円筒形の吹き抜けが目を引く大法廷=千代田区の最高裁で
◆自然を見立てた荘厳なホール
石造りの外観が重厚な雰囲気が漂わせる最高裁=千代田区
皇居の桜田濠(ぼり)に面した三宅坂の一角に、花こう岩でできた要塞(ようさい)のような庁舎がたたずむ。1947年発足の最高裁は、現在の東京地裁周辺にあった旧大審院庁舎などを経て、74年春、現在地に移転した。 警視庁庁舎も手がけた建築家の故岡田新一氏が設計し、地下2階、地上5階建て、延べ床面積は約5万4000平方メートル。法廷棟や事務棟など七つの建物が連なる。皇居側を向く正面玄関から入り階段を上ると、大法廷につながる高い吹き抜けのホールが広がる。ホールの天井は雲、壁の照明は水の流れを表しているという=千代田区の最高裁で
大樹をイメージした柱や水の流れを表現した照明、雲のような半円形の天井など、自然に見立てた荘厳な空間。床に埋め込まれた定礎石は、北側の国立劇場(閉場中)、南側の国会議事堂の中心部と並ぶ位置にあるという。ホール脇にはギリシャ神話の法の女神「テミス」をイメージした「正義像」が立つ。左手にてんびん、右手には剣。観音像のような顔立ちが特徴だ。◆判事席と傍聴席の後ろには巨大なタペストリー
大法廷の裁判官席側に飾られている太陽をイメージしたタペストリー=千代田区の最高裁で
大法廷の傍聴席側に飾られている月をイメージして織ったタペストリー=千代田区の最高裁で
大法廷に入ると、直径約14メートルの円形の吹き抜けがあり、ガラス天井から太陽光が降り注ぐ。裁判官席と傍聴席の後ろには太陽と月をモチーフにしたタペストリーがかかる。裁判の活気と冷静さを表しているという。手元に照明がついている新聞記者席=千代田区の最高裁で
格調の高さは細部にも見られる。裁判官席や当事者席の机は革張りで、記者席の手元には、机と小さな金属製の照明がついている。最近は裁判手続きのデジタル化のため、大法廷と各小法廷では大型モニターや廷内を写すカメラの設置が進む。遠方の当事者がリモートで参加する光景が見られることになりそうだ。 ◇ ◇◆最高裁判事になると歩く機会が激減?
柔らかな外光が差し込む大法廷の吹き抜け=千代田区の最高裁で
最高裁判事は長官を含めて15人。裁判官や検察官、弁護士、行政官、学者出身者らで構成する。定年は70歳。5人で担当する小法廷が三つあり、憲法判断が必要な場合などは15人全員がそろう大法廷が開かれる。 最高裁に持ち込まれる事件は年間1万1000件超。各小法廷に割り振られ、最初に裁判官出身の調査官が論点を整理する。上告が認められるのは憲法や判例違反がある場合に限られ、判事間で書類などを回覧した上で上告を退けることが大半。必要と判断すれば判事が集まり審議し、法廷を開いて当事者の意見を聞く弁論や判決言い渡しをする。 判事にはそれぞれ約70平方メートルの執務室がある。トイレ付きで、二重の窓ガラスで厳重に守られている。午前9時台には公用車で出勤。各小法廷の審議などを除き、夕方の退庁まで書類や記録の山と向き合う。歩く機会が激減するという。 ◇ ◇◆日本では黒い法服、海外ではカラフルな国も
(左から)1947年まで使われた法服と現在使用されているもの、英国、フランスの法服=千代田区の最高裁で
日本の裁判所では判事が着る法服は黒色に統一されている。他の色に染まらないため「公正さの象徴」とされる。最高裁では、女性判事が首元に白い大きなリボンを結ぶことが多い。 明治中期から1947(昭和22)年の間は、法曹三者が全員、黒い法服と法冠姿で法廷に立った。法服の胸元には刺しゅうがあり、色は裁判官が紫、弁護士が白、検察官が赤だった。 海外ではカラフルな法服もみられる。フランスでは王家の権威の象徴とされる赤色が基調。判事らがかつらを着用する伝統が残る英国には、黒地を明るい紫色で縁取った法服がある。 ◆文・太田理英子/写真・木口慎子 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。水の流れを表しているというホールの照明=千代田区の最高裁で
ホールの床に埋め込まれている定礎石。奥が大法廷の入り口=千代田区の最高裁で
大ホールに置かれる「正義」像=千代田区の最高裁で
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