が生じている問題を取り上げる。稲塚さんは「診断基準によって認定、未認定が線引きされたことで救済に壁ができた。近年では2世、3世への影響も問題視されている。決して終わった話ではない」と訴える。  映画撮影と合わせ、稲塚さんらは認定患者の母親からへその緒を通じて子どもに有毒物質が伝わる可能性についても独自の調査を実施している。「へその緒プロジェクト」と題し、現在、民間検査会社で子ども3人(故人を含む。いずれも未認定)のへその緒を検査し、有毒物質の有無を調べている。「本来であれば、政府の責任で検査し、認定や補償につなげるべきだ」と稲塚さんは強調する。  56年前の食中毒事件がいまも解決を見ない中、国内では今年になって新たな食中毒の疑いがある被害が発生している。

厚生労働省が入る庁舎

◆「患者に寄り添った対応を」

 小林製薬(大阪市)が3月、紅こうじサプリによる健康被害を公表。現在、遺族から相談があった死亡事例は119件、死亡以外の健康被害は約4000件報告されている。これまでサプリの原料からは青カビ由来の「プベルル酸」が検出されており、同市は厚労省などの毒性試験を経て年度内にもサプリを原因食品とした食中毒と断定する見込みだ。  だが、ここでも政府や自治体は救済に消極的だ。厚労省の担当者は「民間企業の製品と消費者の間の問題。どこまで因果関係を認め、補償の対象とするかは小林製薬が決めることだ」と話す。  「カネミ油症の経験をどう考えているのか」と稲塚さんは政府の姿勢をこう批判する。「カネミ倉庫にだけ責任を押し付けた結果、いまでも救済が限定的になっている。政府に求められているのは、患者に寄り添った対応だ」  映画は8日から順次、被害が大きかった長崎県五島市と福岡市で先行上映される。東京では20日に文京区民センターで上映会を開く。10月以降、関西などの映画館で公開される予定。 

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