5年前の2019年、学校法人の土地取引をめぐる横領事件で、大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、裁判で無罪が確定した大阪の不動産会社の元社長、山岸忍さん(61)は、当時、事件の捜査を担当した特捜部の田渕大輔検事(52)が、山岸さんの元部下を罵倒するなど、違法な取り調べをしたとして、特別公務員暴行陵虐の疑いで刑事裁判を開くよう求める「付審判請求」を行いました。

これについて大阪地方裁判所は去年、元部下への取り調べについて、「威圧的なことばや侮辱的な発言を行っていて、精神的苦痛を与える行為と言わざるをえない」などと指摘し、陵虐行為に当たるとしましたが、「こうした言動は、取り調べの一部だ」として、刑事裁判を開くことは認めませんでした。

山岸さんは、大阪高等裁判所に抗告していましたが、大阪高裁は8日に請求を認め、検事を被告として裁判を開くことを決めました。

最高裁判所によりますと、付審判請求が認められ、検事が刑事責任を問われるのは初めてです。

これまでの経緯

大阪の不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長、山岸忍さんは5年前の2019年、学校法人の土地取引をめぐる横領事件で、大阪地検特捜部に逮捕・起訴されましたが、裁判で無罪が確定しました。

山岸さんは捜査の中で、元部下が検事に机をたたいて罵倒されるなど違法な取り調べを受けたとして、2022年に特別公務員暴行陵虐の疑いで刑事告発しましたが、大阪地検が不起訴にしたため、これを不服として刑事裁判を開くよう求める「付審判請求」を行いました。

大阪地方裁判所は2023年3月、この検事の取り調べについて、「机をたたき、およそ50分の長時間、ほぼ一方的に責めたて続け、このうち15分は大声でどなっている。相手に精神的苦痛を与える行為で、みずからの意に沿う供述を無理強いしようとしている。取り調べの範囲を超えて悪質だ」と指摘し、陵虐行為にあたると認定しました。

しかし、「こうした言動は、取り調べのうちの一部だ」などとして請求は退け、山岸さんは、これを不服として大阪高等裁判所に抗告していました。

一方で、山岸さんは取り調べの違法性を訴え、民事裁判も起こしています。

この中で、元部下への取り調べを録音・録画した映像を開示するよう求め、2024年6月の裁判で、およそ5分間が再生されました。

映像では、元部下の男性が逮捕されたあとに、一転して山岸さんの事件への関与を否定するようになったことについて、検事が「山岸さんの会社の評判をおとしめた大罪人ですよ」とか「会社の損害を賠償できますか。10億、20億じゃすまないですよね」などと発言していました。

この発言について、取り調べをした検事は証人尋問で「誠実に取り調べに向き合っていない態度だと感じた。自分の供述の重みを理解してもらうためだった」と述べました。

民事裁判では、これまでに、この検事を含む4人の検事の証人尋問が行われています。

検事が刑事責任を問われるのは初「付審判請求」とは

「付審判請求」は、特別公務員暴行陵虐や職権乱用といった、検事や警察官などの公務員による犯罪の疑いを告発したものの、不起訴になった場合に、これを不服として裁判所に刑事裁判を開くよう求めることができる制度です。

裁判所が請求を認めると、公務員は拒否することができずに刑事裁判の手続きが始まり、裁判所が指定した弁護士が検察官役となって裁判に出廷します。

最高裁判所によりますと、この制度で検事が刑事責任を問われるのは初めてです。

「付審判請求」これまで22件の刑事裁判

最高裁判所によりますと、刑事訴訟法が施行された1949年から2022年までに「付審判請求」で22件の刑事裁判が開かれ、このうち、
▽9件で有罪
▽13件で無罪や、罪に問えないとする免訴が確定しています。

これまで問われたのは警察官や裁判官などで、検事が被告になるのは初めてです。

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