高齢者の問題と捉えられがちな孤独死が今、若者の間で増えている。ある調査では、東京23区で孤独死した若者はここ数年、毎年220人以上。うち4割が発見されるまでに4日以上経過しており、その多くは自ら命を絶ったと見られている。政府の実態調査では、「孤独感がある」と答えた人は4割にのぼり、年代別に見ると30代が46.1%と最も高い。『ABEMA Prime』では、生きる意欲を失い、自ら社会との繋がりを絶つ「セルフネグレクト」の状態に陥り、孤独死寸前までいったものの、そこから周囲の支えなどもあり、生活を取り戻して前に踏み出した当事者2人と「若者の孤独死」について考えた。
【映像】「セルフネグレクト」に陥った24歳女性の部屋
■生きる意味を失い「セルフネグレクト」状態に24歳のアミさんは昨年夏、長年交際していた恋人との別れがきっかけとなった。「生きる意味がなかった。仕事を休んで家にいることも多かった。もう本当にその人だけが全てだったので。仕事を頑張るとか生きる糧でもあったので、そこが崩れてしまうと全部がうまくいかない感じ。食事しなかったり、お風呂に入らなかったり。何もしたくないし、あまり考えたくないけど考えちゃう」という状況だった。一時、アミさんの自宅は足の踏み場もないほど衣服やゴミなどに溢れていた。これは「セルフネグレクト」の状態だ。法的な定義はないが、「健康 生命及び社会活動の維持に必要な個人衛生 住環境の衛生 健康行動などの放任・放棄」のことで、具体的な例としては汚れた衣服を着たり、入浴をしない、ゴミを捨てない・物をため込む、不適切な食事・病気やケガの治療を拒否するなどがあり、ほとんどのケースは自分を客観視できず、陥っている状態に気づかないという。
37歳の看護師・久我ひとみさんも、自ら命を断つ寸前だった。10年間1人暮らしを続けているが、家族や友人とは関係が希薄で、4年ほど前に持病の躁うつ病が悪化し、仕事を辞め引きこもっていた。「もともとトラウマや愛着障害があるので、メンタルが病みやすかった。それに加えて持病の躁うつ病が再発して、仕事のストレスも加わった。助けが必要な状況だというのは頭では理解していたが、助けてほしいとかという意欲が出なかった。自分はもうどうでもいい存在だっていうふうに思ってしまっていた」。アミさんと同じくセルフネグレクト状態に陥ると「食事は2、3日に1回。風呂にも2週間に1回しか入れず、片付けもぎりぎりで、ゴミステーションに持っていくことができなかった」という。ある日、Xに「今月は生きてるけど、来月はどうなっているかわからない状態で生きてきた。夏から身辺整理を始め、年内に完了した。スマホのデータ消去、ロープ、アルコールは準備できた」と、自死をほのめかす投稿をすると、フォロワーからの声がけがあり「見てくださっている方がいることがすごくうれしかった。社会の一員として存在しているんだと実感できる出来事」となり、なんとか思いとどまった。
■死を選ぶ寸前、どうやって立ち直ったのか2人はどうやって立ち直れたのか。アミさんにとって大きかったのは会話だ。「家族や友人とかに電話して自分は孤独じゃない、(別れた)その人だけじゃないんだと思えて、生きようかな、頑張ろうかなと。無料の電話サポートも夜中に利用した。1人じゃないと気を紛らわすために『いのちの電話』があると思う。そういうものに軽い感じでかけてみてもいいと思う。気分が乗らなかったら(途中で)切ったりもしたが、匿名なので本当にかけたい時にかけて、ちょっとお話をするぐらいの感じで使ってみてほしい。今の自分の思いを吐露してもそれを『うん、うん』と、毎日同じ話でも聞いてくれる」と、自身の体験を紹介した。現在では、ゴミに溢れた部屋も業者に依頼して、きれいに片付けられたという。
久我さんは、専門医に診てもらうところからサポートシステムを1つずつ構築していった。「まず精神科を受診して、診断書をもらったら福祉サービスを使うために障害者手帳を取得した。そこからソーシャルワーカーが助けてくれたり、臨床心理士のオンラインカウンセリングにお世話になったり」。プロセスを経て、現在はパートナーもできた。「仕事が決まったことで、社会から必要とされる実感もあるし『今日の夜何食べようかな?』『今日何しよう?』という欲求が出てきたので、だいぶ変わったと思う」と現状も報告した。
■大空幸星氏「孤立と孤独は違う」大空幸星氏が理事長を務める無料・匿名のチャット相談「あなたのいばしょ」には多い日であれば3000人、少ない日でも1000人を超える相談が来るという。まずセルフネグレクトについて大空氏は「負のループに陥っていく。友だちや家族を呼ぼうにも家に呼べないし、そもそも人に会う元気もない。人に会うという選択肢が頭の中に浮かんでこない。風呂に入らず、食欲がなくても平気な日が続けば、自分の力ではどうしようもない状況に陥る。困難な状況があると、人間の生存本能で抜け出す、SOSを出すものだと思われているが、そうではない。SOSを出すことすらしたくなくなる」と解説した。
また自ら命を断つという選択についても「非常に追い詰められた末に死、というように言われるが、冷静に判断ができる状況ではない。死にたいという気持ちと同時に、生きたくない気持ちもある。人間はやはりどこまでいっても生物なので、そんなに簡単には死ねず、自ら命を断つという行動のハードルは高い。どちらかというと生きたくない、生きられなかった結果で起こるのであって、死ぬ権利を行使したというわけではないと多くの人に知ってほしい」と呼びかけた。
「孤立」と「孤独」も似て非なるものだという。「若い人には今、SNSがある。18世紀、19世紀と比べればコミュニケーションは確実に上がっている。コミュニケーションによってつながりは強化されているはず」だが、死を選ぶケースは周囲と友好な交友関係を築いても起こる。「友好な人間関係があるからこそ、迷惑をかけてはいけない、不安にさせてはいけないと、逆に働いてしまう。孤立と孤独は違う。孤立は完全に家族やコミュニティとの接触を絶たれる状態だが、孤独は孤立していなくても起こる。私たちが最近、相談窓口を見ていて思うのは、家族も仲のいい友だちもたくさんいるのに、その人たちに相談できないこと。期待を裏切れない、心配をかけられないというのも、若者の孤独における一つの本質。これを無視して一人ぼっちの若者を探そうとするが、私はそうではないと思う」と示した。
■孤独に悩む人を減らすために「30分後、死にたい気持ちが和らいだら120点満点」アミさんや久我さんのように、孤独を感じて悩む人を減らしていくにはどうすればいいのか。大空氏は「マイナスからゼロに持っていくための支援がすごく大事」と述べた。「今の支援は全部ゼロ(の状態)から始まる。国の公的支援は全部その人本人が生きたいと思っていることを前提に組み立てている。死にたい人に生活保護を受給してくださいと言ったって何も響かない。1日でも早く人生を終わらせたい人に、人生を長引かせる支援は響かない。このゼロの状態、ステージを今は完全に無視してしまっている」と、様々な理由からマイナスの状態にいる人々へのサポートこそ重要だと語った。また「死にたい気持ちにも波がある。ちょっと落ち着いたところで、支援というのが初めて活きてくる。だからマイナスからゼロまで持っていく支援がすごく大事。30分後、今死にたいという気持ちがちょっと和らいでいたらそれで120点満点。(気持ちが)行ったり来たりするけれど、ゼロだけでいいんだよというのが最初のゴールになってほしい」と呼びかけていた。
※日本のいのち電話連盟は、孤独や不安に悩んでいる人に寄り添う市民活動を行い、企業・団体・個人からの寄付金などにより運営されている。
・「ナビダイヤル受付センター」:0570-783-556(午前10時〜午後10時)
※厚生労働省は悩みを抱えている人に相談窓口の利用を呼び掛けている。1人で悩みなどを抱え込まず、「こころの健康相談統一ダイヤル」や「いのちの電話」などに相談してください。
・「こころの健康相談統一ダイヤル」:0570-064-556
・「いのちの電話」:0570-783-556、0120-783-556
(『ABEMA Prime』より)
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