東京電力福島第1原発事故に伴う処理水の海洋放出開始から1年になるのを前に、東京電力は放出設備や、処理水がなくなり解体予定のタンクを報道陣に公開した。事故から13年半。敷地内で増え続けたタンクは約1000基で歯止めがかかったが、今度は「解体」という難題が待つ。

◆海洋放出中とは気づかない静かな原発構内

タンク群について説明する東京電力の担当者=9日、東京電力福島第1原発で(代表撮影)

 8月9日午前、バスで構内に入った。外は強烈な日差しで、うだるような暑さ。気温31度以上になると作業は原則禁止。車窓から作業員の姿は見えなかった。  放出設備がある5、6号機の海側の敷地に向かった。事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)が堆積する1〜3号機から離れている上、車内でもあり、線量は比較的低く毎時1マイクロシーベルトほど。とはいえ、東京都内の20倍はある。ヘルメットとゴーグル、保冷剤を入れたベストという軽装備で取材した。  「放水管」と書かれた青色の太いパイプがコンクリート製の水槽につながっていた。処理水はここから海底トンネルを通じ、1キロ先の海底から放出されている。通算8回目の放出中だったこの日、周辺は静かで放出の実感は湧かなかった。

処理水が流れていく放水管=9日、東京電力福島第1原発(代表撮影)

◆タンクを切り刻めば、放射線を出すダストが舞い散る

 再びバスに乗り、走ること5分。林のように立ち並ぶ灰色のタンク群が見えてきた。「J8」「J9」と呼ばれるエリアの21基だ。1基当たり700トンが入る。このうち12基は放出などで空になった。9基にはさらに処理が必要な水が保管され、別のタンクに移送する計画だ。東京電力は21基の解体を来年1月にも始め、3年ほどで終えたいとする。  タンク撤去後の敷地には、デブリ取り出しのための施設の設置を予定する。ただ、撤去も簡単にはいかないようだ。接ぎ目がない溶接型のタンクは解体実績がない。切り刻んでいく予定だが、高い放射線量のダストが舞うという。作業員の被ばくが心配になった。「解体はすごく慎重にやっていくことになる」。案内した社員はそう説明した。  処理水を含め、原発から出た廃棄物の処分には、途方もない労力と時間が必要だと痛感した。(山下葉月)   ◇   ◇

◆汚染水の発生は止まっていない…デブリも汚泥も展望開けず

 海洋放出を終えるには、汚染水の発生を食い止める必要がある。ただ、デブリが大量に滞積する原子炉建屋へ地下水や雨水の流入は続き、デブリに触れることで汚染水は日々、増えている。  東京電力によると、2023年度平均の1日当たりの汚染水発生量は80トンで、年間で3万トン弱。建屋に地下水や雨水が入り込まないよう、東京電力は建屋を囲う凍土遮水壁を建設したり、周辺をアスファルト舗装したりして対策し、事故直後よりは汚染水の発生量は減った。  根本的な解決方法はデブリを建屋から除去することだ。しかし、22日には微量採取さえ着手に失敗し、全量の取り出しの見通しは立っていない。  また、汚染水から放射性物質を取り除く処理の過程で発生する高濃度に汚染された汚泥が増え続け、保管や処分をどうしていくのかも課題になっている。

汚染水の処理後に残る高濃度の汚泥は専用容器に入れられ、コンクリート製の箱内で貯蔵されている=東京電力福島第1原発で

 汚泥を保管するポリエチレン製の容器は現在、4576基あり、すでに95%以上が埋まる。あと2年弱で満杯になる計算のため、東京電力は「最大5344基まで増設できる」として敷地確保を見通す。ただ、保管できても、汚泥からの放射線で容器の劣化が進み、汚泥が漏れ出すリスクがあり、新しい容器に移し替える作業を続けている。  東京電力は脱水した上で最終的に固体化する計画を示す。だが、原子力規制委員会から、処理設備内で飛散する放射性物質への対策の不備を指摘され、2022年度内を予定していた脱水化の開始は2027年3月に先送り。それも計画通りにいくかは分からない上、その後の固体化についても、方法や最終的な処分先は具体化していない。(荒井六貴) 

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