日本原子力発電(原電)敦賀原発2号機(福井県)の原子炉建屋直下に活断層が通る可能性があるとして、原子力規制委員会は28日、原発の新規制基準に不適合とした審査書案を了承した。敦賀2号機は再稼働できない。東京電力福島第1原発事故後に策定された新基準で、不適合とされた原発は初めて。

日本原子力発電敦賀原発2号機=福井県敦賀市で、本社ヘリ「まなづる」から

 規制委はパブリックコメント(意見公募)を29日から9月27日まで実施し、その後に審査書案を正式決定する見込み。原電は規制委の判断を不服として再申請する意向だが、規制委の決定を覆すのは困難だ。

 敦賀原発2号機の審査 1987年に営業運転開始。2011年5月、1次冷却水の放射能濃度が上昇するトラブルで停止した。原電は15年11月、再稼働に向けた審査を原子力規制委員会に申請。地質データの書き換えや資料に1000カ所以上の誤りが発覚し、審査は2度中断した。規制委は原電本店に異例の検査にも入った。昨年9月の審査再開後は、敷地内に100本超ある断層のうち、K断層に絞り議論してきた。

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◆福井・敦賀市…1970年、軽水炉では全国初の営業運転

 原子力規制委員会が28日に再稼働を認めないとする審査書案を示した日本原子力発電(原電)敦賀原発2号機が立地する福井県敦賀市は、原子炉を4基抱え、原子力と共に歩んできた。立地自治体をリードしながらも、既に廃炉中の3基を含め稼働を見通せる原子炉はなくなった。今年3月、北陸新幹線が延伸開業し、観光に力を入れようという機運はあるが、原子力に変わる産業は見つからないのが現状だ。(荒井六貴)  「来年の大阪万博を前に、再稼働できないことが決まるとは。皮肉だ」  原電に1976年に入社し、退職するまで敦賀原発の補修などを担ってきた敦賀市の北條正市議(72)は、そうため息をつく。  業界内では、原電の立地自治体は国内の原発の発祥地として「西の敦賀」「東の東海」とも呼ばれてきたという。初の商用炉は1966年に営業運転を始めた茨城県東海村の東海原発(廃炉作業中)。敦賀1号機(同)は、冷却に水を使う軽水炉では初めて1970年に営業運転を開始した。  敦賀1号機は、当時の東京新聞に「人類の進歩がテーマの万博に新時代のエネルギー原子力の電気を送ろうを合言葉に工事が急ピッチで進められた」とあり、運転開始日に開幕した大阪万博に送電したと宣伝された。当時の原電社員で、地元で暮らす道下泰宏さん(82)は「これからは原子力の時代だという感じだった」と振り返る。  来年の大阪万博にも敦賀から原発の電気を送るという関係者の願いもむなしく、絶望的となった。

◆自治体収入の1割超が原子力関連、多くの作業員による経済効果も

 敦賀原発のほか、ともに廃炉作業中の新型転換炉「ふげん」と高速増殖原型炉「もんじゅ」の計4基とともに歩んできた敦賀市。原発立地自治体で構成する全国原発所在市町村協議会の歴代会長は、68年の会設立以来、敦賀市長が務め、事務局も市が担い、国への要望活動などで先頭に立ってきた。  このような背景で、市は原子力への依存度も大きい。

日本原子力発電敦賀原発3、4号機の建設予定地(手前)。奥は敦賀原発1、2号機=福井県敦賀市で、本社ヘリ「まなづる」から

 市によると、2024年度の一般会計当初予算は、約402億9000万円のうち原子力関連の収入が交付金や固定資産税で約45億7000万円、約11%を占める。ここ4年は、ふるさと納税による収入が全国上位に入るほど好調で、原子力関連を上回る。とはいえ、市の担当者は「原子力は減少傾向だが、代わりを見つけるのは難しい」と吐露する。  原発では多くの作業員が市内に宿泊し、飲食でお金を落とす。北條市議は「定期検査では1日1基2000人ほどが働く。2号機が廃炉になったらどうなるのか。この街は原子力でできた構造だ」と不安視する。

◆新幹線開業も盛り上がりに欠け…「これという観光施設がない」

 原子力の代替産業として期待されるのが観光だ。北陸新幹線敦賀駅が3月に開業し、東京から乗り換えなしで行くことができるようになった。市によると、開業後2カ月で市内の観光施設7カ所を訪れた観光客数は、前年同期に比べほぼ倍に増えた。  ただ、波及効果は限定的のようだ。駅から離れた民宿を経営する男性(57)は「開業直後は一番列車に乗りたい人が、駅近くのホテルに泊まれずにおこぼれで来てくれたが、その後は来ない。新幹線はあてにならない」と打ち明ける。  原発作業員の受け入れを増やそうと、福島の原発事故直前に増築工事に入り、借金も背負う。「今は観光にシフトしている。海水浴や越前がにのシーズンは来てくれるが、これという観光施設がなく、人が集まる要素がない」と嘆く。

◆根強い「新増設」求める声

 市は、水素エネルギー供給を産業化する構想も描くものの、まだ育ってはいない。市議会を中心に敦賀3、4号機の早期建設を求める声は根強い。  ある市職員は現状をこう捉える。「原子力に代わる産業は『ない』のが正直なところ。当面は観光需要を獲得しながら、食いつなぐ。原発を新増設すれば簡単な話だが、それに頼らない市の将来を真剣に考える機会にはなる」 

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