◆強度は十分、ウクライナの復興住宅にも
穏やかな海が一望できる珠洲市上戸町のホテル「notonowa(のとのわ)」の敷地内に、厚さ30センチの白い壁が何枚も運び込まれた。側面は菓子のミルフィーユのように波打っている。3Dプリンターが設計データを読み込み、ロボットアームでモルタルを重ねて作られたパーツだ。ホテルの部屋として、敷地内に1棟を建設する。3Dプリンターを使った住宅の完成イメージ=慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター提供
水回りを完備する2人暮らし用の50平方メートルの平屋で、本体価格は550万円。組み立てに1日8時間かけた場合、6日間で完成する計算だ。数千万円かかる通常の新築住宅に比べ、工期が短く安価に建設できる。壁の空洞部分にコンクリートを流して固めるため、強度も十分だという。 開発したのは3Dプリンター住宅を手がける住宅メーカー「セレンディクス」(兵庫県西宮市)。これまでは、書斎や小さな空間を3Dプリンターで作ってきたが、住まいを想定した物件は初めて。全国から1万件超の問い合わせがあるほか、ロシアの侵攻を受けているウクライナの復興住宅も手がける予定だ。◆木材価格高騰が自宅再建の足かせに
3Dプリンターで作られた壁を組み立てる作業員ら=石川県珠洲市上戸町で
のとのわのゼネラルマネジャー蔵雅博さん(64)は、3年前に3Dプリンター建築の存在を知った。小さな空間を市内に数カ所設けようと同社と打ち合わせをしていたが、実現前に地震が発生。「住宅再建の一つの選択肢として、モデルハウスになれば」と考え、建設を決めた。 高齢化率が高い能登地域では、自宅の再建を望む被災者にとって木材などの価格高騰が足かせとなっている。セレンディクスの飯田国大(はんだ・くにひろ)執行役員は「多くの人が家を失っている中で、一日でも早く新しい光を伝えることが大切と考えた」と言葉に力を込める。受け付けはオンラインのみで、能登地域からは既に約30件の問い合わせがある。飯田さんは「高齢者をはじめ、多くの人に存在を知ってほしい」と話している。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。