留学やワーキングホリデー、国際結婚などで、海外に住む日本人の数は増加を続け、現在129万人以上にのぼる。そんな海外在住者たちの頭を悩ませているのが子育てにおける「日本語教育」だ。
【映像】海外で暮らす母と娘が日本語を勉強する様子「漢字は文化的背景を知らないと難しい」
オーストラリア人の父と、日本人の母を持つ、はなちゃん(7)は海外で暮らしながら、日本語の勉強に励んでいる。しかし、例えば漢字の練習一つ取っても、「社会科で神社の社を見学する」の読みで、つまずいてしまう。母親のエラはなさんは「漢字を学ぶことが大変で、例文の意味すらわからない」といい、「『社会科見学』も神社もわからない。漢字は文化的背景を知らないと難しい」と述べた。
一歩家を出れば、現地の言葉だけで生活できる中、日本語をどこまで学ばせるべきか。バイリンガル教育の必要性を見極めるのは難しい。エラはなさんは「子どもが大人になって、『私のアイデンティティーとは』と考えたときに、少しでも考える手助けになることを今のうちからしてあげたい」と語る。『ABEMA Prime』では、発育への影響や子どもの負担など、バイリンガル教育について、当事者とともに考えた。
■アメリカ在住8年のまつむらさん一家
アメリカ在住8年のまつむらさんは、7歳の長男、6歳の長女に日本語で話しかけるが、アメリカ人の夫は英語で話す。子どもは現地の小学校で英語で生活し、日本に移住する予定は現状ない。 こうした状況から、まつむらさんは「子ども自身が『日本語を話さなきゃいけない』という必要性を感じていない」といい、「日本のことは好きだが、日本語は勉強したくない。私は日本人の親として、『日本語を使えるようになって欲しい』と思うため、親の期待とのバランスで葛藤がある」。現地の日本語学習環境にも難しさがあるといい、「海外永住を予定している家族が、日本語を勉強したいときに、ニーズに合った学校や先生を探すのが大変だ」と訴える。当初は「大人になっても、子どもたちと日本語で会話したい」と考えていたが、葛藤の中で「子どもはアメリカ生まれ、アメリカ育ちで、私とは違う人生を生きている。どこまで日本語を学ぶかは、最終的に子ども自身が決めること。私が英語を勉強して、問題なく話せるようになればいい」と考えるようになった。
ネイティブスピーカーではないことへの不安については「同じように移住してきた日本人の親と話しても、不安を感じている人は多い。日本語で話して欲しいという思いから、子どもが英語で話しかけてくる度に、日本語で言い直させていたが、そうすると言いよどむようになる。『日本語は難しいから、もう言わなくていい』となる様子が見受けられて、押しすぎるのも良くないと感じた」と述べた。
■早期バイリンガル教育は「2つの言語をインプット・アウトプットすることで、違いや類似点を見つけられる」
バイリンガル教育によって「実行機能(認知機能)」が向上するという研究もある。実行機能とは、目標のための計画を立てて達成するために、自分の行動や思考などを調整する脳機能を指す。バイリンガルの人が一方の言語を使うときには、2つの言語が同時に活性化し、もう一方の言語を抑制する。このように脳の認知機能が訓練されると、自分の気持ちを抑え、他者理解の能力を促進する効果があるという。早期バイリンガルには、大きく4つのメリットがある。言語そのものの性質を考える能力「メタ言語的知識」、異なる人が異なる知識を持っていることを認識できる「社会的認知」、より論理的な「意思決定」、高齢になったときに認知症の発症や、その他の認知機能の低下が遅くなる「加齢と健康」だ。
バイリンガルサイエンス研究所の主任研究員、ポール・ジェイコブス氏は、具体的な長所について「子どもの頃は、文法など考えず、自然に言葉が出てくる。しかし2つの言語を一緒にインプット・アウトプットすることで、言葉の違いや類似点を見つけられる。第3言語も勉強しやすくなる」と説明する。他者への理解が深まるという研究もあり、「バイリンガル環境で育つ子どもは、『誰に、どの言語で話すか』を判断しないといけない。『この人は1つの言語でしか話せない』『この人はミックスで話せる』と判断しながら育つことで、理解は深まる」と続けた。
■バイリンガル教育の懸念
メリットが指摘される一方で、海外でのバイリンガル教育をめぐっては、日本人の両親から「家の中では日本語で完結できるので、どうしても日本語が強くなり、英語の習得が遅れがち」、あるいは逆に英語に浸かることで「日本語で日常会話は問題ないが読み書きが無理になった」といった声も出ている。
バイリンガル教育の懸念として、複数の言語を習得しているが、いずれも年相応の言語レベルに到達していない「ダブルリミテッド」や、それぞれの言語にふれる量などの影響で、モノリンガルに比べて、一方の言語の語彙力が遅れていくこと、別の言語を学ぶストレスや嫌悪感によって、時間や精神面で子どもへの負担があることが挙げられる。 現役保育士の育児カウンセラー・てぃ先生は、親たちの「優しさ」を指摘し、「『子どもの可能性をつぶさないように』『人生において何ひとつ失敗させないように』という、優しい親心がある。まつむらさんが『日本語を習わせておきたい』と考えるのは、可能性を少しでも広げてあげたいから。一方で、子ども自身はそれを望んでいないとなると、誰の役に立っているのかと疑問に思う」との見方を示した。まつむらさんは、この意見に「確かに、学べるタイミングで、できるだけ学んで欲しいとの思いはある」と理解を示しつつ、「日本で育った人と同程度の日本語にはならなくてもいい」とも語る。「大きくなって言葉が通じなくなると、私側の家族(子どもの母方)との関係性が薄くなってしまうため、話せるようになって欲しい」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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