北海道大学の宝金学長は、半導体人材育成の取り組みを進めていく考えだ(2日、札幌市)

北海道大学の宝金清博学長は日本経済新聞の取材に「半導体人材を育成することは北大にとって明確な既定路線だ」と述べた。北海道には最先端半導体の製造を目指すラピダスが進出し、関連企業立地にも期待が集まる。北大の学部卒者の道内での就職が3割にとどまる中、学生に魅力ある就職先としての新産業育成に重要な役割を担う。

北大とラピダスは6月、同社が製造を目指す回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体で試作品の分析評価、また研究や人材育成で手を組んだ。宝金学長は「大学としてまだ実績のない企業と手を組むことは異例。即戦力人材を一定のボリュームで育てることが求められており、(基礎科学の共同研究などが中心だった)従来の産学連携と大きく異なる」と指摘する。

ラピダスと北海道大学は半導体研究や人材育成でも連携する(6月、札幌市)

世界で実績を誇る台湾積体電路製造(TSMC)が進出するなど、半導体企業の集積が進む九州では、熊本県の熊本大学が学部新設するなど人材育成で先行する。TSMCは熊大にインターンシップや研究奨励金などで資金も提供している。宝金学長は「産学連携は互いのリソースを出し合うことが欠かせない」と訴える。

北大はTSMCと密接な関係を築いている台湾の陽明交通大学とも、半導体人材の育成で連携した。連携を急ぐ背景には「(半導体関連の)人材と設備が依然として十分ではない。どう増やすかを考えている」との危機感がある。「北大が有する半導体教員のリソースは必要量の半分くらいではないか」と話し、不足しているとの認識だ。

北大が抱える課題の一つに、北大生が就職で道外に流出してしまっている現状がある。2023年度に学部を卒業し、就職した801人のうち道内就職は249人と3割、修士課程では全体(1246人)のうち183人と1割にとどまり、特に理系では数%程度という研究科もある。

もちろん北大は旧七帝大の国立大学の一つで、就職先も全国区であることは仕方ない面もある。ただ宝金学長は「大学として道内就職率を高めることを明確な目標にしていく必要がある」と話す。「そもそもの要因は地元に残りたくなるような就職先が乏しかったこと。新しい産業構造を作るため北大も全力を挙げなければ」と述べる。

道内に残らない要因として、北大生の大半が道外出身者ということも関係している。24年度学部入学者数は2600人弱。うち道外出身者が69.3%を占めた。道外の内訳をみると、最も多いのが関東(29.6%)、次いで北陸・中部(14.4%)だった。宝金学長は「道内出身者の中でも、特に札幌圏以外の学生が入りづらくなっている。入試制度を変えることも模索している」と明かす。

「国立大である以上、いわゆる地域枠で『北海道から何人とる』とするのは難しい。面接や地域性を重視した方法などで、入試のやり方を変えていけないか」との考えだ。

北大・宝金学長「授業料上げ、若者の地方離れを懸念」

文部科学省は国立大の機能強化に向けた有識者会議で、20年間据え置いてきた授業料の標準額(年53万5800円)の妥当性などを検証する。北大の宝金学長は授業料について「私立大学並みに引き上げる議論はやめるべきだ。若者が地方に残らず、都市部への一極集中が加速する」と懸念を示した。

北大での引き上げを巡っては「現時点で北大として議論はしていない。有識者会議でまとまる内容を注視している」とした。「奨学金の貸与は学生の将来負担を増やしてしまう。給付型にするならば、運営費交付金の増額が本筋ではないか」との考えも示した。

そんな北大も自己財源確保に向け、初の大学債を発行する。みずほ証券と野村証券が主幹事に決まった。詳細については「既に大学債を発行している他大と近い発行額で、首都圏の大学よりは少し減る規模。時期は金利情勢次第」と述べた。国立大では東京大学や東北大学が100億〜200億円程度の規模で発行している。

(神野恭輔)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。