慶応義塾のトップが文部科学省の部会で行った提案が波紋を広げている。国公立大学の学費を年間150万円程度にするという内容で、仮に実現すれば、現在の学費から約100万円の値上げとなる。学費が高い私立大と国公立大の「公平な競争」が狙いというが、識者からは「大学への投資は日本の未来への投資。むしろ学費は安い方に合わせるべきだ」との声が上がる。(山田雄之)

◆「教育の質を上げていくために」中教審で発言

 「国立大の学納金(授業料)を年間150万円程度に設定する。公立大も同様の扱いとする」。慶応義塾の伊藤公平塾長は3月27日、自ら委員を務める中央教育審議会(中教審)の「高等教育の在り方に関する特別部会」でこう提案した。  急速な少子化で入学者数が約51万人に落ち込むと推計される2040年以降の大学教育などについて文科相が昨年9月に中教審に諮問した。

中央教育審議会の部会に示された国公立大の学費値上げを含めた提案書

 伊藤塾長は第4回の部会で「国公私立大の設置形態にかかわらず、教育の質を上げていくためには公平な競争環境を整えることが必要」と唱え、国公立大の学費値上げを主張。これにより一部の私立大は経営努力によっては国立より低水準の学費設定で競争に参加できるとして、学生の経済状況に応じた奨学金や貸与制度も整備するとした。  現在の国立大の学費は文科省令で定められており、標準額は年53万5800円。伊藤塾長の提案が通れば約3倍もの値上げとなる。一方、昨年度の私立大の入学者の学費は平均約96万円と大きく開きがある。

◆「大学に行けない子も出るんじゃ…」不安も

 現役の大学生や子どもを大学に通わせる親は、この提案をどう受け止めるか。  東京都内の私立大に通う大学4年の女性(22)は「高校時代、学費が安いから国立大を目指す友人も結構いた。そんなに値上げしたら大学に行けない子も出てくるんじゃないかな」と話す。国立大に娘が通う50代の男性会社員は「大学に入るまでにも教育費はかかったし、今でも学費の支払いは大変。下には小学生の子どももいるのに…」とぼやいた。  交流サイト(SNS)でも「年間150万円の授業料を払える家庭はそんなにない」「教育の機会均等が壊れてしまう」「私立大が授業料を下げればいい」といった批判が目立つ。

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 東京新聞「こちら特報部」が同省にあらためて尋ねると、部会の担当者は「各委員から意見をヒアリングし議論をしている最中。現時点で一つの意見が独り歩きしていくのは想定していなかったし、本意ではない」と困惑する。一方、国立大を所管する別の担当者は「どうして150万円という金額が出たのか。私立大の平均額より高いですよね」と首をひねった。  伊藤塾長の提言がどう取りまとめられるかは決まっていないが、京都大の駒込武教授(教育史)は「京大でも学費滞納で除籍とされる学生がいる。国公立大も十分に学費は高く、値上げはあり得ない話だ」と批判。むしろ問題の根源は別のところにあるとみる。

◆減らされ続けてきた「運営費交付金」

 2004年に国立大が法人化されて以降、国から大学への運営費交付金は徐々に削減され、24年度予算は1兆784億円と約1600億円減った。また、私立大の経常費補助金の24年度予算は2978億円に過ぎず、学生1人当たりに換算すると国立大生と比較して10分の1にも満たない。  「国立大も私立大も国から配られる資金が少ない。大学への投資は、日本の未来への投資であり、その受益者は日本社会全体だ」と駒込氏は強調する。「あらゆる大学の財政状況が逼迫しているのだから、『公平な競争環境』と唱えるならば、大学のトップの役割は、国に助成を増やすよう働きかけて学費を抑えることだ」 

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