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 日本三大盆踊りの一つ「阿波おどり」が徳島市で始まった。全国から人が押し寄せる祭りだが、このところ「有料席」が物議を醸している。

【映像】20万円のプレミアム席から見た阿波踊り

 去年は、踊り子の連を一望できる「プレミアム桟敷席」が1人20万円で販売された。今年も青森・ねぶた祭や京都・祇園祭など、各地のお祭りで「有料席」が設置される中、「プレミアム化」には疑問の声も出ている。祭りの有料化をどう考えるか。『ABEMA Prime』で議論した。

■祭の有料化「地元に還元され、住民の同意を経たものなのかが大事」

 祭りや花火大会に有料席が導入される事例が、全国で広がっている。青森ねぶた祭では、1組110万円の「VIPシート」が設置され、30席が1分で完売となった。収益は祭りの担い手などに還元し、持続可能な循環モデルづくりに役立てるとしている。

 京都の祇園祭では、アルコールや食事などを提供する「プレミアム観覧席」を1席15万円と20万円で設置したが、これに京都市観光協会の理事も務める八坂神社の宮司が反対した。水都くらわんか花火大会では、最大10人が利用できる完全プライベートな空間である「300万円の超高額有料席」が設けられた。その他、主要花火大会の7割が有料化され、有料席の8割がコロナ前より値上がりしている。

 有料席に対して、これまで500基以上のみこしを担いできた一般社団法人「明日襷(あしたすき)」代表理事の宮田宣也氏は「有料化で得たものが地元に還元され、有料化が住民の同意を経たものなのかが大事」。城西国際大学観光学部の佐滝剛弘教授は「花火は見せ物なので有料化はありだが、祭は地元の人が楽しむもの、有料席が反発を生む可能性がある」との考えを示す。  宮田氏は、これまでも「桟敷席での有料化はあった」としつつ、「何のためにプレミアム化しているかはっきりしないのが今回の問題だ」と指摘する。「金銭的に持続可能なモデルになるかが疑問で、本当に黒字が還元されているのかが見えてこない」。  佐滝氏は「遠方からの来場者が多いイベントでは、会場整理のために席を設ける必要もある」とした上で、祭りの現状について「祭りは存続が危ぶまれていることが多い。跡継ぎ不足と経済的問題がある中では、一定の有料化はやむなしだ。ただ、高額だと『誰のためにやっているか』となる」と説明した。

 宮田氏によると、従来の桟敷席は「地域の理解があった上で、地元のお年寄りなど、みこしを担がないが祭りに参加する方」のためにあったという。

「実際に参加している人に、プレミアム化を説明したのか。『パフォーマーによるショー』として見せても、『なぜこの人たちが一生懸命やるのか』が理解されなければ、どんどん士気は下がっていく」。

■阿波おどりのプレミアム席が物議「(黒字分は)維持補修や設備更新など、再投資に回していく」

 徳島市の阿波おどりは、2018年に約2900万円の赤字、2019年に約1億9000万円の赤字(台風で2日間中止)を出していたが、2023年には約1600万円の黒字へ転じていた。その背景には、特別観覧席(1.5万円)・ネーミングライツの導入や、補助金獲得に向けての努力、そしてチケット販売の適正化などがあったと推測される(いずれの金額も「阿波おどり事業決算見込み」より)。  今年4月まで徳島市長を1期4年務めた内藤佐和子氏は、「阿波おどりには、もともと『桟敷席』があり、無料から1000円、3000円などの値段設定があった」といい、「(市長在任中の)去年は特別観覧席とプレミアム桟敷席を設けた。最終的にプレミアム桟敷席は返金され、黒字化の要因になったかは不明だが、選択肢を増やすことによる集客は重要だ。もちろん収益も必要だと感じる」との見方を示す。  2023年の阿波おどりでは、1席20万円の「プレミアム桟敷席」を販売したが、建築基準法違反が判明。安全基準を示す検査済証の交付なしに運営されたが、実行委員会は「交付なしの運営が違法との認識がなかった」としつつ、利用者に全額を返金した。なお今年は20万円のプレミアム席は設置されていない。  2024年の阿波おどり有料席は、進行方向手前からC席(1000円)、B席(2000円)、S席(3000円)、SS席(6000円)、S席(3000円)、A席(2500円)、そして特別観覧席(1万5000円)が用意された。

 黒字分について、内藤氏は「桟敷・ちょうちんの維持補修や設備更新など、きちんと再投資に回していく。お金がないと運営が続けられないため、実行委員会は使途を明確に出している」と話す。

 プレミアム桟敷席の導入に際して、地元の理解は得られたのか。「インバウンド需要に向けて発信することや、国も推進しているプレミアム・ラグジュアリー施策では観光庁からの補助金を受けることなど、実行委員会などが説明した」と答えた。

■時代に合わせて伝統に変化すべき?

 時代に合わせた伝統の変化も見られる。従来は女人禁制や、慣習として女性が参加していなかった勝部の火まつり(滋賀)、はだか祭の神事(愛知)などに近年、女性が参加している。宮田氏は、服装の自由化や、外国人をふくめて地元民以外にも参加者を拡大する「祭のアップデート」を提案する。

 佐滝氏は、こうした変化に「あり」との見方を示し、「今年初めて、祇園祭の山鉾巡行で、地元在住ではないアフリカ系の方が参加した」。参加規模も要因の一つとなる。「女人禁制にも重要な意味があるが、それでは継続できないと、子どもや女性が参加できるようになった事例は多い。『消えるのか、変えるのか』の二択では、ある程度変わることもやむを得ない」との考えを示す。

 宮田氏は、各地の祭りについて「明治維新や戦争など、大きな時代の変化に適応できたから残っている」といい、「私たちも、そういう態度を持たなければ、次の時代には届けられない。そのために今、『何のために祭りをやるのか』を真剣に考えている」。

 しかしながら、「神事にはルールも協定もない」のが特徴だ。「ひとり一人が考え抜き、わからなければ神職の方に相談するのが正しい。祇園祭の件では、八坂神社の神職の方が発言した。チャレンジしたい気持ちは自由で、存続のために工夫したことで『やりすぎ』と言われるようなやりとりがなければ、アップデートはされない」と続けた。

 内藤氏は「徐々に変わっていくものだ」とした上で、「阿波踊りも“正調”だけでなく、若い子が太鼓や鐘でドカドカやるものも増えた。初めは『何あれ』と言われていても、だんだん認められていく。チャレンジと失敗を重ねつつ、納得感を持って進んでいくのではないか」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)

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