アスリートのパフォーマンスを最大限に発揮するために重要なのが「ユニホーム」。しかし、その薄さや露出の多さからアスリートの盗撮被害が相次いでいる。
【映像】盗撮防止ユニホームを着てパリ五輪を戦うアスリートたち
この現状を解消すべく、スポーツメーカーのミズノがパリオリンピック出場選手のために「盗撮防止ユニホーム」を開発した。
ミズノが20年以上の歳月をかけて開発したのが、ドライエアロフローラピッドという素材。元々は汗処理の機能を高めようと開発された糸が、赤外線の吸収にも優れていたため、赤外線カメラでの盗撮を防げるのではと考えた。しかし、この素材を生み出すまでにはさまざまな試行錯誤があった。
ミズノ材料開発課の白石篤史課長は「赤外線を通しにくくするために、金属を付着したり、生地を厚くしたりしたが、金属を吹きつけるとガサガサしてしまったり、汗を吸いにくくなったり、動きづらさや重さが問題になり、パフォーマンスと逆行した。『汗処理、スポーツのパフォーマンス』と『赤外線』という二律背反を解決するのに20年間かかった」と振り返る。
さらに、アスリートからは、軽さや伸び感、着心地、破れにくさなどの要望があった。
「汗処理、防透けだけでなく、着心地、物性面という4つの壁を乗り越える方法を考えるのが非常に困難だった」(白石課長、以下同)紆余曲折の末、パリオリンピックまでに完成したのが今回の盗撮防止ユニホームだ。
「ポリエステル繊維の中に特殊な鉱物を練り込んでおり、その鉱物が赤外線を吸収する。体から発する赤外線を吸収することによって、衣服の外に出にくくなり、赤外線カメラでキャッチしにくい状況を生む」
汗処理機能や着心地、耐久性、防透け機能を兼ね備えた盗撮防止ユニホーム。世界初の技術として特許も取得した。今回のオリンピックでは、女子バレーや卓球、ホッケーなど6競技で採用されている。選手たちの反応は…
「『着心地がいい』と。軽くて伸び感があり、汗処理も体感してもらっている。赤外線防止は実感しにくいが、メディアを通じて情報を知ってもらい、精神的な安心感を与えられている」
4つの壁をクリアし、オリンピックで選手たちを身体的にも精神的にも支える盗撮防止ユニホーム。ミズノは今後、新たな商品の開発に力を入れるという。
「これからは、部活をしている学生や一般の社会人、日ごろから盗撮の恐怖に怯えている方々に届けられる商品作りに、この技術を生かしていく」
盗撮を防止するユニホームについて、教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授は「そもそも、赤外線カメラを使ってアスリートの写真を盗撮しようなんて言語道断としか言いようがない、おぞましい行為だ。一方で、何の悪意もなく撮影する人も多くおり、これまでアスリート側としても防ぎようがなかった。そんな中、20年という年月をかけ、新しい技術を使って、アスリートのパフォーマンスを下げない工夫もしつつ盗撮を防止するなんて素晴らしい」と絶賛した。近年、アスリートの盗撮が問題となっており、2023年7月に施行された撮影罪では「正当な理由なくひそかに性的な部位や下着などを撮影した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられる」がアスリートの盗撮は規制の対象外となっている。
これに対し、中室教授は「ある撮影が迷惑行為に該当するかどうかの判別は難しいが、ネットに卑猥な言葉と共に投稿するなど、“出口”においては悪意が明確であるため、厳しく処罰する必要がある。盗撮などの行為を行う人は本当にわずかであり、それ以外の多数はスポーツを楽しんでいる観客やファンだ。解決する方向に進んでほしい」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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