被爆2世の中に、いかに家族の悲惨な体験を伝えていくかを話し合い、家族の遺志を後世に伝えようとしているグループが広島にある。生前、家族の被爆死について一切語らなかった祖父と父のメモから、会ったことのない叔母の被爆死の実相を知り、語り伝えている被爆2世を通して新たな伝承の形を取材した。
被爆体験の「伝承者」
ヒバク2世の語ろう会 メンバー:
世界の平和を、そして核廃絶を求める象徴として、原爆ドームはここに存在しています
「ヒバク2世の語ろう会」は2022年5月に結成され、広島の平和公園などで、被爆2世を中心に家族の被爆証言を語り継ぐ活動をしている。
この会の代表、佐々木佐久子さん73歳。夫の怜(さとし)さんは生後2週目で被爆し、原爆症によるがんで亡くなった。それを契機に被爆者の体験を伝える「伝承者」として活動を始め、19歳で被爆した母・孝子さんの被爆体験も語り継いでいる。
ヒバク2世の語ろう会・佐々木佐久子さん:
被爆者がだんだんいなくなる中で、私たちが直接聞いた話を絶やさないようにしたいという強い思いでこの会を立ち上げた
会を立ち上げた伝承者メンバーとともに意見を交わす。
ヒバク2世の語ろう会・滝口裕子さん:
若い人の力を借りることは大切なんだけれども、繋ぎ目は被爆2世。親の背中を見て一緒に過ごしてきた時間があるからこそわかるもの、伝えられることがあるから
ヒバク2世の語ろう会・佐々木佐久子さん:
自分たちの考えをしっかり持ってないと揺さぶられるので、考えを共有しておくための意見交換です。
「いかに伝えるか」の悩みを共有
毎月の勉強会には、被爆2世や3世などおよそ30人が参加し、家族の思いや被爆の実相をどう伝えるかなど、抱えている悩みを打ち明けあう。
ヒバク2世の語ろう会 勉強会参加者:
被爆者の話をすればするほどわからなくなる。その人の本当に言いたかったこと、伝えたかったことがわからなくなる。そのジレンマで悩みながら講話しています
ヒバク2世の語ろう会・佐々木佐久子さん:
私たちが学んできたことを伝え、答えられる疑問には答え、難しいところは一緒に勉強しようというのがこの会
会場で熱心にメモを取る一人の男性、土屋勝豊さん(71)には、ある強い思いがあるという。
自宅で見せてくれたのは母親の遺品整理をしたときに見つけた1枚の紙。
ヒバク2世の語ろう会・土屋勝豊さん:
叔母が亡くなってどうしたのか。祖父と父は、叔母がここら辺にいるんじゃないかと兵隊さんに案内されてきたようです。
それは、20歳で亡くなった土屋さんの叔母・紀枝(のりえ)さんについて、祖父と父が残したメモ書き。
娘、兄弟の被爆死を一切語らなかった祖父と父のメモ
土屋勝豊さん:
これを見たときは“あっ”と驚いてしまいました。叔母がどういう風に見つかったか、何も聞いていなかったので、祖父も父も、本当に何も喋ってくれませんでしたね。話をしたくなかったんだと思いますね
被爆した家族を失ったいまでは、土屋さんが広島市の「家族伝承者」として語り継ぐことはできない。
土屋勝豊さん:
父親や母親が生きていないと、家族伝承者にはなれないと知ったときに残念だと思いました。一種の諦めはありました
しかし、「ヒバク2世の語ろう会」で伝えることができると知り、残されたメモを頼りに叔母の体験を語り継ぐことを決意。
土屋勝豊さん:
生きた証拠じゃないですけども、叔母の最後はどうだったのか、記録したかったんじゃないかなと、今は思います。
メモに託された祖父と父の思いを一般の人に伝える日がきた。あの時代に懸命に生きた叔母の物語を語る。
土屋勝豊さん:
私には、会ったことのない叔母が一人います。8月6日広島城の中国軍管区司令部で亡くなりました。
「焼けた鉄板に娘の死骸が張り付いていた」
そして祖父と父の思いがつまったメモを読み上げる。
土屋勝豊さん:
「民家が燃え、裏山も熱線の強かった部分が広い中に、直線を筋を入れて焦げるほど強い熱線を受け、駅前は多くの負傷者や阿鼻叫喚の地獄の相を呈する状態であった…」
土屋勝豊さん:
「家内と焼け跡を探ってみると、焼けた鉄板に娘の死骸が張り付いていて、哀れな悲惨な姿だった…」
土屋勝豊さん:
祖父も父も最後まで当時の様子を話してくれませんでした。「ひどいもんじゃった…」これだけでした。今では祖父が話をしたくなかった気持ちが少しわかります
土屋勝豊さん:
きょう私が話したことは、ほんとわずかな話です。被爆地には、まだまだ沢山の物語があると思う。どの家庭にでもある被爆体験を次の世代の人に話をしてほしい。きょう、叔母の話ができたことはとても嬉しかった
「どこまで伝わるか不安はあるが、この道を」
「ヒバク2世の語ろう会」は結成からまもなく2年。一歩ずつ前へ進んでいる。
ヒバク2世の語ろう会・佐々木佐久子さん:
私たちは体験していないんです。被爆者ではないので…。私たちの話がどこまで通じるのか、今でも不安。私たちでいいのかという思いがあったけど、皆さんが熱心に聞いてくれると、この道をいけるのかなと感じた。
広島市の伝承者養成事業「家族伝承者」は家族・親族が生きていることが条件。家族がすでに亡くなっていることで、伝承者になることを諦めて、貴重な被爆体験が語られないケースは少なくないという。「ヒバク2世の語ろう会」のように家族の大切な証言を残す活動は、これから、ますます大切になってくる。
(テレビ新広島)
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